第十話 「決戦」
「さぁお待ちかね! 新人杯最終戦が始まるぞぉぉぉ!! 先ずは選手の入場だぁぁぁぁぁ!!」
おおおおおおおおぉぉぉ!!!
相変わらずの、競技場を揺さぶるほどの歓声。
格子戸を抜ける前から体がビリビリと呼応する。
「北コーナー!!! 文句なし新人杯最強の個人!! エイリアス・シーダン・ナインハイトぉぉぉぉぉ!! 圧倒的パワーと華麗な剣技、風の様なスピードと鋭い機転で敵を翻弄する!! 今回もアッサリと勝負を決めてしまうのかぁぁぁ!!?」
格子戸を開けて入場する。
軽く手を振って歓声に応え、正面を見据える。
集中力を研ぎ澄ます。
それが損なわれて、勝てる相手ではない。
「南コーナー!! アヤト・ドウジマ!! カムイ・アラタ!! ナナ・ユキムラの三人だぁぁぁ!! 全くの無名! 前情報はゼロの三人だが、その実力は本物!! これまで二戦をあっという間に、それも何をしたかも解らせず完封!! ここまで快調に飛ばすエイリアスを打倒し得るかぁぁぁ!!?」
更に歓声。
向かいの格子戸から、あの三人が現れる。
ナナさんは、相変わらずビクビクしているけれど、アヤトさんはこちらに手を振って、カムイさんは柔らかく微笑んでお辞儀をした。
なんとなく気が抜ける思いだが、雑念を振り払う。
「さぁぁぁぁ、最終戦!!! ここまで双方無傷で抜けて来ています!! ファーストアタックはどちらの手に!! そして勝利の女神はどちらに微笑むのかぁぁぁぁ!!!!」
──まず、色は不要だ。
集中。視界からあらゆる色彩が消え、その分の能力を全て他の集中に掛ける。
聴覚。触覚。動体視力。反射神経。
全てが鋭敏に、より強力に感じられる。
世界はゆっくりと動き、まるで全てが粘性の液体の中に堕ちたようだ。
「試合ッ──!!」
前傾。
脚に力を込め、暴発しそうなそれをなんとか押し留める。
──準備は、完了だ。
「──開始ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
脚に込めた力を一気に解放。
その全てが推進力となり、視線に捉えた三人へと僕を突き動かす。
一対一なら負けないだろうが、今はこの人数差。
長期戦になる前に速攻で一人を仕留める──!!
瞬間。
ぞわりと背筋が凍った。
──何か、来るっ!!
目の前の三人は微動だにしていない。
だが、冴え渡った直感は、頭で理解するよりも遥かに早く本能で警鐘を鳴らす──!!
姿勢を敢えて崩し、前傾故下がっていた頭を更に下げる。
頭上を、背後から黒鉄の刃が通り過ぎた。
そのまま頭を抱えるように内側に、手を地面について飛び込み前転の要領で、しかし身体を投げ出さず前方に跳ぶ。
そのまま背後に視線を向けると、そこに立っていたのはカムイさんだった。
あり得ない。
この人はついさっき──どころか。直感が警鐘を鳴らして尚、まだ間違いなく前方にいた筈なのだから。
──解らないことを精査している場合じゃない!!
見れば、脚が止まりかけ、エネルギーは消えかかっている。
先の前転でより距離を稼ぐ為、エネルギーを利用してより強く地面を突いていたのだ。
つまり、アヤトさんとの距離は相応に縮んでしまっている──!!
鞘から剣を振り抜き、カムイさんに背を向けてアヤトさんに向き直る。
すると、アヤトさんが刀を上段に構え、今にも振り抜かんとしていた。
──成る程、強敵だ……!!!




