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中卒絵描きの冒険譚  作者: 光るライト
1/1

プロローグ

最初なのでとんでも長くなりました。

2000字以内をこれから心がけていきます。

さて、では駄文ですがどうぞお楽しみいただきたい。

 目の前に広がる景色に僕は絶句する。

 さっきまで僕は河川敷で絵を描いていた筈だ。川は太陽の光を反射し、水鳥が魚を求めて水に飛び込んだ時の水しぶきは一滴一滴が光の粒のようでとても幻想的だった。

 おかしかったのは、その鳥が水から出てこなかったことだが、絵を描くのに夢中になっていて、そんな些細な事には気を配っていなかった。一枚の絵をかき上げて満足していると、足元に円形の幾何学模様が浮かび上がり、あれよあれよのうちにこれだ。

 

「面をあげよ」


 はい?河川敷の傾斜のかかった地べたから平らな大理石の床に、屋外だったはずが細かい装飾の施された屋内に、そして一人だったはずなのに脇には変な格好をした男の人、目の前のでかい階段の先では、偉そうな格好をした人がふんぞり返って話しかけてくる。


「わしはおぬしを召還したコロノール王国の王、ヨハネ‐ド‐ソシュールだ。お前の名はなんという?」


 自分から名乗ったのは立派だと思うけど、初対面に対してお前というのはどうなんだろう?


「えー、僕は江藤奏次えとうそうじといいます。」


 ヨハネはなぜかバカにしたようにこちらを睥睨してくる。


「ふん。なよなよしい体にぴったりの名前だな」


 なんですと!絵ばっか描いてきたんだから仕方がないじゃないか!お前なんか芸術も分からない癖……


「わー」


 わーて何だと思うが、そう声に出したくなるほどの芸術がそこにあった。ヨハネの後ろの壁画。あれ程に洗練された芸術を見たことがない。ヨハネはその僕の視線に気が付いたのか笑みを漏らす。


「ほう、お前芸術がわかるのか?」


「これでも絵を描いて生きてきましたので」


 この時の僕の目は他から見たらキラキラと輝いていたことだろう。それほどに素晴らしい絵だったのだ。


「そうか。しかし、残念なことにこの画家はもうこの世に存在せぬ。この作品を最後に息を引き取ったのだ」


 本当に悲しそうにしている。前言撤回。このお人は芸術がとてもよく分かっていらっしゃる。


「そんな。これだけの絵を描いておきながら……」


 なんで死んでしまったんだ!と叫びたい衝動を抑える。何度も言うがそれだけの絵なのだ。


「だろう!こちらに来い。この絵について深く語り合おうではないか!」


「ええ。ぜひとも!」


 臣下であろう人たちの二人を見る視線が変態を見たという目だったのを二人は知らない。そんなこんなで、時間は夜。王に呼び出されて例の間へ向かう。


「来たか!」


「はい!」


 ”ベルツの海”と題されている絵画について議論が深まる。楽しい。楽しすぎる。その議論は日付が変わり、太陽が昇ってくるまで続いた。徹夜の王は、公務をその日失敗しまくったのは当然の話だ。

 一度仮眠をとった僕は、この状況についての説明が何もなされていないことに気が付く。その時、時期を図ったように呼び出しがかかった。


「王がお呼びだ。至急準備をして向かわれよ」


 騎士然とした人が呼び出しの命を伝えてくる。また絵についてお話しできるかもしれないとうきうきして応接間(例の間)へと通されると、思っていたのとは違い暗い雰囲気が漂っていた。


「えと……」 


 えとうと呼ぼうとしたヨハネだったが、そばにいた臣下に睨まれて訂正する。


「こほん。お前に言わねばならぬことがある。」


 今までよりもさらに重い空気がその場を支配する。この静寂の中ではネズミの足跡ですら聞こえると思えるほどに。


「お前は、勇者だ。この地に別の地から呼びつけられた勇者である。」


 ヨハネの凛とした瞳が僕を貫く。その顔には僕に対する少なくない憐れみがあるが、ヨハネは言いたいことをすべて言ったわけではないようだ。


「昨日のことだが、わしの臣下が勝手にもさらに勇者を呼びつけた。ゆえに、お前の存在を秘匿することとなった」


 ヨハネの…いや王の瞳には強い怒りがともっている。なんでも、一国の呼び出せる勇者の人数には制限があるらしい。それなのに誰かがもう一人勇者を呼びつけ、都合悪くその勇者のほうが僕よりも優れているのだという。


