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2話、始まりとカップ麺


2人で同時に咳払いして変な空気を入れ換えた気分になり、まずしたことと言えばお互いの呼び方の定着化。様だのなんだのと言われ続けるのは一般市民の俺としては苦痛だし、いつまでも担当さんや彼女と呼び続けるのはどうかと。これから仲良くなろう、って言うんだし。やましくはない。


んでお互いに譲らないところは譲らず意地の張り合いをして、とりあえず一応なんとか決定。担当さんはサフィラさん、と言いたいところだが彼女の猛反発にあってサラさん。サフィラと呼び捨て、もしくは親しい人が呼ぶサラでよろしくお願いします!と全くもって譲らなかったので、拝み倒してサラさんで手を打ってもらった。


俺のことは様呼びではなく、サラさんと同じく三月さん。地球では三月だけど異世界に行くと少しニュアンスが変わるらしく、ミツキさんとのこと。様じゃなきゃいけません!様呼びは当たり前!ジャスティス!と叫ぶサラさんを宥めるのは、さすがに骨が折れた。この苦労、なんなんだろう。



「では、ミツキさんの履歴書や日本政府が調べたことから少し確認いたしますね。名前は真珠三月、26歳の男性で誕生日は3月31日の牡羊座、血液型は-D-。ご両親は幼いころ飲酒運転の車に追突され他界、母方の祖父母に引き取られ過ごす。高校を卒業すると同時に祖父母が相次ぎ老衰で亡くなり、大学を卒業したころに両親が遺した多額の生命保険と事故の賠償金を弁護士による使い込みが発覚。二進も三進も行かない今に至る、と」


「は、はい。えぇ、まぁ……」



随分と色々調べられたようで、探られても腹は痛まないはずなのにグサっと胸に来た気がする。血液型は結構珍しいけどボンベイ型の人よりは珍しくないし、弁護士は……気付いたらすぐ失踪されたからあとは警察任せ。一般市民の俺が出来ることと言えば、なぜか全く関係がないのに責めてくる親類から身を隠すことぐらいだ。



「これも秘密なんですが、日本政府とわたしたちが選んだのは日本への故郷心が薄い人、地球よりわたしたちの世界で生きる方が良さそうな人、もちろん手料理が作れる人です。今日来てもらった方々はまだ色々あるんですが、全て当てはまります」


「は、はぁ……」



一気に気落ちした俺のことを慰めようとしてくれたのか、口元に人差し指をあてながら悪戯っ子のように微笑むサラさん。たしかに大好きだった両親はいないし、面倒ごとだと言わんばかりに俺を押し付けあう親類から助けてくれた祖父母もいない。ちなみに多額の生命保険と賠償金があると知ったら手のひら返してすり寄ってきたけど、祖父母が対応してくれたんだっけ。



「あとこれも秘密なんですけど、わたしはミツキ様を手篭めにしろと密命を受けております!わたしたちはまだ地球の方々と夫婦になり子供を作ったことがないので、あわよくばです!」


「は……、は!?」


「わたしたちの世界は男性が率先して死にますので、女性が結構余っているんですよね。一夫多妻も推奨してますから、是非ともご活用ください。日本の法律は、わたしたちの世界ではほぼ意味がないです。そして良かったらわたしを第一夫人にして、ミツキさんの子種をいただけると嬉しいです!」


「……」



少々的外れな慰めだけどありがたい、と落としていた視線をサラさんに戻した時、爆弾以上のものを投下された。とりあえず俺は、秘密をそんなに言ってはいけないとサラさんに内心ツッコミを入れて心の安静化を図るも、次々と投下される言葉に絶句したように押し黙る。地球と異世界だから俺の持っている常識は通じない、のは当たり前……なんだろうか?


