3
母が死んだ。
その日から、ファーニィ・ワイズマンの刻は止まったままだった。
病に侵された眼は霞がかかったように世界を包み隠し、いまでは明暗ぐらいしか分からない。
それでも朝は――日の光は分かる。まだ完全には光を失っていないのだ。
でも、いったいそれにどんな意味があるというのだろうか。
母が死んだあの日から、ファーニィに“明日”はきていない。
ファーニィは明日などこなければいい、と思っている。二度とこなければいい、と。
母と一緒に過ごしていた、苦しくも楽しかったあの刻から、自分だけが離れていくことをひどく畏れているのだ。
たった独りで前へ進みだすことなどファーニィに出来るはずがなく、それゆえに明日などこない。いつまで経ってもあの日のままでなのだ。
母といた刻にしがみついているのだ。
唯一、日に日に痩せ衰えていく体だけが、無情にも刻の流れをファーニィに突き付けてくる。
――こんなに痩せ細ってしまっては、おそらく次の冬は越せないだろう――
光を失いつつあるこの眼では、薪を集めるどころか、火すら起こせない。
――きっと自分も母と同じように肺を患い、苦しみながら死んでいくのだ――
ファーニィは隙間風が吹き込んでくる度に、ついそんなことを考えてしまう。
あの身を引き裂くような寒い冬の朝、母は息を引きとった。
苦しそうに荒い息を吐いていた母の呼吸が、ふとした拍子に止まる。
あの瞬間、母は微笑みながら逝けたのだろうか。
最期まで手を握っていたファーニィは、まだ暖かさが残るその手を頬にあてがい、静かに涙を流していた。
寂しいからではない。
哀しいからではない。
ただ、安堵したのだ。
苦しみから解放された母に、ファーニィは安堵したのだ。
この時ばかりは、病に侵された眼に感謝した。
母の苦しむ姿を、最期まで見なくてすんだのだから。
母は嘘つきだった。
子供とはいえ、さすがに何年も父が帰って来なければファーニィでも気づく。
なのに、最期まで……最期の最期まで、母は父の死を教えてくれなかったのだ。
母がなぜそんな嘘をついたのかは、なんとなく想像が出来る。
希望を持たせるためだ。
生きることを、諦めさせないためだ。
でも、こんな眼でどう生きればいいというのか。
明日どころか足元さえ見えない、こんな眼で。
父は帰ってくる。ファーニィはそう村の者に言い続けた。
母がついた嘘を、守り抜くためだ。
そう。父は帰ってくる。
近いうちに訪れるであろう、ファーニィの最期の瞬間。
その刻にこそ、父は帰ってくるのだ。もちろんその隣には母もいる。
そして家族みんなで旅立つのだ。
苦しみも哀しみも存在しない……優しい世界へと旅立つのだ。
だから今日もファーニィは薄っぺらい布きれに包まり、冷たく硬いベッドにうずくまる。
父と母が迎えにくる、その日を待ちながら。
家をぐらぐらと揺らされたのはそんな時だ。
ファーニィは最初、村の子供たちを疑った。
もうずいぶんと来ていなかったが、眼の見えない自分をまたからかいに来たのだと思ったのだ。
ベッドから降りて扉を開けた。
目がほとんど見えなくとも、これぐらいはできる。
ずっと住んでいる家だ。どこに何があるかなんて、見えなくてもわかるのだ。
扉を開けたファーニィは、隙間から外をうかがう。
大きいひとだな、と思った。
日の光を遮るほどの、大きな人だったからだ。
村の人ではない。おそらくは旅人。
その大きな人の名前はガイア、というらしい。
村を救ったとか、はーときゃっちがどうとか、わけの分からないことを言う変なひとだった。
だからすぐに帰ってもらった。
扉を閉めたファーニィは再びベッドに潜り込み、息を潜める。
今日は村長の娘以外の人と久しぶりに話をした。
