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ジョンとローズ




 アメリカ合衆国・ネバダ州の南部、グルーム乾燥湖の沿岸部。そこにアメリカ空軍の管理する地区がある。

 正式名称はグルーム・レイク空軍基地。通称、エリア51とも呼ばれている場所だった。

 そしてグルーム・レイク空軍基地《エリア51》の地下には、決して公にされることがない秘密研究施設が存在していた。




 ――物理化学と生物化学、両分野の研究に精通する優秀な人物がいた。ジョン・カーヴァー博士である。

 アメリカ政府管轄の研究機関に従事していた彼は、ある件でグルーム・レイク空軍基地《エリア51》の地下研究施設に召集されていた。

 召集は極めて秘匿であった。

 昨今の温暖化現象。気温の上昇によって南極にある氷壁の一部が溶け出した折り、偶然にも居合わせたアメリカ合衆国の南極調査隊が妙な物体を発見したのだった。

 溶けた氷壁の中から露出していた奇妙な遺物。調査隊は周辺の氷を削り取り、無傷のまま引っ張り出した物体を南極基地へと持ち帰った。

 その後、件の品はアメリカ合衆国内に持ち込まれアメリカ政府に回収される。物体の特異性を考慮して、現在はグルーム・レイク空軍基地《エリア51》の地下研究施設に収容されていた。

 ジョン・カーヴァー博士は政府から未知なる謎の遺物の研究と調査を命じられ、ここエリア51(地下)で仕事を続けているのだった。


 ――調査開始から三日目。

 昼食を済ませ、午後の調査を開始しようという頃。


 それにしても、離婚間近のローズと仕事をするのは実に気まずい……。

 ジョンは現在、妻とは別居中の関係である。隣で作業服の上に白い防護スーツを着ようとしている妻。その姿を見て、ジョンはやや憂鬱な気分になった。

 この研究所ではずぶの素人アマチュアであるローズ。大きな白い防護スーツを着るのは初めてで、少々手こずっているようだった。とはいえ、別室で作業服に着替えた後――この着装室に入る前――、防護スーツ着用の仕方も一応は説明を受けているはずだった。

 服に苦戦する度に、青い瞳と少しウェーブのかかったブロンドが揺れている。

 ローズのプロポーションは相変わらず抜群で、セクシーという言葉そのものだった。地味なアースカラーの作業服を着ていても、グラマラスな曲線美がよく分かるほどだ。

 反面、ごそごそとぎこちなくどこか垢抜けない動き。こういった職場に慣れ親しんでいる玄人プロフェッショナルのジョンから見れば、幼児が初めて自分だけで服を着ようと挑んでいる状景にも似ている。

 既に防護スーツの着装を終えていたジョンは、マスク越しにローズの様子を眺めていた。

 だが見るに見兼ねて着衣を手伝うことにする。


「ここはこうするんだ。ほら、これでいい」


 ジョンが慣れた手つきでサポートすると、物の見事に防護スーツの着装が終わった。


「ありがとう」


 礼を述べたローズの顔から、一瞬だけ含羞の表情が垣間見える。


「いいさ」


 ローズが隠し切れなかった初々しさをジョンは見逃さなかった。プライドの高いローズにしては珍しくも素直な反応である。

 だが、そんな表情も直ぐに消えるとジョンは知っていた。


「あなたって……。こういうことは器用なのよね……」


 そう呟いた後のローズは、気位の高そうないつもの顔に戻っている。

 過去を思い出しながら現在のローズを見ていたので、ジョンはどこか気恥ずかしさを感じた。彼女に気づかれる前に目線を逸らす。

 職種の異なる二人。そんな二人が職場で顔を合わせるのは、これが初めてのことだった。お互いの気恥ずかしさはきっと、皮肉なこの巡り合わせのせいもあるだろう。

 何にせよ、このようにローズが普段から少しは控え目な女だったら……。幸せだった結婚生活も、あと少しは続いていたかもしれない。

 研究一辺倒でそれ以外は野暮ったく、容姿が特別良いわけでもない、ジョン・カーヴァーという冴えない男――

 今思えば、そんな自分がなぜローズみたいな才色兼備、尚且つ自己主張の強いやり手の女と結婚出来たのか。いや、結婚してしまったのか。不思議でならなかった。

 お互い何が良かったのだろうか。本来なら結婚が失敗するのは目に見えていたのではないか。そもそも出会い自体が間違いだったのではないだろうか。二人の人生が繋がったのは、偶然が生んだ一瞬の気の迷いだったのだ。恋は盲目、とはよく言ったものだ……。

 そうやって次々と湧いては消える、答えの出ない後悔の念。失敗の否定と自己弁護。

 ――ジョンはそれらを振り払いながら、ローズより先に着装室を出た。




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