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山のふもとに着いた俺は荷馬車を停めると、召喚した死霊に荷馬車の護衛を任せ、単身山越えに挑む。
チャベスは山を迂回するよう言っていたが、ファーニィの元へ少しでも早く戻るため、俺はまっすぐ進むことを選んだのだ。
草木をかき分け、泳いで河を渡り、木立を抜けた先でやっと目的の場所を見つけることができた。
山が削れて、むき出しになった岩場。
そこに無数のゴーレムが闊歩している。
ゴーレムは失敗した粘土細工のような、大小さまざまな岩石が集まって人型になっただけの粗末な造りだ。だが、一体一体がニ・五メートルもある。あれがすべて石でできているとなると、防御力に攻撃力もそれなりにあることだろう。
俺はゴーレム共の一挙手一投足をつぶさに観察する。妹が待つ俺に失敗は許されない。情報は少しでも多い方がいいのだから。
そして、よくよく観察して見ると、どうやらゴーレム共は岩肌の裂け目――洞窟のような場所を守っているみたいだ。
目的のゴールド・ゴーレムがいるとしたら、あの洞窟が最も可能性が高いだろう。
さて、どうするかな。
俺は手始めに〈鑑定〉の能力を使って、ゴーレムのステータスを調べることにした。
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種族:ストーン・ゴーレム Lv.10
HP 1000/1000
MP 0
体力 200
筋力 200
魔力 0
敏捷性 15
知性 0
物理防御 300
魔法防御 50
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所詮は量産型ゴーレムといったところか。ちょっと強い雑魚モンスター程度でしかない。
物理防御がそれなりにあるようだが、岩をも砕く俺の拳をもってすれば一撃、二撃で片がつく。これならまだトロルの方が歯ごたえのある相手といえよう。
だが、いかんせん数が多い。一体づつ闘魂注入していったら、あっという間に日が暮れてしまうことだろう。
なにか他に手はないか?
そう考えを巡らす俺の視界に、地面に転がる冒険者たちの亡骸が飛びこんできた。
長い年月を経て風化し、骨だけの姿になってしまった冒険者たち。
彼の者たちの無念をどかんと一発晴らしてやるのも、ヒーローたる俺の使命ではなかろうか?
見ればこの岩場は特撮ヒーロー物の最終決戦地、爆発OKな採石場によく似ている。
まさにヒーローが活躍するに相応しい舞台といえるだろう。
『我が召喚に応じ、黄泉の国より還れ戦士たちっ!!』
魔力を込めた“力ある言葉”により冒険者たちの亡骸が起きあがりはじめ、その手にかつての相棒を握る。
俺が死霊術により創り出した骸骨戦士の数は、優に百を超えた。
それだけ多くの冒険者たちが、この地で散っていったということなのだろう。
動き出したスケルトンたちに、ストーン・ゴーレム共が反応をみせる。
「かかれーっ!!」
ストーン・ゴレーム共の迎撃態勢が整うよりも早く、俺はスケルトンたちに一斉攻撃の指示を出した。
ちょいとギクシャクしているが、スケルトンたちは防御力の高いストーン・ゴーレム相手になかなか良い戦いをしている。
ひょっとしたら、素体となる亡骸の生前の強さが関係しているのかも知れないな。
いつかジュディを仕留めることができたら、ぜひ試してみよう。
そんな小さな決意を胸に、俺は干し肉片手にスケルトンたちの奮戦を見守る。
「鎚矛持ちは右側へ回り込め!」
「中央の陣を厚くしろ! なんとしても守り抜け!」
「骨膜薄いよ、なにやってんのっ!」
もちろん見守るだけではなく、ちゃんと指示を出して的確にスケルトンたちを動かしていく。
なんだかリアルタイムシミュレーションゲームをやっているみたいで、けっこう楽しかったりもするからタチが悪い。
その甲斐あってか、洞窟から次から次へと出てきて増え続けるストーン・ゴーレム共を相手に、俺の操るスケルトンたちはなんとか五分にわたり合えている。
そして、俺の腰袋から干し肉が尽きようとしたその時、遂に目的の獲物がその姿を現した。
沈みゆく日の光を全身で反射させ、眩い輝きを発する黄金色のゴーレム。
間違いない。ゴールド・ゴーレムだ。
「きたかっ!」
俺は喜び勇んで立ち上がると、すぐに獲物目がけて駆け出していく。
そして、握った拳をまっすぐにゴールド・ゴーレムへと叩き込んだ。
「はぁーーーーッ!!」
渾身の力を込めた拳。
しかし絶大な威力を秘めた俺の一撃は、ゴールド・ゴーレムの装甲によって弾かれてしまった。
「なっ!? 俺の拳撃が……効かないだと!?」
そう。岩を、古の魔法で強化された迷宮の壁を、一撃で割り砕いた俺の拳を持ってしても、ゴールド・ゴーレムには僅かな傷しかつけることができなかったのだ。
「面白い……いったいどれほどの力を持っているのか……見せてもらおうかっ!〈鑑定〉発動!!」
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種族:ゴールド・ゴーレム Lv.77
HP 7776/7777
MP 0
体力 ∞
筋力 1000
魔力 0
敏捷性 100
知性 0
物理防御 5000
魔法防御 500
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なんかもう、色々とおかしい。
なんだよ体力∞(インフィニティ)って。
特別な魔道生命体だから、スタミナ関係ないとでもいうのだろうか?