なんだか妙に上からものを言う、えばった人だった。
でも、それもすぐに忘れるだろう。
喋れば喋るほど、動けば動くほどお腹が空いてしまう。
変なひとのことを考える余裕なんか、今のファーニィにはなかったのだ。
だからすぐに忘れると思っていた。というか、日が暮れる頃にはすっかり忘れていた。
そんな時だ。あの変なひとがまたやってきたのは。
無遠慮に。不躾に。厚かましくもまたやってきたのだ。
あの、変なひとが。
ファーニィが“それ”に気づいたのは、パチパチと焚き木がはぜる音が聞こえたからだ。
何だろう、とファーニィは思い、まさか家ごと自分を丸焼きにでもしようというのか、とも思った。
村にとって自分の存在はそこまでの重荷になってしまっていたのか、とか考えながらもぞもぞとベッドから降りる。
おぼつかない足取りで歩いていき、昼間と同じようにそっと扉を開ける。
「すまんな。庭を借りているぞ」
声で分かった。
昼間の変なひとだ。
なぜこの人は、人の庭で勝手に焚き火をしているのだろうか。
答えはすぐにわかる。
焚き木のはぜる音と共に、肉の焼ける匂いが漂ってきたからだ。
肉なんて久しく食べていない。
思わず、ぐー、とお腹が鳴る。
ファーニィはとっさにお腹を手で押さえるが、再びどころか三たび、ぐー、と鳴ってしまった。
羞恥から、赤くなっているであろう顔を伏せる。
「なにをしている」
変なひとが言う。
この時ファーニィは怒られる、と思った。
眼の見えない自分は他者に迷惑しかかけれない。だから反射的に謝ろうとしてしまったのだ。
母に「すぐ謝るのは良くないのよ。ファーニィ」と教えられていたが、意識したところで勝手出てきてしまう。仕方がないではないか。
「ご、ごめんな――」
「そんなところに立ってないで火にあたれ。暖まるぞ」
予想だにしない言葉をかけられた。
「おっと、そういえばお前は目が見えないんだったな。よし。ならば手を引いてやろう。さあ、こっちだ」
「あ……」
ファーニィは強引に、でも優しく手を引かれる。
変なひとの手は、とても暖かい。
人の温もりに飢えていたファーニィは不覚にも、ぎゅっと、握り返してしまった。
「そこで止まれ。あともう少しだけ前に……あーっと、そこだ。そこで腰を下ろすんだ。いいか? ゆっくりだぞ。椅子代わりにデカい石を置いてるからな。あまり勢いをつけすぎると尻がふたつに割るぞ」
「…………」
「よ、よし座れたな。待っていろ。あと少ししたら肉が焼けるからな」
「…………おにく?」
「そうだ。肉だ。肉は嫌いか?」
ファーニィはぶんぶんと首を横に振る。
そんなわけないじゃないか。お肉は大好きだ。
ファーニィはそう胸中で返しながら、溢れ出そうになる涎をごくん、と飲み込む。
「それは良かった。実は仕留めた鹿の焼く場所を探していてな。どこか良い場所はないかと歩いていたら……ここにたどり着いたというわけさ」
「…………」
嘘だ、とファーニィは思った。
「こうして焼く場所を提供してくれたわけだからな、お前にもこの肉を食べる権利がある」
嘘だ。この変なひとは嘘をついている。
「おにく…………くれるの?」
「当たり前だろう。こうして肉が焼けるのはお前のおかげなんだからな。半分はお前のものだ」
肉を焼く場所なんか、それこそこいくらでもあるだろうに。ここで――わざわざ自分の家の前で焼く必要なんかまったくない。
この変なひとは、最初から自分に食べさせるためにここへと来たのだろう。
聡いファーニィは、すぐにその結論へと至った。
でも、その理由だけがわからない。いくら考えを巡らせても、ついぞ答えは出なかった。
ひょっとしたら、食べたあとでなにか、大きな見返りを要求されるのかも知れない。
