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選択肢研究


 リリーは恍惚な表情をして教室に戻った。すでに昼休みである。リリーは転校初日にも関わらず午前の授業をすっぽかした。


「ちょっと、あなた何やってるのよ!」

 魅杏が教室に戻ってきたリリーに一目散に言ってきた。

「魅杏、私のことはリリーと呼んでくれ。へへへ」

「な、何にやけてるのよ。もう。リリー、私が無理やり強権で入れたんだから、ちゃんとしてよ」

「それは、悪かったな。すまん」

 魅杏はこの統御学園の理事長だ。中学生理事長。巨大な権力を持つ生徒会の生徒会長より、遥かに巨大な権力を持つ理事会の理事長だ。その理事長が特権で推薦で入れた生徒がリリーだ。リリーの学校生活の姿勢の悪さは無理やり入れた魅杏の評価に直結する。

「わ、分かればいいのよ」

 魅杏はぷいっとリリーから顔を逸らし、頬を朱に染める。


「ところで、魅杏。飯ってどうなんだ?」

「えーと、教室とかで家から持ってきたお弁当を食べている生徒が多いわ。次いで、学食で食べる生徒もいる。食堂には購買部も併設されていて、パンやジュースやおやつなどがあるわ。まぁ校内にも自販機があってそこで飲み物を買うってこともあるわね」

「……普通だな。魅杏はどうなんだ? 外食にでも行くのか?」

「はぁ? そんなのしないわ。私は理事長でもあるけど、生徒でもあるのよ。日中に校外に出るなんて、外出許可とか必要でしょ。こっそり、バレないようになんていけないことよ」

「なぁなぁ、そんな固いこと言うなよ」

 リリーはその高身長を生かし、魅杏を抱くように腕を回した。

「ちょっ、やめてよ」

「外へ食べに行こうよ。ねっ」

「ダメだってば」

「君に大切な話があるからさぁ」

「……な、何よ。大切な話って」

「来たらわかる」

 リリーにそう言われると魅杏は少し考えあぐねる。

「……わっわかったわよ」








「それで、どこ行くの?」

 魅杏はリリーに連れられ校門の外へと出た。

「そうだなぁ」



【選択肢】


①『ハンバーガーショップ』


②『お茶屋(日本茶や和菓子などが楽しめる)』


③『大衆寿司屋(回転寿司)』


④『大衆中華料理屋』


⑤『高級寿司屋』



「よしっ、回らない寿司に行こう!」




 リリーと魅杏は高級寿司屋にやって来た。魅杏は、リリーに気を利かしカウンターではなく、個室へと頼んだ。


「それで、リリー。た、大切な話って何」

「それは…………」



【選択肢】


①『乾杯する』


②『料理を注文する』


③『話をする』


④『意味ありげな振るまいをする』


⑤『別のところに行こうと提案する』


⑥『もう、帰る』



「よしっ、まずは乾杯だ! とりあえずビール」

「ダメに決まってんでしょうッ!」

 魅杏がすかさず、ツッコミを入れた。

「な、何でダメなんだよ」

「未成年でしょ! 店側も提供したら罰せられるわよッ!」

「そんな、固いことを言うなよ」

「ダメたっら、ダメッ!」

 結局、リリーの願いは魅杏に聞き入れてはくれなかった。


(…………選択肢の能力は絶対になると思っていたのだが……例外もあるのか)

 すると、再び選択肢が現れた。今度は①が欠番となっていた。

(…………再選択だ。……加奈子ときもそうだったな。必ずしも一度選んだ後に選択肢は消えるとは限らない。この事にあまり驚きはないが、選んだ事象が必ずしも強制されるとは限らないことに驚きだ。まぁ、とりあえず②だな)


「魅杏、私は大トロとアナゴ」

「はぁ? 普通、最初はコハダやタイやヒラメやイカなどの白身魚や味の薄いものからでしょ。そんないきなり味の濃いものから頼むなんて、コハダを頼むときなんか物足りないと感じるでしょうが!」

「だったら、ガリを食べればいいじゃん。あれで口の中をさっぱりしてから食べればいいことだろ。って、あれガリがない」

「回転寿司ならともかく、こんなところではテーブルにどっさりとガリなんて置いてないわ」

 とは言うものの、魅杏はリリーの注文通りに大トロとアナゴを頼んだ。しかし、魅杏自身はヒラメを選んだ。


「んーー。これが大トロか。脂が乗ってて旨い。さすがは高級寿司屋。いいところのマグロを使ってるぜ」

「一応言うけど、それ冷凍だから。まぁ、近年の冷凍技術は優れていて味があまり劣らないんだけど……。それより話を……」

 その時、リリーの前に選択肢が現れた。今度は①と②が欠番だ。

(……ふむ、またしても再選択か。だが、これでわかった。選択肢の能力は再選択もできる。ただし、一度選んだものは欠番となるということか。まぁ、そろそろ③を選ぶか)


