第十二話 「【ガームイェン流流砕術】」
──不味い。
僕は一人、冷や汗を流す。
アヤトも、ナナちゃんも気づいていないかもしれないが、明らかに空気が変わった。
エイリアスさんが纏っていた勝利への渇望が、殺気へと変化した。
はっきり言って、ナナちゃんの魔法の完成を待たずに勝ちかけてしまうのは想定外だった。
ナナちゃんの魔法は、他の魔法使いと比べてもあり得ないくらい威力が高い。
が、その反面、発動までが異様に遅いという欠点がある。
故に、僕ら三人のスタイルは、ナナちゃんの魔法が完成するまで僕らが敵を食い止める、というものだ。
そして、エイリアスさんの実力は、二人掛かりで抑えるのがやっとだ、と。
そう見積もっていたのだ。
しかし──予想に反して、アヤトの成長が早すぎた。
それこそ、エイリアスさんが若干の狼狽をみせ、僕にはじかれる程度の浅い攻撃を繰り出さざるを得なかったほどの一撃を、放ってしまったのだ。
その一撃が。
負けかけた、という事実が。
そして、その中に在って未だ負けていないという現実が。
彼を本気にさせてしまったのだ。
一流のシノビであり、殺気というものにふれ過ぎた僕にはわかる。
──苦戦、必至。
ここからの彼は、正真正銘の最強だ──!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
斬撃。
右手に持った片手剣を振り下ろす。
アヤトさんが刀でそれを受け止め、右脇からカムイさんの小太刀が迫る。
僕は小太刀が身を切り裂くより速く、その場でくるりと回転。
足を上げ、回し蹴りの要領でアヤトさんの胴体を蹴りぬいた。
「ごぁっ…………!!」
アヤトさんが呻き、数歩後退。
すかさず片手剣を引き戻し、小太刀と打ち合う。
小太刀は、僕の剣よりも短く、刀身にしても半分ほどしかない。
それはつまり小回りが利くということ。
しかし、武器の重量では遥かにこちらが上!
一発一発に渾身の力を籠め、小太刀の防御を崩していく──!
「させる、かよぉ!!」
アヤトさんが走り、唐竹割りに刀を振り下ろす。
──仕掛けるか。
僕は、右手に持っていた片手剣を左手に持ち直し、そのままそれを受け止める。
瞬間。
「が、あぁぁぁぁぁっぁ!!」
右方から苦悶の声がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
小太刀でエイリアスさんと打ち合う。
正直、食らいつくのがやっとだ。
得物の短さ故の小回りのよさも、一撃一撃の重さに負けて、返しに必要な距離が長くなり意味がない。
嵐のように斬撃を繰り出すその様相は、まさに、鬼神。
──持たない!!
もともと剣術は得意ではないからか、簡単に押し込まれそうになる。
「させる、かよぉ!!」
復帰したアヤトが吼え、刀を振りかぶり一撃を繰り出す。
モーションが大きいため、普通に繰り出せば隙だらけな一撃だが、僕が食い止めていることもあって無条件で通る。
そして、その一撃は劇的なまでの威力を孕んでエイリアスさんへと襲い掛かる!
その時。
エイリアスさんが片手剣を左手に持ち直した。
何故。いや、わからない。
そのまま、刀は左手の片手剣へと吸い込まれるように打ち下ろされる。
ガキン、と音を立て。火花を上げて接触した。
刹那。
腹部にとてつもない衝撃を受けた。
「が、あぁぁぁぁぁっぁ!!」
空気をすべて投げ出すように叫ぶ。
何が。何が起きた。
わからない。だが、何かの攻撃を受けた、それだけはわかる。
だが、何故。剣は左手に持たれている。
何が僕の腹部を貫いた──!?
視線を下に。
そこには。
剣を離した右手が、深々と腹に突き刺さっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……成程。やれば、出来るものですね」
右手を引き抜き、カムイさんが倒れるのを見届けてからそう呟く。
正直、出来るかは半信半疑だった。
理論上は出来るはずだ、とは思っていたが。
【ガームイェン流流砕術】
ただ剣を振るうだけでは決め手に欠けると感じた僕が求めた、決め手になりうる必殺の流派。
その流派の神髄は、すなわち、『流して、砕く』。
自らのうちに内包された力を自在に『流し』、任意の方向にて『開放する』。
書物にてそれを知った僕はすぐさま修練を積み、三年の後に体得、自らのものにした。
一回戦にて斧を弾き飛ばしたのはまさにこの流派の力だ。
そして、今。
僕は左手でアヤトさんの刀を受け止めた。
そして指を伸ばし、先を尖らせた右手をカムイさんの胴体に触れさせ。
刀によって喰らった衝撃をそのまま『流し』、カムイさんの胴体を『砕く』力へと改変させたのだ──!!
それは人一人を打ち倒すには十分であり、結果としてカムイさんはそこに倒れている、というわけだ。
剣を再び右手に持ち直す。
僕はそれを思い切り振りかぶると、後方のナナさんへとぶん投げた──!!