でも、火の暖かさと食欲をそそるこの香りを嗅いでしまっては、いまさら抗いようがなかった。
「しかし……いきなり丸焼きはちと重いかもしれんな。うーむ。……この近くに水場はあるか?」
「…………おうちのうらに……井戸がある」
「そうか。チャベスから鍋を借りてきておいてよかった。待っていろ。スープも作ってやる」
そう言うと変なひとは立ち上がり、水を汲みに家の裏へと歩いていく。
そして鍋に水を汲んで戻ってくると、器用に野菜の皮を剥いては鍋に沈め、肉と一緒に煮込みはじめた。
「煮あがるまで、もう少しかかる」
「…………うん」
「寒くはないか?」
「…………うん」
「そろそろ冷えてきたからな。風邪をひかないよう気をつけるのだぞ」
「……うん」
変なひとは、鼻歌を歌いながら鍋を混ぜているようだ。
ファーニィの瞳には、大きな影が鼻歌に合わせてゆらゆらと揺れているようにしか映らない。
その大きな影は、なんだかとても楽しそうだった。
「よし! できたぞ!」
変なひとは嬉しそうにそう言うと、ファーニィに匙を握らせスープをよそう。
「熱いからフーフーして食べるんだぞ。おかわりもあるからな」
野菜と肉がごろごろと入ったスープの碗を持たされたファーニィには、もう返事を返す余裕なんてなかった。
「はふはふはふっ……」
舌を軽く火傷させながらも、匙を口に運ぶ作業で忙しかったからだ。
「おいおい、そんなにがっつくと――」
「げほっ、げほっ!!」
「むせるぞ……って、遅かったか。ほら、水だ」
「んーーーッ!! んぐ、んぐ、んぐっ……っぷはぁ………あ、ありが……と」
「ふっ、スープは別に逃げやせん。だからゆっくりと食べるんだ。いいな?」
変なひとの諭すような言葉に、ファーニィは顔を赤らめたまま、コクン、と素直に頷いた。
もう醜態は晒すまい。
そう幼い胸に決意しながら、ファーニィはスープをゆっくりと口に運ぶ。
今度はちゃんと、フーフーしながら食べた。
塩味の効いたスープは、とても美味しかった。
ファーニィは、いつしか眠りへと落ちていた。
焚火はぽかぽかと暖かく、いつも空腹を訴えていたお腹も今日は黙りこくっている。
それになにより……なにより、隣にひとの温もりがあったのだ。
ひとりぼっちになってしまったはずのファーニィの隣に、ひとの温もりがあったのだ。
最初抱いていた警戒心なんか、空腹と共にどこかへと行ってしまった。
ファーニィは変なひとの体に頭を預け、すやすやと寝入っている。
体を預けられた変なひとは、どうしていいか分からずオロオロとしながらも、火だけは絶やさぬようにと薪をくべ続けていくのだった。
朝がきた。
ファーニィは壁の隙間から差し込む光を受け、目を覚ました。
体には、なぜかふわふわした毛皮のようなものがかかっている。
「…………」
このふわふわしたものは、きっとあの変なひとのものだろう。
ファーニィが毛皮に顔をうずめていると、ドンドンと家の扉を叩く音が聞こえる。
「起きてるか? また庭を借りたい」
その声を聞いたファーニィはベッドから飛び降り、扉を開ける。
「おお、起きていたか」
やっぱり、あの変なひとだった。
「さっき猪を仕留めてな。調理する場所を探しているんだが……いいだろうか?」
もちろんコクンと頷く。
「よし。ではお前も一緒に食べよう」
「………………ファーニィ」
「ん? いまなんて言った?」
ファーニィの言葉に変なひとは立ち止まり、振り返る。
そんな変なひとに向かってファーニィは自分の服の裾をぎゅっと握り、勇気を振り絞って口を開く。
「……『おまえ』じゃなくて……ファーニィ」
「……ふっ、そうか……うん。そうだな。ではファーニィ。一緒に朝食を取るぞ」
「……うん。あ、あのっ」
