第八話 「借り物の」
【エクスカリバー】。
それは俺が一番ハマっていた、一番やりこんだゲーム、『フォー・ライト・ファンタジー』の最強武器の名前だ。
刀身は黄金に輝き、鍔には黄金の装飾が施された西洋調の両手剣。
説明文は確か、『かつて栄華を誇った国の王が振るった最強の一振り。輝く刀身は持ち主を英雄へと導く』だとかなんとか。とにかくチープなものだったが、俺にとっては長々と書き連ねられた御洒落な文章よりもよほどかっこよく思えた。
もちろん元ネタはあのアーサー王伝説の、主人公アーサー・ペンドラゴンが湖の乙女から借り受けた剣のことだろうが、そのころ俺は小学校に入ったばかりだったし、そんなことは知らなかった。
ゲットするまでに恐ろしいほどのミッション達成が必要で、あと一歩のところで出てくる裏ボスに俺の心は何度折られたことか。
そうして何とかその剣をゲットした時の達成感といえば、それは得も言われぬものだったと未だに記憶の上の方に残っている。
俺にとって、最強の武器とはそれであり。
この才能は俺の最強を、忠実に再現する──!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふっ!」
気合いと力を込めて剣を引く。
ブチブチと糸が切れ、剣が解放される。
僕はそのまま剣を引きずるように体を軸に回転し、遠心力を利用して男に切りかかる──!
「…………くっ」
男はそれを軽く後ろにステップして避ける。
遠心力に体を取られて若干崩れた体勢を立て直す。
駄目だ。
剣の性能は、未だ見せていないところも含めて遺憾なく高い。
だが、肝心の僕の性能が圧倒的に劣っている。
本来ならば、たゆまぬ鍛錬によってそのあたりは補強するのが筋なのだろうが。
そこは才能の唸りどころだ。
「再構築…………!」
僕の体が瞬間、再構築される。
足はより疾く走れるように。
腕はより強く振るえるように。
自分の性能を引き上げる──!
──僕に与えられた、僕のではない才能。
名は、【再構築】。こちらの魔法語でエーミット。
魔力を消費し、物質を想うがままに構成し直す魔法。
どのように作り直すかはすべて想像や妄想の域でいい。
より速く。より強く。
そんなアバウトな願いを忠実に実行し続ける才能。
「…………よし」
小さく頷いて、空いた間を疾走。
距離にして三歩ほどのそれは、強化された脚によって一瞬にして零に還される。
「ハァァ!!」
叫び声とともに剣を振りかぶり、打ち下ろす。
「……想定外だよ。やるなぁ。仕方ない」
男はそれを避けもせず。
頭に吸い込まれた剣は抵抗もなく男の頭をかち割り、脳漿をぶちまけた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
やった、のか……?
手ごたえは完璧だ。確実に硬いもの……恐らく頭蓋骨、を割った。
剣が消える。
素がないため魔力を直接物質に構築し直したので、モノとして現世にとどまる力が弱すぎるのだ。
体の性能は上がったままだが、魔力はほとんどないに等しい。
──いや待て。っていうかさっきから自然に適応してたけど魔力ってなんだよ。MP?
って、そんなこと今はどうでもいい──!!
「皆さん、大丈夫ですか!」
声を上げ、目を凝らしてみんなの顔色を伺う。
……良かった。よく見ると、さっきよりは怯えの色がなくなってる。
あと、少しだけ僕が怖がられてないかとか心配したけれど、杞憂だったみたいだ。
「…………お前がやったのか、これを……」
父さんが信じられないような口調で声を漏らす。
「……はい。僕の、魔法で」
僕が肯定すると、父さんは結構な高さはある階段の上から飛び降り、何事もなかったかのように着地すると僕に近づいて、強く抱きしめた。
「…………申し訳なさそうな顔をするな。よくやってくれた……!」
……複雑な心境だ。だってこれは、僕の力じゃ、断じてない。借り物の反則だ。
けれど、皆を護れた。みんなの怯えを取り払えた。
今は取り敢えず、それだけでよかった。