最終話 ポケットゥの中の戦争 後編
「もぉ~、あたしたちに逢えて嬉しいのはわかるけど、いい加減泣き止みなさいよねー」
「かっかっか、ジュディの言う通りとよ。小僧、メソメソするのはオスらしくなかね。さっさと泣き止むとよ」
照れるジュディと諭すビッチェル。
俺はそんな二人に対して「うるせー」と答えながら、流れ出る涙を腕で拭う。
誰が貴様たちとの再会が嬉しくて涙を流すものかよ。
俺はただ、ファーニィとの別れが辛すぎて泣いているのだ。心が痛すぎて泣いているのだ。
夕日に照らされ、まるで血のように赤くみえる涙を流す俺の足取りは重い。
数歩進んでは後ろを――ポケットゥをすぐ振り返ってしまうため、街からそれほど離れてもいなかった。
半壊した甲翼幕士団も、あれほどまでに俺を仕留めようと躍起になっていた神殿騎士団も、誰ひとりとして追ってきてはいない。
ジュディたちが散々暴れはっちゃけたせいで、追撃どころではないのだろう。
「ファーニィ……」
再び振り返った俺は、思わずそう呟く。
泣き虫なファーニィのことだ。
きっと……きっと、いまも泣いているに違いない。
できることなら、いますぐにでも戻りたい。戻ってファーニィを抱きしめてやりたい。
しかし――
「でもほんとガイアが見つかってよかったー」
「んだなぁ。パパさんとママさんも心配してたからぁ、こーれで安心してくれっぺよぉ」
「かっかっか、小僧を待ってるのは小僧の両親だけじゃなか。村のみんなが待っとるとよ。なあ、グロリア?」
「バーブー」
この化物たちから逃げることは、俺でも不可能に近い。
ポケットゥではファーニィがひとり泣いているかも知れないというのに、俺は別れを告げることすらできずにいるのだ。
せめて、ジュディだけでもなんとかできさえすれば……。
「もうっ、どうしたのよガイア? さっきから振り返ってばかりいてさ。あーっ、わかった! ガイアってばいい匂いがしてたヤツ食べ損ねたから気になってるんでしょー?」
「ちげーよ」
「ブヒィ!」
うっとうしくも隣まで歩いてきたジュディを裏拳で黙らせる。
まったくこのメス豚は、感傷に浸っているところをわざわざ邪魔しにきやがって。
「もう! ひどいんだから!」
そう言ったジュディは拗ねてしまったのか、ぷいとそっぽを向いてしまう。そのはずみで赤髪が舞い上がり、あらわになるうなじ。
そのうなじを見た瞬間ピーンと閃くものがあり、気づけば俺はジュディの後ろから腕を回し、自分の方へと抱き寄せていた。
「きゃっ、え!? なになに!? ど、どうしたのガイア? なんで急に!?」
「静かにしてジュディ。ジュディの後ろ姿を見てたらさ、なんだか無性に抱きしめたくなっちゃってさ。我慢できなかったんだよ」
耳元でそう囁くと、とたんにジュディの体から力が抜け落ちる。
ゆっくりと、でも少し恥じらうように体を預けてくるジュディ。
「ん……ダメ、ダメよガイア。まだ……ダメ……」
「なんでダメなんだい?」
「だって……だって夕日さんがこっちを見てるもの。もう少し、もう少しで夕日さんが沈むから、そしたら暗くなるから、それからならあたしも……」
「夕日なんて気にするなよ。なんなら見せつけてやろうぜ。ジュディはただ、黙って俺に身をゆだねてくれればいい」
「……ん」
ジュディはぎゅっと、強く目を閉じる。その逞しい体は、僅かに震えていた。
俺たちの後ろでは、エリーとビッチェルのふたりが、驚いた顔をしながらこっちを見ている。
「はわわわわ、ガ、ガイアったら大胆だべぇ。こったなとこでおっぱじめるつもりけぇ!?」
エリーは真っ赤になった顔を両手で覆いながらも、指の隙間からちらりちらりと。
「かっかっか、小僧はわっちらに会うのが久しぶりけんね。思わずさかってしまうのもしょうがなかとよ。ま、小僧も“オス”だったということっちゃ」
「バーブー」
ビッチェルは大きく頷きつつも、グロリアに目隠ししながら。
それぞれ違った反応を見せているが、期待しているのは一緒のことだろう。
だが、俺はそんなふたりに構わず、甘い囁きを続けながらジュディに密着すると、そのぶっとい首に右腕を巻きつける。