一度全ての考えごとを放棄しそんなことなかった風に装い、料理人として契約してもらうことだけを考えよう。ここに来れてここにいるってことはもう決まりだとさっきの人が言っていたから、脱線しなければとっくに契約していたはず。サラさんが爆弾発言しようがしまいが、俺は異世界に行きたいと願っていたんだ。


少し経てばサラさんも落ち着きを取り戻したようで、ゲッフンゲフフンと咳払いをして2枚の紙とサファイアのように真っ青な石がはまった細身の腕輪を差し出してきた。2枚の紙は片方が日本語で書かれ、ざっと見た感じでは見慣れた雇用契約書の様子。もう片方はミミズが這ったような、なんとも言い難い文字で書かれている。



「こちらは日本語と、わたしたちの世界の共用語で書かれた雇用契約書です。一字一句に間違いはありませんが、ミツキさんはわたしたちの共用語は読めないと思います。そんな時、この腕輪がとっても役に立つんです!」


「それはどんな効果が?」


「良くぞ聞いてくれました!こちらの腕輪、宝石の方は地球スリランカ産の無処理S7の小粒ですが最高級のサファイアを!銀の部分はわたしたちの世界で一番信仰されているゴッデス教の大司教様の祈りを一年間こめた、稀少な聖銀と呼ばれるミスリルです!そしてそれを世界創生された主神であり女神エミエール様にお願いし装着者が読み書きに不自由なく、悪意のあるものに傷つけられないように防御魔法陣、持ち物を入れられるよう無限収納を付け、故郷心を薄れさせようと無い頭を捻りまくりまして日本政府と結託し、地球で世界最大大手の通信販売サイト熱帯雨林さんで買い物も出来るよう腕輪に祝福をいただきました!」


「……す、すごいね」


「はい!わたしは製作に携わってはおりませんが、一番ノリノリなのは女神エミエール様だったそうですよ」



ヤバい、興奮して早口だったサラさんの言葉を大半聞き逃してしまった。とにかくものすごい腕輪で、通販サイトで買い物も出来るし女神様がノリノリだった……と。小刻みに震え出した手を必死に抑えながら、値段に換算したら国が買えそうな価値ある細身の腕輪を持ち上げて自分の腕へ回す。


するとそれは俺のために作られたと思えるくらい隙間なくはまり、ミスリル部分に唐草模様が浮かび上がる。サラさんいわく、腕輪の主人だって認められたことです。これでミツキさん以外の使用は出来なくなりました、だと。もうどうにでもなれ、の精神で先ほど読めなかった1枚の雇用契約書に目を向ければ、俺にとって馴染みの深い日本語でそれは書かれていた。



「こちらに氏名年齢性別、ここに判子と拇印をお願いします。あと下の空いている場所に「私、真珠三月はどんな些細なことでもアドバイザーに相談すること。どんな命の危険があっても契約期間は全うすることを誓います」と書いて拇印をお願いします。まぁ女神様の祝福があるので、わたしの世界でミツキさんにお痛が出来る人はいないんですけど一応決まりですので」


「あ、はい」



雇用契約書だと思ったら誓約書も兼ねているとは……。いつの間にか用意されたボールペンを手に取り、サラさんが言った通りに難なく書いていく。あとは持ってきた肩がけバッグから判子と朱肉を取り出し、四ヶ所に判子と拇印を押せばこれで終わりだ。


契約書は2枚綴りだったらしく、綺麗に転写された契約書を1枚ずつもらった。残りは日本とミティラス国で1枚ずつ保管するらしい。そして俺はサラさんに勧められ早速と言わんばかりにもらった契約書を2枚手に取り、収納と呟けばサッと音もなくそれは消え失せる。おぉ、これはすごい。


残念だった先ほどの魔法初体験が霞むぐらい、俺は感動した。無限収納と呟けばパソコンのウィンドウみたいなものが現れ一覧を出してくれるし、熱帯雨林と呟けばよく使っている熱帯雨林のサイト画面がサファイア部分から投影映像のように現れる。しばらく遊んでいたら微笑ましそうに俺を見るサラさんに気づき、俺は不意に固まった。


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