「勝手に召喚を行った人物はその場で処分した。しかし、それだけで済む問題ではないのだ。勇者を二人召喚したとなれば国が滅んでしまう」


 王はさらに悲しそうな顔をしてこちらを見つめる。場の空気はさらに張り詰める。その場にいた臣下たちは、王の次の言葉を予測する。そして、その予想は的中する。


「お前は生きていてはならない。わかってくれとも思っていない。恨んでくれても構わない。だから、死んでくれ」


 死んでくれ……。友達同士で言い合うような軽口と違い、その言葉には本当に命がかかっているのだ。


「死にたくありません」


「すまぬ」


「僕にはまだ描きたい絵がたくさんあります。そして、自分の絵をまだ見つけられていません。だから、僕は死にたくない……いや、死ねません」


 王は、碧眼の相貌をより鋭くさせた。ゆっくりと立ち上がり、僕のほうへと向かってくる。臣下たちはこれから起こるであろう流血淋漓の事態に戦慄する。


「致し方がない。さればわしの剣でお前を貫く。これがせめてもの詫びであろう」


 王は金属光沢を放つその剣を僕に向けてくる。僕に恐怖はない。ただただ呆然としていた。たったの一日で僕の人生はくるってしまった。世の理不尽さに嘆くが、その嘆きほど死神にとっておいしいものはなかっただろう。


「お前の描く絵を一度は見てみたかったよ。エトウ」


 王は悲しげな笑みを浮かべて僕の名前を呼んだ。家臣たちが驚きに目を見張るが、王の言葉はまだ終わらない。


「お前は当然なら死ぬはずのなかった人間だ。生きて絵の素晴らしさを追求して寿命で死ぬはずだった人間だ。わしと同じでな」


 王は、こちらに剣を向けているのだが、その刀身は細かく震えていた。


「なのになぜ死なねばならぬ!何の罪も犯していない人間をこの手にかけねばならぬ!このままではわしは絵を楽しむことなどできなくなる!」


 王の怒りの矛先は王自身に向かっていた。理不尽に自分が殺めようとする相手に同情し、同情はしても何もしてやれない不甲斐なさに怒っているようだった。


「絵を……描いてもいいですか?」


 王のその様子を見ていたら、王に対する怒りなど、ましてや恨みなど湧くはずもない。前世で社会のごみのようにみられていた時とは違って、この人は僕を一人の人間としてみてくれるのだ。だからこそ描きたい。この人の気高い心を。

 その問いかけを受けて、王は家臣に目を向ける。家臣たちが何か頷いたことから、何かが通じたのだろう。


「ああ。最後に……ということだな。存分に描くがいい」


 王は、いささか顔を綻ばせ、剣を鞘に再び納める。チンという快音がしたかと思うと、家臣たちが小走りで紙と筆を持ってきた。


「ありがとうございます」


 その絵をゆっくりと描いて、死までの時間を伸ばそうとは全く考えなかった。ただただその絵にのめりこみ、筆を走らせる。構図なんて全く考えずにただただ思うが儘に描いていく。


「ほう」


 家臣たちの間からため息が漏れる。僕が描いているのは日本の神話上の生物、鳳凰だ。その心は気高く、黄金色の毛並みは誰もを圧倒するという神鳥である。


「きれいだな」


 画面上には、片目のない鳳凰がでかでかと描かれている。光の粉を振りまき、空を舞っているその姿は、描いた僕ですら心を奪われる。この絵を見た王が家臣たちに何やら耳打ちしているが、家臣たちはにべもなくそれを却下しているようだった。