「どうした?」
「……お、おじさんは……その……な、なんてよんだら……い、いいの?」
「おいおい、『おじさん』はよしてくれ。俺はまだそんな歳ではない」
「ごめんなさい……」
「せめて『お兄さん』と呼んでくれ。なんなら『お兄ちゃん』でもいいぞ」
「おにい……ちゃん?」
ファーニィは小さく首を傾げ、変なひとを見あげる。
「ああ。『お兄ちゃん』だ」
「うん……わかった。…………お、おにいちゃん」
ずっとひとりぼっちだったファーニィは、この瞬間からふたりぼっちになった。
ファーニィにとってはそんなかけがえのない瞬間だというのに、件の“お兄ちゃん”は、なぜか握りしめた両の拳を天へと突きあげていたが。
ファーニィにお兄ちゃんができてから、七日あまりが過ぎた。
ずっと心を閉ざしていたファーニィもいまではお兄ちゃんに懐き、ふたりぼっちに幸せを感じはじめている。
「……ねえ、おにいちゃん、」
「ん? どうしたファーニィ」
「……おにいちゃんはどうして……どうして、ファーニィにやさしくしてくれるの?」
ファーニィが隣に座るお兄ちゃんに顔を向け、問う。
答えが返ってくるまで、少しだけ間があった。
「……俺には……俺にはな、」
「…………うん」
パキッと、焚き木がはぜる音が聞こえる。
「……妹がいたんだ。ファーニィと同じぐらいの妹がな。いたんだよ」
「…………」
「だからかな。どうしてもファーニィのことがほっとけなかったのさ。でも……それはただのきっかけに過ぎない。いまはファーニィを実の妹……いいや、それ以上に大切に想っているぞ」
「……ほんと?」
「ああ。当たり前だろ!」
「…………ファーニィも……ファーニィも、おにいちゃんのこと……とってもだいじ」
「ふっ、ありがとう。素直に嬉しいぞ」
「……うん。ファーニィも……うれしい」
お兄ちゃんがファーニィの頭を優しく撫で、ふと、その手が止まる。
「……?」
「おっと、そうだった。今日は良い物を持ってきていたんだった」
「……いい……もの?」
「ああ。ファーニィ、俺に背中を向けてごらん」
「……うん」
ファーニィが体をずらして、お兄ちゃんに背を向ける。
お兄ちゃんは、懐から“ある物”を取り出すと、それを使いファーニィの髪をとかしはじめた。
「!? おにいちゃんそれ……くし?」
「ああ。櫛だ。俺が木を削って作ったやつだから荒いかも知れんが……まあ、ないよりはマシだろう」
お兄ちゃんがファーニィの腰まで伸びる黒髪を手に乗せ、櫛を通していく。
慣れていないのか、少しだけ雑だった。僅かに感じる髪を引っ張られる痛み。でも、それがかえってファーニィのある記憶を呼び起こしてしまうのだった。
父の、記憶を。
昔、母がいない時は父が髪をといてくれていた。
やや強引に、力任せに櫛を通す父に対し、ファーニィはよく文句を言っていたものだ。
――ファーニィは女の子なんだから、髪を大切にしないとな――
そんなことを言うくせに、櫛でもってぐいぐいと髪を引っ張るのだ。
泣いてしまったことも一度や二度ではない。そしてその度に父は母に怒られていた。
いまとなってはかけがいのない、暖かな記憶。
思わず目頭が熱くなる。
お兄ちゃんの前で泣くもんか。
ファーニィは唇を噛みしめる。
なんとか耐えることが出来――
「ファーニィは女の子だからな。髪を大切にしなくてはならんぞ」
ダメだった。
お兄ちゃんと父の声が重なる。こんなの卑怯じゃないか。耐えれるわけないじゃないか。
一度涙を流してしまうと、もう止められない。
次から次へと、際限なく溢れ出てきてしまうのだ。
「ファーニィ!? どうした? どこか痛むのか!?」
お兄ちゃんがファーニィの顔を覗き込む。
