第十三話 「殺意」
倒れるメメルさんを受け止め、暴風に後押しさせながら靄と距離を取る。
いつも雪のように白い顔が一層白くなり、身体には力が無い。
流血が酷い。僕が出来る応急処置程度では血も止まらないだろう。
「お前ッ……!!」
激昂し、我を忘れかけるところを堪え、瞬きの刹那に自分に強く言い聞かせる。
落ち着け。冷静になれ。平静を欠くな。それは死に繋がる。
熱を持ちかけた思考が水をかけられたように鎮静する。
狭まりかけた視野が逆に広がり、集中がいつもよりも深く、強く保たれる。取り戻した冷静さに同居した、激しい怒りによって。
「…………赦さねぇ」
短く吐き出す怨嗟の声。
俺はそいつを、これ以上ない確かな殺意でもって睨みつけた。
「お前なんかが傷つけて良いものは……この街には一片もない──!!」
潰れそうな程強く、剣を握りしめる。
こいつだけは。何があろうともこいつだけは。
父さんの街を蹂躙し、民を殺し、大事な人を傷つけたこいつだけは!!!
「殺す…………」
十年前を最後に、持つことはなかった暗い殺意。薄れることなんて間違ってもない。敵を殺す迄止まらない。
冷たい殺意と意志が俺の背中を突き動かす。
メメルさんを丁寧に屋根に横たえる。
俺が即座に何か出来ることはない。メメルさんが恐らく追いつかれたという事実は、僕から逃走という選択肢を奪っている。
靄は既に、俺の射程に入っている。
一秒でも早く、敵を殺す。
殺してから、神殿かドクターのところに駆け込む。それしかない。
「…………殺す!!」
剣を振るう。腕が振るわれる。
そして、どちらかが死ぬまで終わらない、
戦争が始まった。
◇◆◇◆◇◆
一方その頃。
「ふへぇ……もう無理、ゆっちん疲れたぁぁ」
「へこたれてる場合じゃないでしょう、上でもう始まってるかもしれないのよ!」
「だって、私ずっと引きこもり生活で……ねぇサッちゃん……だと被るしなぁ、んー、魔法使いちゃん? よし、魔女っ子ちゃんで!」
「ちょっ……それまさか私のこと!?」
「そうだけど?」
「私にはサリアっていう名前があるの、変な呼び方をするのはやめてもらえないかしら!」
「だってそのまま呼ぶって面白みがないしさ……あ、そうだ。魔女っ子ちゃん飛行使えないの?」
「使えたらとっくに使ってます。いいから黙って手と足を動かす!」
「うぇーぃ……」
二人は言い争いながら、せっせととっかかりや屋根を使って屋根の上に登ろうとしていた──。




