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ゼティルディ通り

今回は少し長めです。

それでも最後まで読んでいただければ幸いです。

 銭湯から出て少し先で右に曲がった。

 もうだいぶ暗くなってきていて、空は群青色に染まりつつあった。

「そういえばさ、」

 いきなり、アイシスが話し始めた。

「愛称、ウェント、でいい?」

 ウィズレストは、今まで愛称でなんて呼ばれたことがなかったので、少し戸惑った。

「あ、愛称? まあ、別に構わないが……。そんなもの、どうするんだ?」

「え、当然愛称で呼ぶために決まっているじゃない。他にどうするっていうのよ?」

「いや、愛称なんかで呼ばれたことがなかったから……」

 アイシスはウィズレストの顔を覗き込んだ。ウィズレストは目を逸らす。

「あなた、愛称で呼ばれたことがないって、どんな人生送ってきたのよ。ふつう、親とか、友達とか、そういう人には愛称で呼ばれるでしょう? ……まあ、あなたの過去なんて、知りたい訳じゃないからいいけど」

 ウィズレストは答えなかった。


 二人はそのあと、何も話さず、黙々と歩いた。

 そのうち空は真っ黒になり、街灯と店の明かりが目立つようになった。


 不意に賑やかな人の声が二人の耳に入ってきた。

「あそこ。ゼティルディ通り。みんなよく、ゼティって言っているけど」

 アイシスは角を曲がり、通りに入った。ウィズレストもそれに付いていった。

 通りは人で溢れかえっていた。呼び込みをする人、売買をする人、ぶつかられてケンカをふっかける人、それを見て煽る人、買ったものをその場で食べる人……。

 店の形も、室内ではなく、外にテントを張って売っているというものがほとんどだ。

 二人はその中に入っていった。


「ほら、あれ」

 通りに入って人混みに疲れてきた頃に、アイシスはあるテントを指さした。

 ウィズレストがその指先を目で追っている間に、アイシスは小走りでその店に向かった。

「やっほー、リエリズ」

「んんっ、おおーアイシス! なに、もうできたの?」

「違う違う、まだ終わっていないんだ。なんかごめん…」

 リエリズは心底申し訳なさそうに首を振った。

「そんな、別にいいよ」

 ウィズレストがやっと追いついた。

「リエリズ、紹介するね。今日ここに来たばかりの旅人さん」

「ウィズレストだ。まあ、あまりここに長くは滞在しないつもりだから、短い間世話になる」

 よろしくと呟きながら軽く頭を下げる。

「リ、リエリズです……。よろしく……」

 リエリズは人見知りなのだ。それなのにお店の手伝いをしているなんて本当に偉いと思う。

 そんなリエリズでも、一度仲良くなってしまえば明るく元気な一面をみせる。

「んでね、夕食を買いに来たわけだけど」

 この店は果物やパン、野菜を主に売っている。店が狭いので、あまり品数を置いていないが。

「え? ああ、今日はね、ペクがたくさん入ったんだ。他の店よりいくらかは安いと思うよ」

「ホントッ! やったあ、私好きなんだよね、ペク」

 アイシスはガッツポーズをした。

 その会話を聞いていたウィズレストが首をかしげた。

「……ペク?」

「ほら、これのことだよ」

 アイシスはペクを一つ手にとった。そしてウィズレストに見せびらかすように手の中で転がす。

 大きさは拳ほどで形は丸く、表面がツルッとした黄色い果物だ。

「ここら辺では珍しい、酸味が強めの果物なんだ。美味しいんだよ」

 へえ、と呟きながらペクを見ている。

「今日はパニも入っているけど……?」

 リエリズはペクのすぐわきに並べてある、ペクとあまり見分けのつかないパニを手にとった。声はウィズレストが居るからか、消え入ってしまいそうだった。

 ウィズレストは、パニといって差し出されたものがペクと全く一緒だったので、なにかスイッチが入ってしまったらしい、ペクとパニを手に取り、隅々まで見まわしはじめた。

「え~、私ペクのほうが断然好きだからいいよ~」

 アイシスは、ペクとパニの違いを頑張って探しているウィズレストの方を振り返って言った。

「ウェントもペクでいいの? っていうか、勝手に決めちゃってもいい?」

「え、ああ。別に構わないが」

 その言葉を確認するなり、リエリズの方に戻った。

「おすすめのパンは?」

 リエリズはパンが並んでいる辺りを探す。

「ええっと、確か……、あったあった。ちょっと小さめではあるんだけど、すこし安めの価格設定」

 リエリズは、そのパンを一つ手にとり、アイシスに見せた。

「この大きさかあ。そうだね、一人二つってとこかな? そのパン四つとペク二つで、いくら?」

「うーんと……、合わせて48ロウだよ」

 リエリズはパンとペクを紙袋に入れた。

 アイシスは小銭をいくらか取り出し、48ロウ分を紙袋と交換した。

 ウィズレストも違いを探すのを諦めたのか、ペクとパニを元あった場所に戻した。

「ありがと。じゃあまた明日。おやすみ」

「うん、おやすみなさい」

 二人は軽く手を振って別れた。

誤字脱字、ありましたら言っていただければと思います。

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