たぶん、心配そうな顔をしているんだろうな、とファーニィは思った。
「ちがっ……うの、」
お兄ちゃんがファーニィの背をさする。
「どこもっ……いたく、ない」
そう言ったファーニィが、お兄ちゃんに抱きつく。
そして強く、強く抱きしめる。
「あの、ね。お父さんとっ、おか、あさん。ヒック……おもい、だしちゃったっ、の」
「そうか……」
ファーニィの背中に回したお兄ちゃんの手が、僅かに緩む。
「あのな、ファーニィ。……ファーニィのお父さんは――」
「し、ってる。……お父さんがしんじゃったの…………ファーニィしってる。だから、だからね……」
ファーニィはお兄ちゃんの胸に顔をうずめながら、小さく、
「さびしいの」
と言った。
いつもならしんと静まり返る村はずれに、ファーニィの嗚咽だけが響き渡る。
「…………なあ、ファーニィ、」
「……?」
しゃっくりをあげるファーニィの背を優しくさすりながら、お兄ちゃんが囁く。
「ファーニィの父さんと母さんはな……虹の果てに行ったんだよ」
「……にじの……はて……?」
「ああ。虹の果て、だ。虹はわかるか?」
「……うん。なないろの……キラキラしたやつ」
「そうだ。ファーニィの両親は、その七色に輝く虹を渡って“向こう側”に行ったのだ。ファーニィを……ファーニィをいつまでも見守るためにな」
「……ファーニィを……みてるの?」
「見てるぞ。ずっと見ている」
「…………それだけじゃヤダ。……ファーニィも『にじのはて』にいきたい。だって――」
「寂しいのは分かる。哀しいのも分かる。だがな、ファーニィ。ファーニィは虹の果てに行ってはならん」
「……どうして?」
自分を見あげ、そう聞いてくるファーニィに、お兄ちゃんは正面から向き合いながら答える。
「ふっ。残念だがな、虹の果てに行けるのは全力で、本気で人生を生きたものだけなのだ。ファーニィは……全力を出して生きているか?」
父と母の死を、見えない眼を言い訳にして生きてきた。
だからその質問をされたファーニィは、首を横に振るしかなかった。
「ほんきじゃ……ない」
「そうだろう」
「でもね、おにいちゃん。……ファーニィ、おにいちゃんがいなかったら……きっと、お父さんとお母さんがいる、にじのはてにいってたとおもうの。ほんきとか、ぜんりょくとかムリだけど……にじのはてにいってたとおもうの。だって……そこには……そこには、お父さんとお母さんがいるから……」
「そうさせないために俺がいるんだよ」
「……え!?」
「ファーニィのお父さんとお母さんが、まだファーニィが虹の果てに行かないよう俺を引き合わせたんだよ」
「…………」
「わかるか? これが“運命”てやつだ」
運命。その言葉がファーニィの胸に深く刺さる。
「うん……めい?」
「そう。運命だ」
「おにいちゃんは……ファーニィの“うんめいのひと”なの?」
「そうだと……いいな」
お兄ちゃんが笑い、ファーニィを抱きしめる。
「……おにいちゃん、」
「なんだ?」
「おにいちゃんの……妹も……にじのはてにいるの?」
「さあな。俺にはわからん」
ファーニィの問いに、お兄ちゃんは首を傾げ、おどけてみせる。
この時、彼の実の妹は今まさに捕まえた野ウサギの首をへし折っているところだったのだが……そんなことお兄ちゃんが知るよしもない。
「……おにいちゃん、」
「なんだ?」
「ファーニィは…………ファーニィは“ここ”にいるよ」
「……ああ。そうだな」
互いを支え合うように寄り添うふたり。
冬が近づき吐く息は白いが、ふたりの心には暖かい風が吹いていた。
【第三話】 虹の果てには?
最初、主人公視点で書いてたら自分でもドン引くくらいゲスな話になってしまったので急きょ書き直しました。