「目は描かないのか?」


 誰かが聞いてきた。僕はまだこの絵に目を描いていない。最後に描こうと思ったのだ。理由は……推し測ってくれ。


「描きます」


 ゆっくりと瞳を書き入れる。画竜点睛というように、一番大事な最後の仕上げだ。瞳を書き入れたその姿は、より美しく画面に映えた。


「うまいな」


 王がほめてくる。その声に少なくない悲しみを込めて。


「ありがとうございます」


「その絵を此方へ」


 王の要求通りに動く。高い階段を上り終え、晩に語り明かしたヨハネの姿がそこにはあった。悲しげに眼をすぼませこちらを眺めてくる。そして、次には目を絵に向けた。


「持たせてもらってもいいか?」


 王がなぜか遠慮がちに聞いてくる。当然いいので、王の手に渡す。


「素晴らしい絵だ。これほど秀逸な作品をわしは見たことがない」


 その声は昨晩と変わらぬ子供のような無邪気な声だった。


「これは大きくして城に貼ろうと思うが、いいか?」


「ええ、もちろんです」


 僕の絵が残るのだ。それほどうれしいことはないだろう。前世では、まったくもって誰の相手にもされなかった僕の絵が誰かに認めてもらえた。その事実は、僕が思ったより僕の心に響いたらしい。


「そうか」


 王が絵に魔力を込めて、絵を拡大しようと試みる。しかし、なんだかうまくいかなかったようで、


「うん、おかしいな。こんなことは初めてだ。さらに魔力を流してみるか……」


 などと言って魔力を増やすが、びくともしないので、しまいには臣下全員で魔力を流すことに決めたようだ。


「いっせいのーで……」


 幼稚な掛け声とともに大量の魔力が紙に流れ込む。すると、驚くべきことが起こった。


「ぴーーーーーーーーーー!」


 大音量の鳴き声とともに、朱と金の色を放つ巨鳥が、そこに現れたのだ。あまりに大きくて、階段の上にいる僕とヨハネは見下ろされる形となる。さらに、巨鳥の足元を見ると、魔力を放出しすぎたのか、臣下は全員伸びてしまっていた。


「なんと……」


 王が目を見開いて固まっている。その横で、僕は自分の絵が実体となって表れたことに深い喜びを感じていた。すると、王が思いもよらぬ提案をしてくる。


「エトウ、今すぐにこの鳥とともに国外へと逃げるのだ」


 王は、こちらを向いて深い覚悟のともった声で逃げろと言ってくる。


「見てのとおり、この国はなかなかに腐っておる。お前にとって居心地のいいものではないし、何よりこのままではお前は死んでしまう」


「でもヨハネが……」


「なに、心配いらんよ。わしも一緒に気絶したことにするから……」


 ヨハネが笑ってそう言う。けれど、その論法じゃ魔力を流してもいなかった王が気絶する説明ができていない。


「いえ、それなら僕に殴られて気絶したことにしてください」


 細腕の僕が殴ったところで威力は知れているし、おかしいところもあるが、一緒に気絶したというよりはずっと信憑性がある。


「そうか。他国へ逃げるのだしそれでも問題がないわけだが……」


 いいのか?と問いかけてくる。


「いいですよ」


 どうせ、国は僕を他国にまで指名手配できないのだ。なんてったって僕がもし捕まれば、二人目の勇者の秘密がばれてしまうのだから……。


「ありがとう」


「何言ってるんですか。そうしないと僕が死ぬんですから当然です」


 ヨハネの気持ちを和らげるために笑って言う。ヨハネもそれ以上何かを言うわけでもなく、


「ほら、早く行け。そろそろ誰かが気付くころだろう」


 ヨハネが友として別れを惜しんでくれているのが伝わる。


「そうだね。ありがとうヨハネ」


 鳳凰は、僕たちの言葉が分かったかのように僕に背を向けてくる。その背中に飛び乗ると、ヨハネに何か言う間もないまま飛び立ってしまった。

 

「安全飛行で頼むよ、鳳凰」


「ぴーーーーーーーーーーー」


 眼下では一瞬にして家々を追い越し、草原、林、山を飛ぶ様子が見える。なぜ吹き飛ばないのか不思議だが、背は地面のように安定している。

 さて、異世界ライフが始まっちゃったみたいだけどこれからどうなるかな……。

 これからについていろいろ考えながら空を滑空する。

 まあ、まずはお金を稼ごう!

 生きるために必要なんのはお金だという思考にたどり着くと、その方法についていろいろと考える僕であった。


どうでしたでしょうか?

長かったかもしれませんが、プロローグだったので許してください。

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