第六話 終わりなき追撃 その3
「クワァァァァァァァァァ――……」
音の壁をブチ破ったグロリアは、衝撃波をまき散らしながらグリフォンに命中し、そのまま射ち落す。
そしてそれが、開戦の狼煙となった。
「おのれカラナフィ! 己ではなく下僕である下等種どもに戦わせる腹づもりか!?」
グロリアが命中し、グリフォンから投げ出されたデーモンが自分の羽を広げたあと、忌々しげに叫ぶ。
「我ら騎獣部隊の相手など、下僕だけで十分だなどとは言うまいな?」
「…………」
「我らに語る舌は持たぬか……傲慢な。ならば――下僕どもを殺しつくしっ、お前を引っ張り出してやるまでよ! かかれー!!」
おっさんはなやら勝手に解釈し、勝手にエキサイティングしているが、カラナフィが無言なのはただ硬直しているだけだ。
その証拠に、真っ青な顔してガタガタ震えている。
だが、目下の標的が俺たちになったのは好都合。カラナフィを護りながら戦うとなると、けっこー面倒だからな。
『よくやったビッチェル!』
『かっかっか! 見たとね小僧。さて、どんどんいくとよ! どれ……』
ビッチェルは足元に転がっている岩を地面から引っ張り出すと、危なすぎて投げちゃダメなサイズの岩を躊躇なく投げつけていく。
岩が目前に迫るなか、音速を超えたグロリアが生み出した衝撃波に晒され、空中でバランスを崩しているグリフォンには避けることができない。
「クワァァァ――……」
また一騎(一羽?)、グリフォンが落ちていく。
おっさんどもは、岩を投げつけてくるビッチェルを危険と判断したのか、その矛先をビッチェルへと向けはじめた。
『ビッチェルにだけ戦わせるわけにはいかんな。俺も出るか』
『待ってけろガイア。あたすがいま補助魔法さかけっからぁ――』
『いや、補助魔法は必要ない』
その申し出に、俺は首を横に振る。
断られたエリーは、少しだけ驚いた顔をしていた。
『え……? なしてだぁ。あたすの魔法さいらんのけ?』
『ああ。俺自身だけの力で、あいつらとどこまで戦えるか試してみたいんだ』
『そっか……んだども、危なくなったら回復さすっからなぁ』
『ありがとうエリー。その時は頼んだぞ』
『ん、任せてけろ!』
俺はエリーの頭を撫でたあと、グリフォンを失ったリーダー格のおっさんに狙いを定める。
『さて、上位デーモンとやらの実力、推し量らせてもらおうか! 炎槍!』
「――ぬうッ!?」
ビッチェルに気を取られていたからか、死角から放った炎槍がおっさんに直撃しその全身を炎が包み込む。
まずは様子見の一撃。
「オーク・メイジが交じっていたか。小癪な真似を……」
己の身を焼く炎を振り払い、怒りの形相を浮かべたおっさんが俺を睨みつけてくる。
ダメージは……さほどなさそうだ。上位デーモンともなると、魔法に対する耐性が高いみたいだな。
ならば――
『ビッチェル、あのおっさんは俺がもらうぞ!』
『わかったと! ならわっちはグリフォンどもば貰うけんね! 今晩は久しぶりに美味か肉ば喰えそうたい!』
『そうれは良い。今夜の夕食は豪勢いこうか! そっちは任せたぞ! ――〈火球連弾〉! 〈雷撃砲〉! 〈風刃乱舞〉!』
ビッチェルと振り分けを決めたあと、俺はおっさんに向けて立て続けに魔法を放つ。
間隙の少ない連続攻撃に、おっさんは腕を交差して防御しかできないでいる。
背中に羽を生やしてはいるが、動き自体は速くないみたいだな。あれだけ立派な体躯を持っていれば、それも当然か。虫キングのカブトムシだって、飛ぶのは苦手だしな。
『ほれほれほれほれ!!』
おっさんキングが防戦一方なのをいいことに、俺は次から次へと攻撃魔法を放っていく。
「――ぐうっ、調子に……のるなーっ!!」
怒声をあげたおっさんは、周囲に向けて魔力を放った。おっさんの魔力と俺の魔法がぶつかり、相殺される。
「ブヒブヒブヒブヒと、オークふぜいが調子に乗りおって。そんなに魔法比べがしたいのなら……遊んでやろう! 〈爆炎流〉!」
