黒ずくめの男たち
私は中学生勇者、リリー。
おもちゃで同級生の加奈子の頼みで、加奈子の母親の百合子を探しに行って、黒ずくめの男の怪しげな取り引きを目撃した。
取り引きを見るのに夢中になっていた私は、背後から近づいてきたもう一人の仲間に気づかなかった。
私はその男に睡眠薬を飲まされ、目が覚めたら……
「う、うーん」
ひんやりとした空気がリリーの頬を撫でる。
「どこだここは」
リリーはマットレスの無いパイプベットに横たわっていた。服に乱れはない。百合子に女であると証明する時に、サラシを引きちぎり、ワイシャツのボタン数個が開き、谷間が見えること以外に着衣の乱れはない。
「…………独房か」
壁はコンクリート製でできていて、見上げるとブロック塀のブロック一つ分の小窓があり、縦に鉄格子が突き抜けている。天井も床もコンクリート。おかげで室温が低く、ひんやりとしている。小窓の反対側に頑丈なドアが、この閉鎖空間を作っていた。
「よっと」
リリーは起き上がると、自分の身体を見る。乱暴なことはされていないと確認する。手首も手錠はされてはいない。足首にも足錠はされていない。
「そうだ」
リリーは自分の胸の谷間に手を突っこみそれを探す。百合子からの手紙だ。リリーは手紙を自分の谷間に入れていた。スーツは魅杏からの借り物なのでポケットに入れていると、手紙の存在を忘れて返してしまいそうなので自分の身体に入れていたら忘れないだろうと入れていた。
「手紙は無事だ」
リリーは手紙の安否を確認するとホッと胸を撫で下ろした。しかし。
「あれっ!? スマホがない!」
リリーはズボンのポケットをまさぐると、スマホが無いことに気づく。
「……奪われた」
「アニキ、どうします」
「とりあえず、取り引きを見られていたことは仕方ない」
「やはり、殺りますか」
「だが、そうとはいかない」
「なぜです?」
「所持品検査をしたときこいつが出てきた」
「スマホですか」
「このスマホ、インカメの近くにマークがある」
「何なんですか? このマーク」
「カンパニーのマークだ」
「っ!? ということは、カントー出身の」
「さぁ、それはわからん。あいつがカントーに何らかの関わりがあることはたしかだ」
「ならば、すぐに解放を」
「待て」
「なぜです」
「このマーク、よく見ると本家ではない。外部取締役ってところか」
「……ということは、城東会にもカンパニーにも話は流さなくていいんですか」
「まぁな。だがカンパニーに少しでも関わりがあるのなら、情報屋としてやろう。仮に始末したとしてカンパニーから言われるのは厄介だ」
「あいつ、スパイになりますかね」
「だったら、このスマホに連絡先を登録している人間に頼むまでだ」
「この中に親しい人物や重要な人物いますかね」
「フッ、とりあえずこの加奈子ってヤツは重要そうだ。律儀にプロフィール欄に、飯と寝床を提供してくれるって書いてある」
「あっ本当ですね。なんだこのおもちゃだ……は」
「知らん。どうでもいい」
「アニキ、このまま尋問は……」
「待て、もうじき『あの方』が来られる。そっちの方の対応が先だ」
「はっ、了解です。アニキ」
「くそっ、開かない」
リリーは何度もドアを開けようとする。しかし、鍵がかかっていて押しても引いても開かない。
「開かないし、スマホは奪われたし……」
リリーの力でも流石に頑丈なドアを蹴破ることはできない。同じく小窓の鉄格子を粉砕できても
その小窓から長身の身体は抜け出せない。
「パイプベットをバラしても、道具になるとは思えんし」
リリーはパイプベットに腰を掛ける。独房と評しても、洗面所も、トイレもない。リリーはどうしようもなく、うなだれた。
夜も深まり、一台の黒いメルセデスベンツが道路を駆ける。
「今日、母さんはカントーに出張だ」
「………………」
「すまないが、今日は父さんのところで我慢してくれないか」
「………………うん」
「そうか。ありがとう」
車のなかには父さんと思わしき男がいた。おそらく、子供だと思われる少女がいた。
会話は少なく、父娘の微妙な関係を思わせる。
その時、父親の携帯電話が鳴る。
「なんだ。ああ。もうすぐ、そっちへ着く。……何? カントーの人間? ……カンパニーからの…………。監視か? …………そうか、わかった。立ち寄る」
「あの方が尋問に立ち寄るそうだ」
「アニキ、大丈夫ですかね」
「何がだ」
「あいつ、コンクリに頭を打ち付けないかと」
「そんときはそんときだ。仮に死んでも、このスマホを調べる。何人か連絡先があるようだし。そこを当たればいい」
「そいつらに、カンパニーのことを話してるとは思いにくいのですが」
「まぁ、そうだろうな。普通は誰にでも話したりしない。だが、普段の生活はわかる。それであぶり出せることもある」
キキっと一台の黒いメルセデスベンツが止まる。運転手はすぐさまうしろに回り、後部座席のドアを開く。
まず、一人の少女が出る。
その次に黒い紋付き袴の男が出る。
運転手は頭を下げ、少女と男が出るのを確認してからドアを閉め、運転席に戻り車を駐車場へと駐車しに行く。