首に回した右腕でジュディの左肩を掴み、空いた左手のひらで後頭部を前へ押し込んでギリギリと締め上げていく。
そう。裸締めである。
「んッ……ガ、ガイア……ちょっど、ぐるじ……い……」
「えいしゃおらーっ!!」
俺はあらん限りの力を両腕と広背筋に送り込み、ジュディの首を絞める。
この攻防は、実に半刻の間続いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと落ちたか」
いま俺の足元には、白目を剥いたジュディが幸せそうな顔で転がっていた。
こいつは並の人間ならば、僅か十秒で意識を失うチョークスリーパーに三十分(体感時間)もの間耐えてみせたのだ。
絞め殺すつもりだったのはずなのに、それよりも先に俺の腕が限界にきてしまったせいで失神させることしかできなかった。
「クソが……」
俺はパンパンになった腕をぶらりと垂らしたまま元来た道を歩き出し、ポケットゥに向かう。
「小僧、どこにいくつもりとよ?」
「ふっ、ちょいとやり残したことがあってな。戻らねばならんのだ」
「えぇ!? 急になに言うんだぁガイア。せっかくここまで来たのによぉ、まーた戻るんけぇ?」
「貴様たちはここで待っててくれ。なあに、月が頂点に昇る頃には戻ってくるさ」
「んなこと言ってもよぉ、ジュディはどーすんだぁ?」
「ふたりにはジュディを頼む。大丈夫、ジュディが目覚めるまでには戻れるはずだ。もし戻ってくる前に起きてしまったら、ここで待つよう伝えておいてくれ」
怪訝な顔をするエリーの肩に、ビッチェルがポンと手を置く。
「かっかっか、なるほどなるほど。わっちには小僧の考えがわかったとよ」
「えー? なんだぁ? ガイアはなに考えてんだぁ? ビッチェルよぉ、あたすにも教えてけろ!」
「いいかエリー。小僧はな、ジュディへの贈り物を取りにいくつもりとよ。ジュディは人間の集落で『いい匂いがする』ち言うとったけん。それを取りに行くつもりと。そうたいね、小僧?」
なんだかすごい勘違いをされている。
「あー、そうなんかー! まっだぐ、ジュディは幸せもんだなぁ」
エリーはビッチェルの説明で納得がいったのか、ぐったりしているジュディを羨ましそうな目で見ていた。
まあ、なにやら勘違いしているようだが、少なくとも俺の言った「ここで待っててくれ」という言葉は聞き入れてくれたみたいだな。
ならば、あえて誤解を解く必要もないだろう。
「ふっ、ジュディには内緒だぞ」
俺はそう言って片目をつぶった後、ポケットゥに向かって走り出した。
身にまとう服を、脱ぎ捨てながら。
街は、未だに混乱が続いていた。
破壊された門の修復やら負傷者の運びだしなどに追われ、街の住民も忙しそうに走り回っている。
そんなわけだから、蜥蜴迷彩を発動した俺が戻ることは容易かった。
「ファーニィは……こっちか」
匂いを頼りにファーニィを探す。
大きな街とはいえ、ファーニィがいる場所はすぐにわかった。
宿屋だ。
俺とふたりで泊まった宿屋に、ファーニィは戻っていたのだった。
真っ暗な部屋で。涙を流しながら。
なんとか宿屋に忍び込んだ俺は、ファーニィ以外の者を眠りの魔法と握りっ屁を駆使してひとりづつ眠らせていく。
「よし。これで邪魔が入ることはないだろう」
俺は階段をのぼり、ファーニィがいる部屋の前へと立つ。
「……よし」
そして小さく気合を入れたあと、扉をノックする。
「ファーニィ……お、俺だ」
反応はすぐに返ってきた。
「ッ!? おにいちゃん!? おにいちゃんなの!?」
ファーニィが床板のうえをタタタと走る音が聞こえ、扉を開けようとするが――
「ファーニィ、扉を開けてはダメだ!」
俺は扉が開かないよう、手で押さえつけていた。
「――え!? ど、どうして……?」
扉を挟んだ反対側から、ファーニィが責めるような声を出す。
「あけて、あけて! おにいちゃんあけてよっ!」
「それはできない」
「なん、なんで!?」
「それはね……お兄ちゃんいま、全裸だからなんだよ」
少しだけ、間が空いた。
「……いいもん。ファーニィ、おにいちゃんがはだかんぼでもいいもん! はだかんぼでもいいから……おにいちゃんにぎゅってしてもらいたいもん!」
