旅人との出会い
二人はこのスラム街一大きい広場に来た。あらゆるお店と人で、夜中まで賑わっている場所だ。
「ほら、あれ」
ティナは広場のほぼど真ん中に出来ている人だかりを指差した。
ここに来るまでの道中にティナから聞いた話では、あの中心には外から来た旅人がいるはず。
人だかりに近づいていくと、知り合いが居ることに気がついた。
「トーレス!」
「ん、ああ、アイシス。ティナも居るのか」
「旅人なんだってね」
アイシスはどうにかその旅人が見えないかと、飛んだり、人との隙間から見ようと奮闘している。
それを横目で見ながら、トーレスは答える。
「なんでも、いろいろな場所を渡り歩いてきた旅人だとか。さっき、半分パニクっててさ、こんなこと言ってたぜ。『俺は強いんだぞ!』さすがにそれには笑ったぜ」
トーレスはククッと笑ってみせる。
アイシスはだんだんその旅人がかわいそうに思えてきた。
「ちょっと見てくる」
「えっ、ちょ、アイシス!」
二人が止める前に人ごみのなかに入っていくアイシス。思っていたほど層は厚くなかったようで、すぐに最前列に出ることができた。
アイシスは旅人を見ることができたのだが、見たとたん、かっこよくない!と思った。
誰がどう見ても、大勢の人にビビッているいい大人だ。誰がかっこいいと思うだろう。
アイシスはさっきよりも同情の念を覚えた。
「あの…みんな~。この人困ってるからさ、ほら。そろそろ、ね」
その一言を聞いて、納得して帰る者、文句を言いながら散る者、さまざまだったが、一分ほどでほとんどの人がいなくなってしまった。
「いやあ、みんな素直でいいなあ」
アイシスの言葉に旅人を含めた三人が苦笑する。
「で、お前さんはどうするんだ?」
いきなりトーレスにそう聞かれた旅人はおどおどとした口調で答える。
「あ、ああ。俺の名前はウィズレスト。さっきは助けてくれて本当に助かった。あんな大勢の人に囲まれたのは初めてで……。あ、あと、ここら辺に宿ってないのか? 教えてくれると有難いのだが」
人が少ないとよくしゃべるのかというツッコミはあえて飛ばして、宿について教えるアイシス。
「宿ねえ……。聞いたことないなあ、ここら辺で宿やってるなんて。できたらできたで、うわさ流れるしね」
「そうだなあ、オレも聞いたことないぞ……」
「どうせ宿やってても誰も泊まりに来ないでしょうし」
それを聞いていたウィズレストは困りはてた。
「じゃあ、今夜は町の外で野宿かなあ……」
ずっと考え込んでいたアイシスは、一つ考えを思いついた。
「そうだ! あなた私の家に来ない? ろくなことはしてあげられないけど、寝る場所ぐらいは用意できるし」
それを聞いて、トーレスがアイシスに小声で聞いた。
「お前、なんて提案してるんだよ! お前、一人暮らしだろう! 大丈夫なのか?」
「まあ、大丈夫でしょう」
なんてのんきなんだと、トーレスは頭を抱えたくなった。
「で、どう? 来るの?」
「できるなら」
「じゃあ、早速家に行きましょうか」
呆れ顔のトーレスとティナをおいて、アイシスは家に向かって歩き出した。