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第二話 「ガルムエント収穫祭:サイドビギナー」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇん……」


 大通りで愚図る少女を前に、俺は頭を抱えた。

 うん。気持ちはすごくわかるが、泣かれたって俺達も最早どうしようもないのだ。


「やっぱり私たちみたいな田舎者がこんなおっきな街に来ようだなんて無理だったんだよぅ……ねぇ、アヤトぉ……もう帰ろうよぅ……」


 地面についた両手杖(スタッフ)に縋りついてめそめそと泣きながらホームシックを起こしている少女に、俺は現実を突きつけた。


「……すまん、ナナ…………帰り道もわからん」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」


 啜り泣く、から大号泣に発展したそれを、俺は苦い顔で見ていた。


 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 ガルムエント収穫祭。

 カールダイト王国民ならば言わずと知れた超大イベント。

 広間には出店が山のように出るし、ありとあらゆる施設や店がキャンペーンを始め、夜には魔法使いが巧みに力を使い、綺麗なパレードまで行われるそうだ。


 今日、この収穫祭にあやかって一つの大会がある。

 コロシアムにて『ガルムエント(カップ)』を謳うそれは、国王陛下すら観戦に来るというほどの大掛かりなもので、俺達三人はそれに出ようとしていたのだ。

 ガルムエント杯にはいくつかの部門がある。

 新人杯(ビギナーカップ)金杯(ゴールドカップ)、そして達人杯(マスターカップ)

 それぞれ個人戦と団体戦があり、合計六つ。

 下から順番に、今までに冒険者や騎士、コロシアムのファイターとして立てた功績で選手が振り分けられ、俺たちはこの中でも新人杯の団体戦にエントリーするつもりだ。

 団体戦の人数制限は三人まで。

 俺達も丁度三人ということで、いろいろと都合がよかった。


 ガルムエント杯には選手の士気を上げるために、当然払われるファイトマネーのほかにも色々と特典がある。

 俺たちは『冒険者』になることを夢見ていた。

 新人杯で活躍すれば、優勝までいかずとも、実力が認められ本人が希望する場合、まどろっこしい手続きや審査をすっ飛ばして冒険者になれる。

 それも、ランクは『銀』からスタートで、パシリのような依頼の多い『銅』をすっ飛ばせる。

 もちろん優勝すればそれはそれで豪華な賞品が与えられるそうだが、流石に其処まではいかないだろうということで調べなかった。


 俺たちの村には、そもそも冒険者組合がない。

 大きな村にはあるところもあるのだが、うちはアーガス領の他の農村と比べても格段に小さな村だったから。

 前々からいつか都会に出なければと思っていた俺たちはこれを好機とみて、一念発起、前からしようと思っていた都会デビューを果たしたわけなのだ。

 

 そして圧倒的な人ゴミに酔い、迷い、今に至る。

 実は街は一度区画整理され、迷いにくくなっているらしいのだが、それでも田舎者には荷が重かったようだ。

 肩を落とす。

 時計塔を見ると、文字盤は九刻を既に過ぎ、もう半刻と残っていない。


「ねぇ、アヤト…………もう一度道を聞き直した方がいいんじゃないかな。大きなイベントだけあって、警邏はたくさんいるみたいだし……」

「さっきも聞いたけど、人が凄すぎて言われた曲がる場所もさっぱりわからなくて駄目だったじゃないか。他の方法はないか?」

「ない、と思うんだけど……案内してくれるような人がいるわけじゃないんだし。ほら、ナナちゃんも泣き止んで。みんなが困っちゃうでしょ」


 カムイが柔らかい口調でナナを慰める。

 俺が不甲斐ないばかりに、幼馴染の女の子に怖い思いをさせてしまった。

 なんとかして、ナナを笑顔にしてやりたい。


 ……いや、しかしどうしたものか。

 あと一刻のうちにコロシアムにつかなければすべてが水の泡だ。

 冒険者になるために重ねてきた訓練が無駄になってしまう。

 やっぱりだめもとでも誰かに道を聞いて、それを頼りに猛進するしかないかもしれない。

 ここがどこかもわからない以上、少しでも立ち止まるわけには──。

 

「すいません、少しいいですか?」


 いきなり声を掛けられて驚き、バっと振りかえる。

 立って居たのは全く知らない、けれどどこか好感の持てるような不思議な青年だった。

 身なりがいい。それに綺麗な金髪だ。恐らく、貴族だろう。

 年齢は、多分十代後半。カールダイト王国の規定成人年齢は十五だから、成人はしているだろう。俺たちと同じくらいだ。


「あの女の子はどうして泣いてるのかわかりますか? 見たところ、ご友人のようなので」


 もしかして、ナナが目立ってしまって、他の人の迷惑だから退かそうとしたのだろうか。

 ナナはまだ泣いている。気の弱い子だし、こんなに多くの人の中で道がわからなくなった、知らない地で向かうべき光を失ったという恐怖は、彼女が許容できるほど小さくはない。


「俺達、田舎から出てきたんです。でも道に迷ってしまって……」


 藁にもすがる気持ちで、俺は状況を話した。

 青年は困ったようなそぶりで顎に手を当てる。


「そうでしたか。うーん……手づから案内したいところなんですが、実は僕も少し急いでいて。案内できる人を用意することは出来ると……っ、よく見たら皆さん、武装していますね。もしかしてコロシアムに?」


 青年の問いに、俺が食い入るように頷くと、青年は胸を撫で下ろした。


「よかった、それなら僕が案内しますよ。僕もコロシアムに向かうところだったんです」

「ほ、本当ですか!?」

「よろしければ、是非。僕としても、この街での想い出が苦いものになってしまうのは心苦しいですから」


 青年が、天使みたいに輝く笑顔でそう言った。

 カムイが視界の端で泣き止んだナナと一緒に飛び上がって喜んでいる。俺もその中に混ざりたいくらいに嬉しい。


「是非、お願いします! 助かります、本当に……! あ、俺はアヤトって言います。あの女の子がナナで、となりの優男がカムイ」

「ちょ、優男ってなんだよ。アヤトが雑なだけだろ!? えっと、すいません。本当にありがとうございます」


 カムイが俺の物言いに意を唱える。

 ナナは、相変わらず恥ずかしがって隅で小さくなっていた。


「えっと……僕はエイリアスと言います。よろしく」

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