おっさんが魔法を放つと、俺を中心に円を描くように炎が走り、燃えあがっていく。
「焼け死ね! オークよ!」
「ッ!?」
瞬間、燃え上がっていた炎が弾け、視界が赤く染まる。
「ふん。オークには過ぎた炎術だったか…………なに!?」
『ちぃ、下半身が羊の分際でやってくれたな』
「あの炎術を受けて……生きているだと!?」
炎のなかからあらわれた俺を見て、おっさんが目を見開く。
それは、俺が無傷だったからか、はたまた服が焼け落ちて全裸だったからか、表情からは読み取れない。
だが、ここで肝心なのは、俺がおっさんの魔法を受けても無事だった、という事実のみ。
『デーモンの魔法というから期待して受けてみれば、なんてことはない。“この程度”とはな』
まあ、あいにくと、服の方は無事とはいかなかったが。
『ふっ、貴様の底を見せてみろ。この俺になぁ!』
「ブーブー喚くな! この下等で醜い豚がぁッ!! お前なんぞ殺して喰ろうてやるわ! 死ねい!!」
おっさんが、俺に罵詈雑言を浴びせながら攻撃魔法を撃ち込んでくる。
攻撃魔法自体は大した問題ではなかったが、罵詈雑言の方は、なかなか胸にきた。
心のマジックポイントがゴッソリともってかれた気分だ。
しかし……『殺して食べる』とか、どこのサイコキラーだよ。このおっさんマジ怖いわ。
『さて、そろそろ羽虫を落としてやるか。〈飛行〉』
俺は飛行魔法で飛び上がると、そのままおっさん目がけて飛んでいく。
「飛行魔法だと!? このオーク、いったいどれだけの魔法を持っている!? ええい! だがっ!!」
おっさんが魔力を溜め、詠唱をはじめた。
大きな魔法を使ってくるつもりなんだろう。
「死ねい! 」
周囲に黒い闇が広がり、視界が覆われる。
そのせいで俺はおっさんを見失ってしまった。
『どこだ!?』
前におっさんはいない。上にも下にもいない。もちろん、左右もはずれだ。
「ここだ。豚め」
返事は、後ろから返ってきた。
「串刺しにしてくれるわ!」
いつの間にか背後に回っていたおっさんが、俺に向かって長槍を真っ直ぐに突き出してきた。
俺を貫かんと迫りくる槍に対し、こっちも負けじと尻を突きだしていく。
『ふん。そうくると思っていたさ。喰らえ!! 〈巨蜘蛛糸〉』
「ぬぉぉぉぉッ!?」
俺の尻から伸びてきた強靭な糸に体を巻きつかれ、おっさんが驚愕する。
おっさんも、まさか尻からネバネバした糸が飛び出てくるとは思ってもいなかったのだろう。驚きの声をあげるばかりでなにもできず、糸に絡みつかれ動きを封じられてしまう。
『ふん。ザコが』
糸でぐるぐる巻きになったおっさんは羽を広げることすらできず、俺の尻から伸びる糸に絡みとられ、ぶらんぶらんしているだけの無力な存在と化した。
『ふ、背後を取ったぐらいで勝った気でいたのか? 阿呆が。俺に死角はない。無敵だ』
俺は空中でカッコイイポーズをキメたままお尻の穴をキュッと締め、糸を切る。
地面に落ちたおっさんは、体を縛る糸を切ろうとがんばっているみたいだが、いまの俺からすれば地を這う虫にしか見えない。
『せっかくだ。このまま捕虜にしていろいろと聞かせてもらうとするか。さて、ビッチェルの方は……』
そう言いながら振り返ると、
『かっかっかっかっかッ!! 情けなかね! もう終わりと? もっと気張りんしゃい!! ほら! ほら! ほらぁぁぁぁ!!』
『ダー!!』
鬼の親子が、おやじ狩りをしていた。
ふたりの周辺には、射ち落されたグリフォンがピクピク痙攣しながら転がっている。
『ちょっとビッチェルよぉ、少しばかりやりすぎでねぇか?』
その凄惨さたるや、エリーがおっさんたちに同情しはじめちゃったぐらいだ。
『かっかっか! かーっかっか!!』
ビッチェルは倒れているおっさんたちを無理やり起こし、殴り続け、
『アーイー!!』
グロリアはグロリアで、首相撲からのひざ蹴りを執拗なまでに打ち込んでいる。
そんな鬼の親子を見て、カラナフィは完全に言葉を失うのだった。