それに物理防御力の高さ。
誰だよこんな無茶なゴーレム造ったの。ちょっと小一時間ばかり説教してやりたい気分だ。
ゴールド・ゴーレムと対峙した俺は、雑魚ゴーレムが邪魔しに入らないようスケルトンたちを動かす。
俺を囲むように防御陣形を取らせはしたが、ストーン・ゴーレムとどっこいのスケルトンたちではゴールド・ゴーレムの相手にならないだろう。
―― 一度退くべきか?――
そう考えた俺の脳裏に、一瞬だけファーニィの顔がよぎる。
退くわけには……いかない!
ファーニィに笑顔を、色づく世界を取り戻すために俺はここまで来たのだ。
いまの俺に、後退の二文字など存在しない!
「いっくぞぉぉぉぉぉッ!!」
再び拳を握り、殴りかかっていく。
おそらく……これは試練なのだろう。
本当の意味でファーニィの兄となり、『にーに』と呼ばれるための試練なのだ。
ならば乗り越えるまで。例え僅かなダメージしか与えられないとしても、ヤツが動かなくなるまでなぐり続けてみせるさっ!
だって俺は……ファーニィの“お兄ちゃん”なのだから。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
俺は荒い息を吐きながら地面に倒れ込み、四肢を投げ出す。
「クソッ……ガラクタの分際で手こずらせやがって……」
俺の傍らには、核を砕かれたゴールド・ゴーレムが、立ったままの姿勢で停止していた。
なんど拳を振るってもあまり通じなかったが、途中から『魔法の力を鎧のように全身に纏って闘う』という厨二的発想法に基づいて試してみたところ、攻撃魔法と物理攻撃、その両方の特性を持つ超攻守一体の複合技を、闘いの最中習得することに成功したのだった。
炎や雷、水に風といった様々な魔法の鎧を纏うことにより、なんとかギリギリでゴールド・ゴーレムを討ち倒すことができたのだ。
正直、天才的なひらめきと、それを実行に移せる対応力が自分でも恐ろしい。
見事死線をくぐり抜けたいまの俺ならば、きっとあのジュディが相手でも撲殺できるかもしれない。
いや、できるに決まっている! そう……信じたいものだ。
「ふぅ……よっと」
傷の修復と呼吸が整ったところで体を起こし、ゴールド・ゴーレムの元に歩いていく。
核のあった胸部中央こそへこんでしまっているが、それ以外は傷が少ないから部位ごとに切り分けて運ぶより、きっとこのまま運んだ方が値があがるに違いない。
それに強いモンスターの毛皮とかは、金持ちが欲しがるから傷が少ないほど高く売れるって、ミャムミャムが言っていたしな。
ゴールド・ゴーレムはこのまま運ぶことにしよう。
「お前たち、雑魚どもの核は抜いたか?」
生き残って(もう死んでるけど)いたスケルトンたちの方を向くと、俺の指示どおり雑魚ゴーレムの核を集め終えていたらしい。手の空いていたスケルトンが頭がい骨のうえで両手を使い、大きく丸をつくっていた。器用なヤツだぜ。
「雑魚どもの核でもそれだけ集まるれば、かなりの値がつくだろうな」
魔術的な回路で繋がっていたのか、ゴールド・ゴーレムの核を砕くと同時に、ほかの雑魚ゴーレム共もその動きを止めた。
雑魚ゴーレムはゴールド・ゴーレムに比べて造りがてきとーなのか、動きが止まると同時に崩れ落ち、いまではただの岩石となっている。
小山になった岩石のなかから、核を見つけるのはそれほど難しいことではなかった。
指示さえ出せば、スケルトンでも集められるほどに。
「よーし! お前は集めた核を革袋に入れて背負え。残りの者たちは俺が仕留めたゴールド・ゴーレムを運ぶんだ。いいか、そっと持ち上げるんだぞ! これ以上傷をつけるなよ!」
スケルトたちはカタカタと骨を鳴らしながら頷き、作業に取りかかった。
やがて、準備が整ったのを確認した俺は麻袋をひるがえし、
「では帰るぞっ! 可愛い妹の元へ!!」
と声をあげる。
夜空に浮かぶ三日月の隣に、ファーニィの笑顔が見えた気がした。