「ダメなんだよ!」
俺は叫んだ。
やり場のない哀しみに、叫ばずにはいられなかったのだ。
「こんな破廉恥な姿、ファーニィには、ファーニィにだけは見られたくないんだ!」
「……ひっく、……やだぁ……」
扉越しに聞こえてくるファーニィの嗚咽が、俺の心を締めつける。
「泣かないでくれファーニィ。お兄ちゃん……お兄ちゃんな、」
「…………」
「わ、悪いモンスターを、倒しにいかなきゃいけなくなったんだ」
「…………」
「ファーニィも見ただろ? この街に突然あらわれたモンスターを。お兄ちゃんはね、あのモンスターを……騎士団を返り討ちにした凶悪なモンスター共をっ、倒しにいかなきゃいけないんだ」
「…………ファーニィも……おにいちゃんといっしょにいくぅ……」
「無茶を言うな。危険とわかっていながら、ファーニィを連れていくわけにはいかないよ」
「でもぉ……でもぉ……やだよぉ、ファーニィ……おにいちゃんとはなれるのやだよぉ……」
俺だって嫌だ。
でも、どうしようもないのだ。
ジュディからファーニィを守るには、もう離れるしか方法がないのだ。
「ファーニィ……眼は、見えるようになったか?」
「…………うん」
「そうか。良かった。本当に……良かったよ」
「おにい、ちゃんの……えぐ……お、おかげだ、もん」
「そう言ってくれて、ありがとう」
瞼を閉じると、ファーニィと過ごした日々が鮮明に蘇ってくる。
「なあ、ファーニィ。お兄ちゃん、少しはファーニィのお兄ちゃん“らしく”なれたかな?」
「グス……おにいちゃんはファーニィのおにいちゃんだよぉっ! ずっとずーっと、ファーニィのおにいちゃんだよぉ!」
ファーニィのその言葉を聞き、自然と頬を涙が伝っていく。
「ファーニィも……ファーニィもずっと俺の妹だ!」
「うん」
「ファーニィ、いまから大事な話をする。これからの……ファーニィの、これからのことだ」
「……うん」
俺は頭の中だけでゆっくりと十を数え、ファーニィが落ち着くのを待ってから話しはじめた。
「いいかファーニィ、よく聞いてくれ。まず、この手紙を商人のハーディに渡すんだ」
そう言うと同時に、扉の隙間に手紙を差し込む。
ファーニィが手紙を受け取ったのを確認してから、続ける。
「その手紙には、今後ファーニィの面倒をみるよう書いてある。ファーニィが望むなら、きっと神殿で勉強もさせてくれるはずだ」
「……うん」
「金の心配はしなくていい。俺が受け取るゴールド・ゴーレムの報酬は全てファーニィのものにするよう書いてあるからな。必要な時に必要なだけ用意してくれるさ。だから心配はいらない」
「……うん」
「あと……こっちの手紙はファーニィへ書いたものだ。どうしようもなく寂しくなった時にだけ読んでくれ」
再び扉の隙間から手紙を差し込む。
いま渡した手紙には俺の考案した渾身のギャグが書き連ねてあるから、寂しさなんかすぐに吹き飛んでしまうことだろう。
「……おにいちゃん、」
「ん? なんだ?」
「えと……ファーニィね、その……じが、よめないの」
「ふっ、知ってるよ。だから――」
俺は、涙を流したまま、励ますように、希望を持つように、明るい声を出す。
「――これからいっぱい、勉強するんだぞ!」
見えてはいないが、ファーニィが泣き崩れるのがわかった。
「……うん。ファーニィ、いっぱいべんきょうする」
「そうだ。いっぱい勉強するんだ。なんせ俺はファーニィにいっぱい手紙を書く予定だからな。はやく字が読めるようにならないと、どんどん手紙がたまっていくぞ。読むのが大変になるぞ」
「うん。おにいちゃんにおへんじだせるように、じをかけるようになる」
「ファーニィからの手紙か……楽しみだ」
「うん。まっててね」
「ああ、そうだ。いままで黙っていたが……ファーニィには魔法の才能があるぞ。読み書きだけじゃなく、神聖魔法も勉強するといい」
ポケットゥに向かう馬車のなかでファーニィが「神殿で勉強したい」と言った時、実はこっそりと〈鑑定〉スキルでステータスを確認していたのだ。
ファーニィは魔法の才能が高く、伸ばせば一流の魔法使いになれる逸材であった。
