千景 遭遇
月曜の朝、統御学園の理事長室には理事長である魅杏と新入生のリリーが、ガラスのテーブルをはさんで話し込んでいた。
「しかし、本当に理事長なんだな」
「言ったでしょ。学校法人統御学園を買収したって」
「…………前理事長はよく渡したな。今頃遊んで暮らしてるだろう」
リリーが前理事長のことを言うと魅杏は顔を落とし、静かに語った。
「……死んでるかもね」
「えっ!?」
「前理事長は……その暴力団だったのよ」
「ヤクザが学校経営していたのか!?」
「そうよ。別に私立学校だけではなく学習塾もおそらく経営してるでしょう」
「にわかに、信じられないんだが……」
「城都会って言ってね。やつらは銀行以外全部あるわ。病院も、学校も、上場企業も」
経営者と言ってもその人生は多岐にわたる。
株式公開を達成した者、廃業してサラリーマン
なった者、首を吊った者、政治家に転身した者、ヤクザ関係者になった者、行方不明になった者、会社を高値で売り払って遊び暮らす者、刑務所にぶち込まれた者、東京湾に浮かんだ者……。ビジネス界にしがみついている者は選ばれし者なのだろう。
統御学園の前理事長は以前、会社経営をしていた立派な経営者であった。しかし、経営していた証券会社倒産後に城都会のインテリヤクザとして拾われヤクザとなった。城都会の事業拡大で学校に手をだし、そこの理事長として選ばれた。だが、腹心は学校の理事長なんて喜びはしなかった。いつか、こんなところを逃げ出したい。そう思ったやさきに、魅杏が現れた。魅杏の破格の金額で理事長の席を渡し、そのまま物価の安い海外へ高飛びをする。高飛びが成功したかどうかはわからない。
「簡単には逃げれないと思うのだけど……。まぁ、前理事長なんてどうでもいいわ。私は暴力団から、この学園を救ったわ」
「……もう、この学園には黒いやつらの手に染められてはいないのか?」
「そう思いたいけどね。まぁ、教師たちは本当にホワイトだし、前理事長が真っ黒だったのよ」
「…………その……嫌がらせは」
「…………あるかも知れないわ」
リリーは思い出す。加奈子にみかじめ料を脅し取ろうとしたヤクザのことを。半殺しにして、逃げて行ったが……また来るかもしれない。お礼参りをしに来るかもしれない。
「その、城都会ってのに公安はどうしてんだ」
「ちゃんと、見張ってる。私服警官が近くにいるわ」
「……でも、市民を不安にしてるんだがな。かつあげしようしたり」
「カントー地方への上納金もあるからね。金にがめついのかも」
「ん? カントー地方への上納金って? カントーにもいたのか?」
「詳しいことは知らないけど、カンパニーと言われる組織があるの。その傘下が城都会よ」
「魔王とかいないのか? そのカンパニーってのは?」
「魔王? そう呼ばれてるのか知らないけど。……いないと思う」
(……どうやら、本当に異世界に転生されたらしい。教授はカントーから田舎へと飛ばしたのではないのか)
「魅杏。何から何までありがとう。お礼にキスしてあげようか」
「いっ、いいわよ。別に」
顔を朱に染めた魅杏はリリーのお礼を断り、教室へと向かった。
「えーー。転校生を紹介する。入って」
加奈子と魅杏の担任教師に促されると、リリーは教室へと入る。
【選択肢】
①『「リリーです」と言い会釈する』
②『「リリーで~す」と可愛い子ぶる』
③『「リリーよ」とぶっきらぼうに言う』
④『「この中に、宇宙人(ry」と電波なことを言う』
⑤『ここぞとばかりに、颯爽と登場する』
(最初が肝心よね。ここは⑤を選ぶわ)
「みんなーー!!」
リリーはガラガラと教室の扉を勢いよく開くと、ごろごろと床を転がりながら、びしっと指を天井に突き上げた。
「私が、勇者だッ!!」
「…………………………………………」
教師、生徒一堂静まり返る。
リリーは最初の登場に失敗した。
「あーー、リリーさんだ。みんなよろしく」
最初に口を開いたのは担任教師だった。
「くっくっく。このクラスはみんないい子ちゃんだな。静かすぎる」
登場にすべって、静かになっているのだ。それをリリーは気づけずにいた。
「…………勇者ね」
「……ねぇ」
「ん?」
ホームルームが終わったあと、リリーは加奈子や魅杏以外のクラスの生徒に話しかけられた。
身長は低めで、寝ぼけ眼で、制服の上に膝まである白衣を着ていて、なぜか頭にはネコミミの帽子を被っていた。見た目でクールな少女だと感じた。
「あなたは、勇者なの?」
「そうだ」
「悪いやつを倒すの?」
「魔王を倒す」
「魔王?」
「そう、魔王トウキョーだ。知っているのか?」
「いや、知らない」
「そうか」
それで、会話が終わったと思ってリリーは席を座り直すと。
「頼んでいい?」
「えっ? 何を?」
リリーはその少女に振り返らずに答えた。
「ある悪い人を倒して欲しいの」
「私は、青春がしたい。今にしか、ここにしかできないことだ」
「……その青春を脅かす人たちがいたとしたら?」
「………………」
「………………」
「……人の青春を邪魔するやつは、地獄行きだ」
リリーは席を立ちあがり、少女に振り向く。
「君、名前は?」
「千景」
「ちかげ。千景か。うん、覚えた」
「話、聞いてくれる?」
「ああ。聞こう」
リリーと千景は教室を離れ、化学室にやってきた。千景いわく、ここが私の城だと言う。
「悪いやつってヤクザか?」
「……どうしてわかったの」
「まぁ、今朝聞いたからな。ひょっとしたらだよ」
「その、ヤクザがね……学校近くに黒塗りのベンツを横付け、にらめつけてくるの」
「そいつらをぶっ飛ばせと」
「そういうことになる」
「しかし、にらめつけてくるだけだろ。何か実害があったのか?」
「ううん。特に被害があったわけじゃないけど……怖いの」
千景の通学路となってる道路には、城都会の者が統御学園の生徒を威嚇しているらしい。経緯として、魅杏の学園の買収があってのことだろう。加奈子の一件は関係ない。
「しかし、ぶん殴るだけではそれで終わらないぞ」
「それでも、何とかしてほしい」
小さな少女にそう言われると、リリーは無下に断ることはできなかった。だから。
「報酬は貰えるんだろうな(ゲスボ)」
「えっ!?」
「成功した暁のお礼さ」
「…………うん。わかった。何がいいの?」
【選択肢】
①『私とデートしてほしい』
②『君にキスしてほしい』
③『20万円がほしい』
④『君のネコミミ帽子がほしい』
⑤『私をなでなでしてほしい』
⑥『いや、やっぱり何もしてほしくない』
⑦『そのおみ足で、私を踏みつけてほしいんだッ!!』
「そのおみ足で、私を踏みつけてくれッ!!」




