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チート能力もらって転生したらオークだった  作者: 霜月緋色(腱鞘炎発症→安静中)
OO93(オークさん) BUTARDUST MEMORY 編
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第十二話 出撃サキュバス その5

「カラナフィ、お前も愉しみに来たのだろうが……残念だったな。この者たちで愉しむのは私が先だ」


 ポリーと呼ばれたチョビ髭が、拷問部屋に入ったカナラフィを一瞥して言う。

 次に足元に転がるおっさん(上位デーモン)の首を掴むと、片手で軽々と宙吊りにしてみせた。


「さて……んん? 誰が寝ていいと言った。……起きろ」

「っぐ、ぐわぁぁぁぁぁ――――ッ!!」


 おっさんを掴む手から炎が噴きだし、拷問室に絶叫が響く。

 ポリーは嗜虐的な笑みを浮かべたまま、おっさんを焼き続けた。


「――――――――ッ!!」


 最早、悲鳴にもなっていない。

 白目を剥いたおっさんの両腕がだらりと力なく落ちる。気を失ったのだ。


「なんだ? もう意識が跳んだのか。脆い奴め」


 ポリーはそう言うと、おっさんを後方に投げ捨てた。

 見れば、拷問室の床にはおっさんたちが無残な姿で転がっている。

 誰も彼もが体を焼かれていて、いったいどんな酷い拷問を受けたのか、嗚咽を漏らしながら尻をおさえている者までいた。


「ふふふ、動けるのは……もうお前だけか」

「ぐぅぅ……」


 ただひとり意識を保っているおっさんの、首に繋がれている鎖をポリーが引っぱる。

 おっさんは足で踏ん張り嫌々と首を振るが、ポリーはお構いなしだ。


「最後まで残ったお前には、褒美をくれてやろう。おい、アレ(・・)を持ってこい」


 ポリーがそう声をあげると、別室から炎の魔物(どうやらポリーの眷属みたいだ)が複数現れ、一緒になにかを運び込んできた。

 俺の視線は、無意識のうちに運び込まれてきた物に吸い寄せられてしまう。


「なんだあれは……石像、なのか……?」


 それは、ポリーを模った石像であった。

 しかも、石像は赤くなるまで熱されていたのだ。


「私の像に愛を囁かせてやろう。どうだ、嬉しいだろう?」

「あ、ああ……」

「ふふふ。さあ、褒美だ。私の像に抱擁し、存分に愛を囁くがいい!」


 ポリーの眷属がおっさんを押えつけながら、石像に鎖で縛りつけていく。


「や、やめっ、やめて――あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッ!!」

「はははははっ!! いいぞ! もっとだ! もっと甘美な声を聞かせたまえ!! もっと、もっと!!」

「ぎゃぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「はははははっ!! あーっはははははははははははッ!!」


 気を失っては無理やり起こされ、再び石像に抱きつかされる。そんな見るに堪えない拷問が、何度も何度も続く。

これには、さしもの俺もドン引きせざるをえなかった。





 ポリーが落ち着いたタイミングを見計らって、俺は前にいるカラナフィの服を引っぱり、声をかける。


「おいカラナフィ、このダンディなオジサマは誰なのだ?」

「が、ガイア……コホン、この方は四天王のポリー・エリスさま。“炎のポリー”って呼ばれ、敵からも味方からも恐れられているお方なのさ。憶えておきな」

「なるほど。炎のポリー、か。憶えておこう。それにしても……なんてお髭がダンディなんだ」


 俺はポリーを見やり、感嘆の声をあげた。

 もちろん、俺がこうもあからさまにヨイショするにはわけがある。

 さっきから〈鑑定〉の能力を使っているのだが……そのステータスを覗き見ることができないのだ。

 これは死にかけの魔王ジジイ同様、このポリーとかいうチョビ髭が俺のレベルを大きく超えているからに違いない。


「いや~……あんなにも素敵なおヒゲは初めて見たぞ」


 敵対するのはいつでもできる。

 ならば、いまは相手を油断させ、懐に忍び込むのが吉。

 だから俺はポリーをヨイショしているのだ。あくまでも警戒されていなければ寝首を掻くチャンスがあるかもしれないからであって、さっきの拷問を見てビビってしまったからではない。決してない。もちろん膝だって震えちゃいない。