「魅杏、大事な話があるんだが」

「な、何? (ってか、『大切な』話じゃなくて『大事な』話に刷り変わってる)」


「魔王トウキョー……いや、カンパニーのことなんだけど、詳しく聞かせてくれ」


「……反社会的な組織よ。前にも言ったけど、その傘下には城東会がいる」

「その、城東会はどうやってシノギを?」

「用心棒、賭博、麻薬密売、ノミ屋、ダフ屋、ヤミ金融、詐欺集団の元締めとか」

「……みかじめ料っては?」

「あるわね。縄張り内の風俗店や飲食店ならとられるわね」

「寂れた工場ってのは?」

「うーん。どちらかと言うと地上げね。不動産もやっているから。というより、何で寂れた工場なの?」


「……加奈子って知っているか?」

「あぁ、もちろん。……そうか、あの娘ね」

「その反応は何やらいろいろと知っているようだな」

「そんなに知っているわけではないわ。あの娘はもともと、お嬢さんだったのよ。アパレル系の工場だったわ。でも、時代は国内のアパレル工場から人件費の安い海外のアパレル工場に移ったわ。加奈子の会社の大口のお得意様も飛んで……経営も傾いて……そのまま…………」

「何でその事を知って、加奈子を助けないんだ」

「っ!? …………加奈子の父親が苦しいところを見せまいと頑張っていたけど、でも結局は……その事を加奈子が知ったのはもうダメなときだった。そのあと私に相談を受けたけど……どうしようもなかった」

「それで、最近まで加奈子はつらい状況にあった」

「…………それって、さっき言ったみかじめ料? というより地上げね。……なるほど、確かに城東会の縄張りね」

「何とかならんのか?」

「……お金では難しいこともある」

「そうか」


 リリーがお茶をずずっと飲むと、選択肢が現れた。今度は①、②、③が欠番だ。

(この④は何だ? 選んでみるか)

 リリーが④を選んだその時。



【選択肢】


①『微笑む』


②『ウィンクする』


③『魅杏を見つめる』


④『髪をかきあげる』


⑤『魅杏に近づく』



 ……っ!? さらに詳しい選択肢がっ!? たしかに、意味ありげな振るまいといっても曖昧だ。何をするかは明確ではない。ふむ、なるほど、追選択もできるのか。

 選択肢の能力の奥は広いな。たしかに教授の言う通りだ。まだまだわからないことはあるが、これから選択肢をもっともっと使うとわかるのか?

 とりあえず、『再選択』、『追選択』ができることはわかった。

 よしっ、③を選ぼう。



 じーーーーーー。

「なっ、何? 私の顔に何かついてる?」

 じーーーーーー。

「なっ、何よ。そんなに見ないで」

 じーーーーーー。

「も、もうっ!」

 魅杏は、頬を朱に染めぷいっと顔をそむけた。

(かわいい)

 リリーが率直な感想を思ったその時、再び選択肢はやって来た。


(今度は、③が欠番だ。しかも、追選択の再選択までいけるのか。よしっ、⑤を選ぼう!)



 リリーは席を立ちあがり、魅杏の隣に座った。

「……なっ、何?」

「いや、ちょっと魅杏の隣に座りたくて……ね」

 すると、みるみる魅杏の顔は赤くなる。

「ちょ、ちょっと……なっ、何よ……もぅ」

 リリーは魅杏を弄んだ。リリーが満足したその時。


 またしても選択肢が現れた。その選択肢は意味ありげな振るまいの追選択の選択肢ではなく、その前の選択肢だった。今度は、①、②、③、④が欠番となっていた。

(…………これが選択肢の能力。『戻り選択』もあるのか。『再選択』、『追選択』、『戻り選択』この三つが明らかになったことでも十分な収穫だ。ここは⑥を選ぶ)



「魅杏、帰ろうか」

「そうね、帰るかしら。って、もう3時じゃない!? こんなに話し込んでたの!? 今から戻っても授業に間に合わないじゃない!」

「ははは、仕方ない」

「仕方ないじゃないわよっ! あなた、今日が転校初日なのに、一つも授業に出てないことになるのよっ!」

「わかった、わかった。明日から頑張る」

「その台詞は絶対に頑張らない台詞よっ!」



【選択肢】代金は……


①『リリーが払う』


②『割り勘』


③『魅杏に払ってもらう』



「じゃあ、魅杏。勘定をよろしく!」

「ちょっと、えっ、私のおごり?」

「こんな高いところ私には払えないよ」

「だったら、何でここに来たのよっ!」


「それは、魅杏が私の『お財布』だからだっ!」




「もう、リリーのバカッ!!」




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