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Prologue 「生前」

 四歳の時の話だ。

 俺は初めて、ゲームというものに触れた。

 ボタンの幾つかついたネズミ色の小さな箱は、ひとたびテレビに接続されるとその性能をいかんなく発揮し、たくさんの体験を俺にたたきつけた。

 あのころやっていたゲームは、某国民的ヒーローが主役のただの双六で。本当にサイコロを振って遊ぶ双六といくらかも違わないようなものだったけれど。それでも、まだ子供だった俺にとっては新鮮にすぎる体験だった。

 俺は、ほかの子供よりも少し早くそれに熱中し始めた。


 十年後、俺が十四歳の時の話だ。

 当時の俺が熱中しているゲームはレースゲーム。技術の発展著しく、十年の間にゲーム機の性能も大きく変わっていて、なんとインターネットで全国の知らない人と対戦、なんて一昔前では考えられなかったことが現実と化している。

 手軽にいろんな人と一緒に遊べることに、俺はまず驚愕し、そして歓喜したものだった。ゲームはたくさんの人と遊ぶ方が絶対に楽しいからだ。

 学校から帰ってくると、一目散にリビングのテレビに接続されたゲーム機の電源をオンにし、ハンドル型リモコンを持ってソファにスタンバイ。リモコンも十年前は有線だったのに、すっかり邪魔な線は取り払われていた。

 タイトル画面から何度かボタンを押してオンラインに接続し、全国の猛者とのマッチングを待った。


 程なくして、レースが始まった。

 カメラがざっとコースの全容を映してから、俺のマシンの後ろに落ち着いた。

 ぶおんぶおんとエンジンのSE(サウンドエフェクト)

 小粋な音とともに横に三つ連なったランプが順に赤に点灯していき、最後のランプが点灯、最後の音が鳴ると同時に赤いランプは一斉に青に変わり、マシンが風のように走り出した。


 ──そして、同時にレースは終了した。

 いや、終了したというのはゲーム的な処理で終わったわけではない。依然、レースは続いている。


 だが、レースはもう終わったも同然だった。

 一つのマシンが先頭に躍り出るや、スタートダッシュの勢いを一切落とさずに走り続け、後続との差をみるみるつけ始めたからだ。

 何が起こったのか。当時の俺には理解が及ばなかった。

 “それ”の存在を知らない俺は、呆然とありえない速度で小さくなっていくマシンを眺めていた。


 俺はずっと、多分クラスの誰よりゲーム機と向かい合っている自信があったが、そのテのズルとかの知識には一切疎かった。

 俺が持っている携帯ゲームにはなにやらソフトを無尽蔵に無料で入れられる違法ソフトがあったらしいのだが、それだって俺が存在を知ったのは流行が落ち着いてからだったし。

 そういうわけで、俺はこの不可解を詳しい友達へと持ち込んだ。電話を掛けると友達は快く説明を了承してくれた。


「チートってやつだよ、それ」

「チート?」

「うん。お前、宿題以外の時間ずっとゲームやってると思ってたのに。始めて出会(でくわ)したなんてな。普通もっと遭遇するもんだと思うけど」


 俺は少しむっとした。流石にその評価はなんとも失礼な気がする。が、思い当たる節がありすぎて反論もできなかった。友人の推測は至って事実を突いていたのだった。


「そんなことは、まあいいんだよ。運がよかったんだろ。問題はそれが何なのか、どういうもんなのかってことだよ」

「慌てんなって。説明するから」


 友人はわざとらしく一つせきをした。


「チートってのはデータ改造のことだよ。英語でズルをするって意味らしい。データ改造して普通ではありえないような挙動起こしたり、死なないみたいな追加効果付与したりすんの」

「……それって、ズルじゃないか」

「だからそう言ってんだろ。どう考えたって平等じゃねえし」


 俺は不快感から眉をひそめた。

 俺はなんというか、昔からそういうズルとかには敏感だった。大好きなゲームのことに関しては特にだ。

 俺はそんなにゲームの腕はすごくないけど、中には腕を研鑽してうまくなることを楽しみにしている人だっている。

 そんな中ズルで勝っても……少なくとも俺は、嬉しくないと思う。他人の努力を踏みにじるような行為じゃないか。


「ゲームは勝てなきゃ面白くないって人もいて、そういうやつに限ってへったくそなんだよ、これが。世界の不変のルールだな。だから安易にズルに手を出したりするのさ。ゲームすること自体面白いってお前にはわからないだろうけど。まぁ、言って俺も理解に苦しむけどね。逆にみじめになるよ、俺なら。実力で勝てねーって言ってるようなもんじゃん。あいつらも自己防衛のためのいい加減な言い訳くらい用意してんだろうけど、そんな暇あったら練習しろってね」


 この友達はゲームは勝ってこそ楽しいってやつではあるけど、根本的に性格ができてるからズルだけはしなかった。憎たらしいところに罠を置いて引っかかってるやつを見るのが好きというのは本人の弁で、いい性格をしてるとは思ったが、それも彼のたゆまぬ研究に裏打ちされた技術に違いなかった。


「まあ、チーターってゴキみたいに湧いて出てくるからなあ。一人出てきたってことはデータがアップされたってことだから、春の土筆(つくし)みたいに生えてくるから気を付けろ。遭遇したらまあ、諦めろってことで。ああいうの数が多いから取り締まれないわ配信元も叩けないわで死ぬほどうぜーからな。ま、俺はチーター相手でもテクニック重視のやりこみゲーなら絶対負けない自負あるけど。でもお前普通……ってか巧くないからあたったら諦めろって感じだな。じゃあなー」


 通話が途切れた。頭の中のもやもやは晴れた気がしたけど、胸の中になにか別のしこりが出来た気がした。


 ゲームは無限の可能性を持っている。そりゃあ、そういう楽しみ方も可能ではあるのだろう。

 でも、手を出していいものなのだろうか。他人の時間をフイにし、努力を否定し、不快感を植え付けるそれを、許していいものなのだろうか?

 答えは出る。でも、だからなんだという話だった。


 そして、俺が十八歳の今の話。

 俺はいつも通りゲームをしていて。

 母さんがリビングの後ろのキッチンで呆れつつ、微笑みながら俺を見ていて。

 宿題やったの、なんて問いにやったよ、と返してやって。

 やっていたのはロボット対戦ゲーム。

 自分の機体を選択して、いざ戦おうって時に。

 ──胸が、急に苦しくなった。

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