「お待ちしておりました」
長髪の黒服の男は黒い紋付き袴の男に頭を下げそう言った。うしろについた太った黒服の男も頭を下げる。
「で、一体どんなやつだ」
「男装しておりましたが、女です」
「女ぁ? カンパニーが女をそんな使い方はせんと思うがな」
「そう思います。なので個室に置いております」
「その女をどうした?」
「まだ、何も。所持品検査したぐらいです。これが女が持ってたスマホです」
長髪の黒服の男が黒い紋付き袴の男にリリーのスマホを渡す。
「…………カンパニーのマーク……しかし、これは……分家か? いや、外部監査ってところか」
「おそらく、本家の人間ではないと思われます」
「かと言って、外様でもないな」
「もしかしかたら、カンパニーの情報を聞けるかもしれません」
「……その女が縊死でもしたら、どうするんだ」
「最悪の場合、このスマホに連絡先を登録してある人間を当たろうと思います」
「誰だ」
「一番は、加奈子と書かれている女。他に、魅杏と書かれている女がいます」
長髪の黒服の男が次々と名前を上げると、父親のうしろをついていた少女がぴくっと反応する。
「尋問のあと、押さえろ」
「あぁ、どうしたもんかなあ」
リリーはパイプベットに仰向けになり、自分が捕らえられたことを悟ると、諦めの色を出していた。
「連絡はできないし、こんなところ誰かが助けてくれるとも思えないし。まぁ、乱暴なことをされなかったことでもいいことか」
普通、睡眠薬を飲まされ、そのまま拉致された女はヤられるだろう。準強姦にならなかっただけでも、不幸中の幸いだろう。
その時、ガチャっとドアの鍵が開く音がし、ギギーとドアが開かれる。
「生きてます」
「そうか」
長髪の黒服の男が黒い紋付き袴の男にそう言い、うしろでは太った黒服の男が少女をこの場から離そうとする。
「お嬢、あちらへ行きましょう」
「いや、待ってください。私もいます」
「しかし、お嬢」
太った黒服の男は少女を離そうとするが、少女はなかなか離そうとはしない。
「尋問だ」
長髪の黒服の男と黒い紋付き袴の男が部屋に入り、ドアがいっぱいに開かれる。
そのドアの向こうから、少女と太った黒服の男の押し問答がリリーから見える。
「彩香ッ!!」
リリーが叫ぶ。
リリーの目には、彩香が太った黒服の男に襲われていると写った。
リリーは立ちあがり、彩香の元へ突進するが。
「待て!」
長髪の黒服の男にリリーは押さえつけられる。
「彩香ッ!!」
リリーが叫び、それに彩香が答える。
「リリー先輩っ!」
彩香の叫びに黒服の二人と父親が驚く。
「彩香、こいつは知り合いなのか」
黒い紋付き袴の男が彩香に訊く。
「はい。リリー先輩です。私を助けてくれた人です」
その瞳は嘘をついていない。父親もそれを察したのであろう。娘の言葉を信じた。
「リリーさんかな。二三質問をするが。
うちの彩香を助けたというのは?」
「彩香が部室から下りれなくなったところを、私がはしごをかけた」
父親が彩香の方を向くと、彩香はこくこくと首を縦に振った。
「どうして、はしごをかけた? はしごをかけなければいけないようなところを上って、はしごをのけたというのか。彩香が」
「彩香には色々と自分の力ではどうしようもないことがある。おそらく、それはあなたが知っていることだ」
「………………」
父親は押し黙る。彩香が学校ではどういう事情かはわかっていた。しかし、父親の自分が出ることは事態を悪化させる。彩香には耐え忍ぶことをするしかなかった。
母親が先生に言っても、簡単にいじめはなくならない。教師は生徒を守らなければならなく、どちらも守る。故に加害者を排除することはなかなかない。
「では、なぜこのカンパニーのマークが入ったスマホを持っておる」
「はぁ? スマホは教授からもらったものだ。カンパニーのマークなぞ知らん」
「そうか。わかった。解放しろ」
父親は長髪の黒服の男に指示した。
「わ、わかりました」
一台の黒いメルセデスベンツが道路を駆ける。
「彩香、あの人が父親か」
「…………はい」
車のなかには、リリーと彩香の二人がいた。
リリーは彩香の父親から解放命令が出ると、スマホを返され、彩香の住む家に送ってくれた。
「ごめんな。お父さんとの時間を……」
「いえ、リリー先輩がいなかったら……私は父に言い出せなかったと思います」
彩香は父親に今日はリリー先輩を送りたいから、帰りたいと申し出た。それは今日はあなたと過ごしたくはないと言ってるものだ。
「彩香、違うだろ」
「えっ? 何がです」
「お姉様だろ」
「えっ、いや、運転手さんがいるから」
リリーは後部座席で彩香を押し倒した。
「きゃっ」
「なぁ、彩香」
リリーの吐息が彩香の鎖骨にかかる。今にも、キスしそうな距離である。
「はっはい。お姉様」
【選択肢】
①『唇にキス』
②『首にキス』
「今日はありがとう。彩香」
リリーはチュッと彩香の首にキスをした。
「あっ。お、お姉様」
彩香は首まで赤くした。翌日、彩香の首にはキスマークがついた。