「まほー……ほんと? ファーニィ、おにいちゃんみたくまほーつかえるようになる?」
「本当だとも。ファーニィなら高位の神官にだってなれるぞ」
「……なる。ファーニィ、いっぱいべんきょうして……おにいちゃんみたくこまってるひとをたくさんたくさーん、たすけるの!」
「その意気だ!」
ファーニィの声に、少しづつ明るさが戻ってくる。
たとえそれが、空元気だとしても。
「だからね、おにいちゃん、」
「ん?」
「ファーニィ、いっぱいべんきょうしておにいちゃんのめいわくにならないようにするから、いつか……いつか――いっしょにいさせてね」
「――ッ……ああ。いつか一緒に困ってる人を助ける旅に出よう。ファーニィと一緒なら、毎日が楽しくて最高だ!」
「うん。ファーニィ、いまはなにもできないこどもだけどね、ぜったいおにいちゃんのやくにたてるおとなになるから、ぜったいになるからっ、……だからね、おにいちゃんはさきにいって。さきにいって、いまこまってるひとたちをたすけてあげて」
「ああ」
「ファーニィ、すぐおいかけるから! はしってくから! だからっ、だからねっ、」
扉越しに、鼻をすする音が聞こえる。
きっと、ファーニィはくしゃくしゃになった泣き顔で、それでも心配させまいと笑顔をつくって、そっと優しく俺の背中を押す。
「いってらっしゃい、おにいちゃん」
「ああ……いってくる」
少しでもファーニィの温もりを感じようと扉をひと撫でしたあと、俺は宿屋から立ち去った。
ちらちらと雪がチラつきはじめた街の外がひどく寒いと感じたのは、全裸だったからだと思うことにした。
「やっと戻ってきたよぉ。風邪っこひいてねぇかガイア?」
「かっかっか、寒かったらわっちが温めてやるけん。こっちに来るとよ」
戻ってきた俺に、エリーとビッチェルのふたりが声をかけてきた。
俺に覇気がないのを感じ取って心配してくれているんだろう。まったくもって巨大なお世話だ。
「ジュディは……まだ寝てるのか」
「そうたいね。ジュディはまだ夢のなかたい。なんせ、あんなに激しく抱きしめられたとよ。昇るような気持ちだったに違いなかと」
白目を剥いたまま失神し、薄ら笑いを浮かべているジュディを見たビッチェルがそう言った。
なーにが『昇るような気持ち』だ。いっそそのまま昇天しちまえばよかったのに。
「なあなあガイア。ガイアはジュディになにさ持ってきたんだぁ? 贈り物に、なにさ持ってきたのか見せてけろ」
「これのことか?」
俺は道端で拾った串焼きをエリーに見せる。
エリーは小さく「いいなぁ」と呟いた。
「小僧、それはなんね?」
「これは香辛料を振った鳥の肉を焼いたものだ」
「ほお。人間はそんなものを食べるとか?」
ビッチェルの口から溢れるヨダレが地面に落ちていく。
「そんな顔をしなくても大丈夫だ。ちゃんと四人分ある。ほれ」
俺は串焼きをビッチェルとグロリア、エリーに手渡しあと、残った一本に魔力を付加してジュディの額に突き刺す。
ジュディは「いったーい」と言いながら目覚めるが、すぐに額に突き刺さった串焼きに気づき、それを引っこ抜いてむさぼり喰らう。
毒盛っときゃよかった。
「ねーねーガイア、どこに行くのよ?」
「うっせーな。ついてくんなよブス」
「なによその言い方!? ひっどーい! ガイアったらひっどーい!」
ファーニィと離れ離れになった俺は、少しだけ性格が悪くなった。
「かっかっか、小僧はほんに恥ずかしがり屋とね。ばってん、そがな言い方してたらメスに嫌われるとよ」
「ケッ、望むところだよ」
「そっだなことよりよぉ、ほんとガイアはどこさ行くつもりなんだぁ? こっちは村さある森の方角じゃないっぺよ」
エリーの言うように、俺はオークの村がある森とはまったく違う方角に向かって歩いていた。
というより、端から行く宛もなく彷徨い歩いていたのだ。
「さあな。自分でもどこに向かってんのか知らねーよ」
俺は大地に唾を吐き捨てたあと、肩をいななかせながら前に向かって歩き続ける。
ジュディたち三人は顔を見合わせ肩をすくめるが、諦めずについてきていた。
いったいどれぐらい歩いただろうか?