「く~……マジ憧れるわー」


 そうさり気なく褒め続けていると、ポリーは俺が気になったのか、チラリチラリとちょいちょい視線を向けてきた。

 くっくっく、俺に興味を持ちはじめたな。


「俺もあんな風になりたいわー」


 俺の言葉は、ポリーにしっかりバッチリ届いているみたいだ。

 その証拠に、クールぶってはいるようだが頬がヒクついている。

 にやけそうになるのを必死になって堪えているのだろう。フッ、ちょろいもんだぜ。


「カラナフィ、お前の後ろにいるのは何者だ?」


 ポリーがそうカラナフィに問いただす。

 俺が気になりすぎて、聞かずにはいられなくなったのだ。


「は、はい! 後ろにいるコイツらはですねっ、あ、あたいの側近で小さい方がガイア、でっかいのがビッチェルっていいます」

「ふむふむ。ガイアか。良い審美眼を持っている者のようだな。それに……なかなかに強い」


 ポリーは俺に顔を向け、ねっとりとした視線を送ってきた。

 その瞬間、ゾクリとした悪寒が俺を襲う。

 ポリーの放つ圧力に、呑まれてしまったのだろうか。


「ふふふ。カラナフィ、どうやら私はお前の実力を軽んじていたようだ。エギーユ様の口添えでだけで八魔将になっただけの女、相応の力を持たぬくせに、末席とはいえ八魔将の名を汚した罪深き女、私はお前のことをずっとそう思っていた」

「………………は、はぁ」

「それがどうだ? 容易く上位デーモン(この者たち)を捕虜にしただけでなく、そのような実力者を配下として隠し持っていたとはな。ふふふ、正直驚いたぞ」

「え? あ、ありがとうございます」

「よい。そう畏まってみせているのも己の力を隠すためなのだろう。ふふふ……油断のならん女だ。エギーユ様がお認めになるわけだ」


 なんかちょー勘違いしてやがる。

 カラナフィなんか、おっぱいに全振りしちゃったようなしょうもない女だぞ。


「ふう……私は十分に愉しんだ。後は好きにするがいい」

「は、はい」


 背筋を伸ばしたカラナフィの返事を聞きながら、ポリーは悠然と拷問室を出ようとして――俺の隣で立ち止まる。


「ガイアとやら、」

「……なにか?」

「どうだ、私の配下にならんか? 可愛がってやるぞ」

「……いえ。俺はカラナフィ殿に“貸し”がありましてね。それを返してもらうまでは離れられないのですよ」


 無論、『貸し』とはおっぱいのことだ。それ以外に俺とカラナフィに繋がりなんてものはない。


「ふふふ、“借り”ではなく“貸し”ときたか。面白い男だ」


 ポリーが俺を頭からつま先まで流し見る。

 舐めまわすような視線が俺の尻で一時停止されたことは、思い違いだと信じたい。


「ではその貸しとやらを返してもらったら、いつでも私の元にくるがいい。この私がお前の望む物を全て与えてやろう。血潮が燃え盛る様な、熱い快楽もな」


 そう言い残して、ポリーは拷問室を出ていった。

 しばしの間、俺とカラナフィの間に静寂が落ちる。


「おい、カラナフィ」

「……なんだい?」

「いまのポリーとかい言う魔人が俺の尻を食い入るように見ていたが、まさか……」

「ああ。ポリーさまは同性愛者ホモなのさ」

「――ッ!?」


 なるほど。

 どうりで尻を押さえながら泣いているおっさんもいたわけだ。

 改めて見てみれば、尻を押さえているおっさんは、どこかだらしない体つきをしている。

 早い話が、ややぽっちゃりなのだ。


「…………」


 俺は自分の身体に視線を落とす。

 鍛え抜かれた体は筋肉に覆われてはいるが、いかんせんオークのDNAからは逃れられないのか、ちょっとだけお腹が出ている。


「あたいが聞いた話じゃ、なんでもふくよかな(デブ)体つきが好き(専門)らしいよ」

「なっ……」


 なんてこった。

 俺は尻を押さえてむせび泣いているおっさんと、自分のお腹まわりを見比べる。

 当たり前のように俺の圧勝だ。

 つまり、ど真ん中とは言わないまでも、俺はポリーのストライクゾーンには十分に入っているということ。


「くっ……力が、力が欲しい……」


 そう呟いた俺は、唇を噛みしめ拳を握る。

 予想はしていたが、死にかけ魔王をはじめ、さっきのポリーといい、魔王城ここには俺を遥かに凌ぐ強者がいた。

 四天王といっていたから、少なくともあと三人――いや、この分だと八魔将とやらも俺より強い可能性が高い。

 どうやら俺は、自分でも気づかぬうちに判断基準の中心にカラナフィを置いていたようだ。これは考えを改めなければならない。

 こうなっては、早急に強くなる必要があるな。

 せめて、自分の尻を守れるぐらいには……。

 

