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7話、偉い人とプレーンクッキー


ターシャさんに連れられ、どんどん豪華になっていく廊下を歩くこと10分以上。きっと今ターシャさんがいなくなったら俺は迷子になり、恥ずかしがらずに半泣きで誰かを探さないといけないと思う。そんなことを考えているとやたらと豪華な掘り込みがされた扉の前につき、ターシャさんは数回ノックした。中からは男性と思わしき声が聞こえ、失礼いたしますの声と共にターシャさんはゆっくりと扉を開く。


え?ちょっと待って、心の準備をさせて欲しい。そんな俺の願いは届くはずもなく、開いた扉の先にはロイヤルな感じが溢れた人達が3人座っており立っているのはサラさんと髭を蓄えたお爺さん。さっきも言ったと思うけど、俺の描写能力なんてたかがしれてるから。こんなキラキラした豪華なメンバー、どうやって表現すればいいんだ。むしろ教えて欲しい。



「よく来てくれた、異世界の民よ。私はこのミティラス国の国王をしているレオナルド・ミティラス、気軽にレナードって呼んでくれ。君はこの国の宝であり国賓でもある。それはこの国の民の全てに周知済みだ。心から歓迎するよ、のびのび暮らしてくれ」



金髪碧眼、甘いマスクで百戦錬磨そうなこの人がこの国の国王様か。垂れ目気味の目が優しく、声も低く穏やかだからガチガチに緊張していた俺はすっかり色んなものの肩の荷が下りたように感じた。日本の天皇陛下にだってテレビでしか会ったことないのに、世界ですら違う異世界の国王陛下に会うってどんな確率なんだろう。あ、まだちょっと混乱してる。椅子すらロイヤル溢れてる気がして座るけど気後れしそう。


座っている一人が国王陛下で、両脇に座っているのは奥さんの王妃であるリリ様。柔らかそうな栗色の髪に陛下とは正反対、つり目気味のスミレ色した目が印象的だけどすごい優しい声で良い人だった。もう一人座っている人は、二人の娘であり王位継承権第一位のアンネ様。父親譲りの金髪と垂れ目、母親譲りのスミレ色の目が幼さを強調してしまっているけど、とても良く似合う。リリ様はリリアーナ様だしアンネ様はアンネローズ様、これもサラさんの時のように紆余曲折あって俺が折れたから呼ぶことに……。


あとは立派な髭を蓄えたお爺さんだけど、この人は国の宰相であるルンデッタ・ガラドギュルス。正義を愛し悪に容赦のないことで知られる脳味噌筋肉ジジイです、とサラさんが満面の笑みを浮かべながらルンデッタ様のことを紹介する。すぐにげんこつをもらっていたけど、それは自業自得だよ。ジジイだけ除け者にするのですかな?と言う申し出により、ルンデッタ様の呼び名はルン爺になった。いいのか?



「さて。親睦も深めたことだし、そろそろ仕事のお話でもしようか。ルンデッタもサラも座って、ターシャは用意を。リリとアンネはどうする?」


「わたくし、もう少しミツキさんを見ていたいです。ですのでお邪魔でなければ、ここに置いていただけると嬉しいですわ」


「お母さまと同じく。きょうみしんしんです」


「えぇ、興味の湧かない方がおかしいですわ。あ、もちろん変な意味ではありませんのよ?」



面白おかしい自己紹介タイムも終わり、一気にほんわかした場の雰囲気が引き締まった気がする。レナード様の一声でターシャさんは音もなく書類のような紙を数枚テーブルに置き、いつの間に用意したのか分からない紅茶を皆に配っている。でもリリ様とアンネ様の言葉でまた場の空気が緩むのが分かり、レーナド様は苦笑した。と言うか、俺は動物園の客寄せパンダかあにかですか?そんな言葉を飲み込む。