「ふぅ……村が見えてきたか」
視線の先に、ファーニィが待つちんけな村が見えじはじめた。
やはりというか、行きよりも帰りの方に時間を取られてしまった。
ゴールド・ゴーレムをそっくりそのまま持って帰っているのだから、当然といえば当然だがな。
それにしたって帰還は困難を極めた。
木立にゴールド・ゴーレムが引っかかってしまたり、河ではスケルトンが流され、支えを失ったゴールド・ゴーレムが河底に沈んでいってしまったり、麻袋を脱ぎ、ひとり休息を取っていた俺をモンスターだと勘違いした冒険者たちが襲いかかってきたりと、まあ、いろいろあった。
あげくには、やっとこさ運び終えたゴールド・ゴーレムをいざ馬車の荷台に積んでみれば、重すぎて馬が引けないときた。
ここまで付き従ってきたスケルトン御一行は、魔法で掘った穴に埋めて――埋葬してきたため、代わりに俺が自身が馬車を引くしかなかったのだ。
自由になった馬を、舌打ち交じりに横目で睨みながら馬車を引く。
ヒヒンじゃねーよばかやろう。
胸中でそう悪態をつきながらも、やっとここまで戻ってこれた。
冬がすぐそこまで来ているにも関わらず、俺の全身からは汗が止めどなく噴きでている。
額の汗を吸いまくり、麻袋もぐっしょりだ。
「えいしゃおらーっ!」
俺は気合を入れなおして馬車を引く。
人の“想い”とは、時に思いがけない力を生むものだ。
もうひと頑張りすれば、妹に逢える。
もうひと頑張りすれば、妹とお風呂に入れるかもしれない。
その“想い”が、スタミナの尽きかけていた俺に力を与え、馬車を引く手に、大地を踏みしめる脚に、自然と力がこもる。
すぐ近くでは、俺と役目を交代した馬がのん気にパカラっていたが。
ヒヒンじゃねーよばかやろう。
「あこにいるのは……まさかファーニィか?」
太陽が沈みかけたころ、俺はやっと村へと辿り着くことができた。
そこで、村の入口にたたずむファーニィを見つけたのだった。
ファーニィは毛皮に包まりながら、ぽつんとひとり立ち尽くしている。
ひょっとして……ずっと俺の帰りをここで待っていたのだろうか?
お兄ちゃんである……俺の帰りを。
ファーニィの父親は、ファーニィの眼を治すため、戦争に行ったまま帰ってこなかった。
だからこそ、同じ目的でゴーレムの討伐に向かった俺と、父親の姿を重ねていても不思議ではない。
いつ帰るともわからぬ俺の帰りを村の入り口で、村の“外”に最も近いこの場所で、ひとり待ち続けていたのだ。
「ファーニィ…………ファァァニイィィィっ!!」
俺は自分でも気づかぬうちに大声をあげると、馬車を放り出しファーニィに向かって走り出していた。
「おにい……ちゃん……? おにいちゃーーーんっ!!」
「ファーニィ! ファーニィっ!!」
「おにいちゃんっ!」
走り寄った俺はそのままファーニィを抱き上げ、強く抱きしめる。
ファーニィも俺の首に腕を回し、全力で抱きしめてきた。
「おにいちゃん! おにいちゃん!」
「ただいま、ファーニィ」
「……うん」
ファーニィの肩が震えている。
寒いからではない。込みあげてくる涙と必死に戦っているからだ。
「ファーニィね、おにいちゃんのこと……しんぱいだったの。おとうさんみたく、かえってこなかったらどうしようって……しんぱいだったの……」
「心配をかけたな。だが、約束しただろ? 絶対に帰ってくるって」
「……うん」
ファーニィを地面に降ろしてから、目線を合わせるようにしてしゃがみこむ。
「ちゃんといい子にして待ってたか?」
「うん。ファーニィ、いいこにしてたよ!」
「泣いたりしなかったか?」
「……う、うん!」
大きく頷くファーニィであったが、泣きはらしたその顔を見れば真実は明らかだ。
俺はそんなファーニィの頭をくしゃりと撫で、
「ファーニィ、嘘が下手だな……」
と言って笑うのだった。
【第四話】 川を渡って木立を抜けて 後編




