終焉《バッド・ロマンス》
浮遊したまま、十字の姿を取っているエンドスケルトン。
その情景はジョン達がよく知るものだった。十字架に張り付けられたキリストの姿と重なって見える。
西洋人には馴染み深くも、遥か遠くにあった信じられない光景。
放たれている目映い光は、キリストが流す聖なる血でもあるかのように。
光の血がゆっくりと広がった。
荘厳で雄大な雰囲気が辺りに満ちていく。
圧倒的な存在感を見せる神像のように、まるで神々しい存在がそこにあった。
永久不滅の美の片鱗が光臨している。
悠久の幻想さえも垣間見ることができそうだった。
なぜエンドスケルトンの拘束が解かれてしまったのか、今となってしまってはどうでもいいことでもある。
人間にはそれを知る術も時間も最早残されてはいない。常識や平時では計り知れない力、未知の力が働いている。
むしろ今この存在が、人々が夢に描いた聖なる十字架の幻想そのものだった。
エンドスケルトンが腕を広げたその下から、雲間から射す光の帯のように青白い発光が広がっていく。
青く白い光は、まるで翼を模して形作られているようだった。
翼はあらゆるところへ光る羽を伸ばしていき、貪欲に力強く輝いている。
生き物のような青い光――。輝く翼が部屋一面に広がろうとしている。
優しくも残酷な白い光――。瞬く羽が何もかも浸食して満たしていく。
もう後戻りは出来ない。
とうに始まって、予定通りに終わるだけだ。
――とても美しい。
今この瞬間、全ての時間が止まっている。
人間であるジョンはそう感じていた。
更なる光に包まれていくローズ。
聖女が涙する光景。
淡いブルーの澄んだ瞳。
青く美しく輝く涙。
瞳も涙も、蒼く澄み渡った海のように揺れながら、光だけを反射している。
それは聖女の祈りと、青い涙だった。
――とても美しい。
手が届かない。
間に合わない。
触れ合いたい。
目を閉じたくない。
見逃したくない。
まだ眠りに落ちたくない。
このまま…………。
だけどローズのその綺麗な青い目に、俺はまだ映っているのだろうか。
俺の記憶はどこまで続くのか。
きみをみつけたから、俺はこうして存在を感じていられる――
ふと誰かが思った。
――あの扉の向こうには何があるのだろうか。
――天国ではどんなことを話すのだろうか。
こんな状況でも、ジョンは自分の心臓で彼女の鼓動を感じていた。
視点はローズへくぎ付けになりながら、世界が瞬いて閉ざされていくのも知った。
個人に見えているのは視野だけだが、起こったエンドスケルトンの光の規模は地球全体。けれどジョンは確かに体感している。
これは黙示録の発現。
予定通りの救世主の再臨――
人間がその罪と共に燃え尽きるのだ。
そして全てが洗い流される。
遠大な計画は、人間達にとって聖なる洗礼の最後の輝き。
完全なる聖光に包まれて、ただの真っ白な空間になる――
――そのほんの数瞬前。
終わる人間の世界で僅かな残滓が響く。
「本当は私、あなたをあい――」
ジョンの目が最後に焼き付けたのは、彼が愛した彼女の泣き顔。
そしてあらゆる物質が光に包まれた。
元のナニカへと回帰していく。