「ええと、言ってないのは職場と勤務時間、用意した家とギルドについて……くらいかな。ほとんど決まっているし事前に渡した用紙に書いてあるから面倒に思うだろうけど、もう一度確認する意味合いも込めて私に説明させてくれ。長々と話すつもりはないよ、ミツキも慣れないことばかりで疲れているだろう」


「あ、は、いえっ、お願いします」



さらっと言われ、思わず肯定しようとしてしまった。それくらいじゃ怒らないって今までの態度で分かってるんだけど、どうしてもまだ緊張でどうしても。そしてレナード様から手取り足取り、ではないけどそんな感じの説明を受け俺は関心してしまう。


教師なんか目じゃないほど分かりやすく、専門用語もかみ砕いて俺が理解できる言葉にしてくれるし、なにより時間を感じさせない引き込まれる会話術。時間にして約30分程度は話していたので、俺がかいつまんでおこう。思い出したりすれば予習した気になれるしもう一度聞かなくて良い、WinWinだ。


まずこの国はミティラス国で城下町はバロニアと呼ばれている。領土が比較的小さいので弱小国と揶揄されることが多いけど、世界を創った女神の加護を受けているのはこの国なので強い力を持った人が生まれやすく、戦争をふっかけられても負けたことがない。村や町はそれぞれ片手で数えるほど。


だけど心強い隣人が日本で言う富士山くらい高い山、霊峰山ミールの頂上付近には龍が長する竜とドラゴンの集落があるらしい。平穏と慈愛、豊穣と繁栄を女神様が司っているから居心地が良い様子。中腹には女神エミエール様を奉る大神殿のゴッデスがあるらしく、世界最大の宗教なので余計この国は安泰だな。


俺が勤めることになるギルドは世界で唯一の絶対的な中立姿勢を取れる機関、らしい。冒険者と呼ばれるギルド員達を抱え、個人のお使いから国を脅かす災害級魔物の討伐までをクエストと呼ばれる依頼をこなすアルバイター派遣所……最後は俺の心の声が漏れてしまった。


ペットの猫ちゃん探しから災害級魔物のクエストを俺がする訳なく、ギルドの中にある食堂で俺が働くのだ。時間は好きなときに好きなだけ、でも手軽に食べることが出来るものは常に置いておくこと。例えばサンドイッチやクッキー、保存食や飲料などなど。これは、試されていると思っても良いのかもしれない。


出勤も休日も思いのままなら、怠けてしまう人がいるな。まぁそれは置いておき、次は俺の住む場所か。ギルドには残業や仮眠をとるギルド職員のため、関係者以外立ち入り禁止とされる2階に部屋があるらしい。そこの一室を全力で改装したそこが俺の部屋。


24時間営業だから少しウルサいとは思うけど、下の階には用心棒みたいな冒険者がたくさんいるから大抵のことは彼らを頼ると良いって。ちなみに彼ら、俺が来ることに歓喜したらしいです奥さん。



「では、ミツキさんを案内したいので御前を失礼いたします陛下!」


「え?ちょっ、さすがに失礼……」


「さぁ行きましょう、ミツキさん!」



レナード様の話も終わり、俺の反復復習も終わりを迎えターシャさんが用意してくれた紅茶もなくなってすぐ。ずっと俺のすぐ隣でモジモジしていたサラさんが勢いよく立ち上がったかと思えば、俺の手を握ってレナード様たちに会釈をして歩き出してしまう。行っても良いよ~、って感じでレナード様たちが手を振ってくれるんだけど、どうなんだろ。


やってしまったことは仕方がないと諦め、俺は腹を括ってサラさんの早歩きに歩調を合わせついて行く。サラさんの方が俺より身長高いんだけど、実際問題この世界の人たちの身長が高い。いや、低い人も城で見かけたから身長の高い人が多い……か。でも高いことに代わりはないので、ちょっぴりイジケておこう。国の重役に就いている人と一緒だからなのか、あっさりと城の外に出られ城下町バロニアへ。


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