 俺は決意を固め、今後の立ち回り方について考えを巡らす。

 カラナフィがおっさんたちに何か聞きだそうとしているようだったが、俺はそれどころではない。

 自分の尻を守ることで、頭がいっぱいだったからだ。





「カラナフィ様、こちらにおられましたか」


 カラナフィの舎弟である、インキュバスのキースが拷問室に入ってきたのは、日が傾きはじめた頃だった。


「キースか。どうしたのさ、あたいになにか用かい?」

「はい。魔王エギーユ様が四天王と八魔将に召集をおかけになりました」

「エギーユさまが!?」

「ええ、おそらくは……サイサリスとの戦に向けた会議かと」

「四天王とあたいら八魔将を呼ぶくらいだ。きっとそうだろうさ。それで、いつなんだい?」

「八魔将の中には城を離れている者もおりますので、招集は明晩となりました」

「そうかい。わざわざ教えにきてくれてすまないねぇ」

「いえ、この程度、お役目の内にも入りません」


 労いの言葉を受けたキースの顔が綻ぶ。

 この表情を見るに、ひょっとしらギャル男(キース)は、カラナフィに惚れているのかも知れないな。

 まあ、カラナフィのおっぱいの所有権はすでに俺のものだがな。残念だったなギャル男。


「ところでカラナフィ様、そこの……覆面を被った者たちはいったい?」

「あ、ああ! こ、こいつらはあたいの側近さ!」

「側近……ですと? はて、わたしは初めて見ますが……」

「そ、そりゃそうだろうよ。なんせ、そこのガイアたちはあたいが直接口説き落と(スカウト)してきた歴戦の戦士だからね。キース、お前さんが知らないのも当然さ」

「は、はあ。しかし『ガイア』、ですか……? はて、以前どこかで聞いたような名――」

「うっせーぞギャル男」


 俺はギャル男に昨日に続き、二度目の肩パンを見舞う。

 それも昨日より強めにだ。


「痛い! な、なにをするのですかっ!?」


 ギャル男は殴られた肩を押さえて後ずさる。その顔は怒りと驚きで歪んでいた。

 どうやら俺の名を思いだすことはやめたようだ。

 もっとも、いまの俺と麻袋を脱いだオークの俺が、まさか同一人物だとは思うまいがな。


「おやめガイア。キースはあたいの配下なんだよ」

「チッ……命拾いしたな、このギャル男が」


 そう吐き捨て、俺はギャル男を蹴飛ばす。


「キース、ガイアは気が短いんだ。あとはあたいに任せてここを出ておいき」

「くっ……わかりました。では、失礼いたします」


 ギャル男は悔しさで顔を歪めながらもなんとか取り繕い、しぶしぶ拷問室を出ていった。


「ガイア! お前さん急になにしてくれんのさ!」

「フッ、俺の名にたどり着かないようにしたまでよ」

「うぅ~」


 苦悩し、わなわなと体を震わせるカラナフィはほっとき、俺は話を戻す。


「ところでカラナフィ。いまギャル男が言っていた『召集』の件なのだがな、」


 俺の言葉で思いだしたのか、カラナフィは伏せていた顔をあげた。


「召集が……どうかしたのかい、ガイア?」

「俺も参加できるか?」


 この魔王城における実力者が揃うのだ。

 尻を狙われるリスクは依然存在するが、それを押してでも全員の顔を一度は見ておきたい。 


「そうだね、あたいの側近ってことにしておけば、お前さんひとりぐらいならいても問題ないだろうさ」

「ふむ。ならばぜひ帯同させてもらおう」

「ああ。そうしてくれるとあたいも助かるよ。でも……変なことだけはしないでおくれよ?」

「安心しろ。俺は空気の読める男だからな」

「そう願うよ。しかっし……なんとも厄介なことになっちまったね。四天王に八魔将がそろうなんて。こりゃあ――」


 眉根を寄せ、厳しい顔をしたカラナフィが続ける。


「ひと波乱あるよ」

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