月明かりだけが足元を照らすなか、最初に“それ”に気づいたのはグロリアだった。
「バーブー」
そう呻きながら、母であるビッチェルの髪を引っぱるグロリア。
「どうしたとグロリア?」
「バブ、バーブー」
「グロリアちゃんどうしたんけぇ? 空なんか指さしてよぉ」
「バーブー」
「ちょっとみんな見て! ほらあそこ、なにか飛んでるわ!」
三人がグロリアの指さす先に視線を投げるなか、俺はひとり構わず歩き続けようとした。
だが――
「なあにアレ? 鳥?」
「ジュディ、アレは鳥じゃねぇよぉ。あっだに大きい鳥なんかぁ、あたす見たことねぇもん」
「えー。じゃあなによ?」
「かっかっか、こりゃ驚いたけん。アレは飛龍とよ」
飛龍。その言葉に反応した俺は、三人にだいぶ遅れて空を見上げる。
「あれが……ワイバーン」
夜空を舞う、一匹の飛龍。
全身を覆う鱗が月光を鈍く反射させ、前肢が変化(進化?)した翼を使い空を駆ける大型の獣。
これだけ離れていてもハッキリ見えるということは、かなり大きいに違いない。
おそらく十五メートルは下るまい。
「空を駆ける翼、か」
あの飛龍を〈捕食〉したら、俺に翼が生えて空を飛べるようになったりしないだろうか。
そして海を越え、ファーニィとふたりで過ごせる安住の地まで飛んでいけないだろうか。
とかそんなことを漠然と考えていたら、件の飛龍が進路を変えこっちに向かって飛んでくる。
「ええ!? あああ、あのワイバーン、こっちさ向かってきてるよぉ! あたすたつを食べちまう気なんでねぇか!?」
「ワイバーンは強いけんね。噛まれたらあっという間に空へと持ってかれるたい! 注意すると!」
「じょーとーよ! あんなのおっきいだけのトカゲじゃない。あたしがやっつけてやるわ!」
慌てるエリーと、殺る気まんまんのふたり。
飛龍が俺たちの頭上で旋回をした、その時、
「はぁー!」
何者かが、飛龍の背から飛び降りる。
暗くてよく見えないが、おそらくは人。
飛龍の高度は、軽く三十メートル以上ある。そんなところから人間が飛び降りるなんて、無事で済むはずがない。
瞬時にそう考えを巡らす俺をあざ笑うかのように、飛び降りたその何者かは“己の翼”を広げた。
「な!? 翼だと!?」
何者かは翼をはためかせ、ゆっくりと降りてくる。
肌が黒く見えるのは、なにも薄暗いからではない。その者の肌自体が、褐色だったからだ。
――『思いがけない再会に注意しろ』――
ファーニィと一緒に行った、占い師の言葉。
俺はてっきり、あの占いはジュディたちのことだと思っていたのだが……。
「久しぶりだね、ガイア――」
静かに、音もなく地面に降り立った“ソイツ”は、翼をたたみながら小悪魔のように笑う。
「ずっとあんたを……探していたよ」
「そんな……お前は……」
豊満な胸の前で腕を組むその女の名を、俺は叫ぶようにして言う。
「カラナフィ!!」




