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第六話 ブサ男出撃す

 爆発音を聞いた俺は素早く外へ出る。

 そして音の発生源を探そうとするが、その必要はなかった。なぜなら、村に向かっていくつもの火球が降り注いできたからだ。


「火の玉? いや、あれは魔法か!?」


 火球が次々と着弾し、爆発音と共に破裂する。 

 気づけばすでに村のそこかしこで火の手が上がっていた。


(炎の魔法か。ちっ、やはりゴブリン共の中にはゴブリン・シャーマンもいたか!)


 しかもこの火球の数を見る限り、複数匹いるのは間違いない。


 オークたちのほとんどが突然の爆音に驚いているなか、こんどは村の北側からゴブリン共の咆哮が聞こえてくるではないか。


「くそ、奇襲を喰らったか!」


 この手際のよさは確実に計画されていたものだろう。どうやらホブゴブリンという種はかなり頭が回るらしい。


 一瞬のためらいの後、俺は走りだし一軒の家を目指す。


 目的の家は屋根が燃えて崩れかかっていたが、それに構わず中へと飛び込む。


「ジュディ! 無事かっ!?」


 飛び込んだ家の中ではジュディが腰を抜かしながら、燃え続ける屋根を呆然と見続けていた。

 俺はジュディをなんとか抱きかかえて外へと運び出す。炎ごときにビビってんじゃねえよめんどくせえな。


「ジュディ、しっかりしろ」


「……が、ガイア? ……ガイアあぁん! 怖かったよぉー」


 正気に戻ったジュディが泣きながらひしっと抱き付いてくる。俺にはお前の顔の方が遥かに怖いよ。


「もう大丈夫だ。俺がいるから安心しろ」


「ひっく、ひっく……うん。一緒にいてガイア」


 内心「ごめんこうむる!」と思いつつも、笑顔で「ああ、もちろんだ」と答えながら優しくジュディの背中をポンポンと叩いて落ち着かせる。


 ジュディが落ち着いたところで、


「いいかジュディ、よく聞け。……二人で村から逃げるぞ」


 と言う。


「え……戦わないの?」

「ああ、戦わない。逃げるぞ」

「え? なんで?」


 子供とはいえ、オークは基本的に好戦的な種族だ。ジュディもそれに漏れず、戦わずに逃げるという考えはまったくなかったらしい。


「いいか、子供の俺たちも一緒に戦ってみろ。大人のオークたちの邪魔になるだけだと思わないか? 悔しいけど、まだ子供な俺たちは大人たちの足手まといになるだけなんだよ。それに……ジュディは可愛いからオスのオークが気を取られちゃうかもしれないしな」


 そう言い訳をしつつも、さりげなくジュディを『可愛い』と持ち上げることも忘れない。こういう小さなことを積み重ねていくことでジュディは俺の意のままに動くようになるのだ。


「そっか……うん。わかったよ。みんなの邪魔にならないようにあたしガイアと一緒に逃げる!」


 よし。バカで助かる。俺はジュディの手を握って村の中心へと向かった。



「おお、息子よ、無事だったか!」

「父さん!」


 村の中心にある広場には両親をはじめ、大人のオークたちが集まっていた。全員が武器を握りしめているところを見ると、どうやら戦う気まんまんみたいだ。


「息子よ。俺たちはこれからゴブリン共を蹴散らしてくる。お前たちは南に避難しておれ。後で迎えにいくから南で待っているのだ」


「父さん……」


「ふ、そんな心配そうな顔をするでない。俺は死なんよ。なぜならお前たちが待っているからな!」


 ブサ男はそう言い、俺の頭をなでる。

 おいちょっと待て、お前それフラグじゃね?


「ゆくぞ戦士たちよ! 俺に続けぇー!」


「「「ぶひぃ~!!」」」


 オークたちは目を血走らせて全員が興奮状態にある。それを見た俺は「ちっ」と舌打ちしつつ、ブサ男たちを制止することが不可能だと諦めざるを得なかった。


 ブサ男たちは武器を振り上げながら村の北側へ走っていく。ということはゴブリン共は北からしか侵攻してきてないみたいだな。


「が、ガイア……お義父さまが『南に避難しろ』っておっしゃてるけど……どうするの?」

「無論逃げるぞ。ここにいてもいつ炎の魔法が降ってくるともかぎらんからな」

「ん、分かった」


 さりげなくまた「お義父さま」と呼んでいることが気に触ったが、ここでぶっ飛ばすとジュディのHPが減少してしまう。

 こいつにはもしもの時に役立ってもらわないといけないからからなんとか我慢した。


「こっちだ!」


 俺はジュディの手を引き、村の東側へと走り出す。


 普通に考えればブサ男が言うようにゴブリンが侵攻してきた反対側、つまり南側へ逃げるのが定石だろう。

 だが、オークが眠り始める頃合いを狙って火球を叩きこみ、混乱している隙に侵攻してくるという計画的な奇襲を仕掛けてくる相手だ。

 きっと逃げだすオークのことも考え、反対側の南の森に網を張っているにいるに違いない。もし俺が敵の指揮官だったら確実にそうする。

 だから俺はジュディを連れて東に向かって走った。


「ガイア、みんな南に逃げていくよ。一緒に行かなくていいの?」


 そう言われ南に目を向けると、ジュディの言うように村で戦う力のないオークたちが南へ向かって避難しはじめていた。


「……いいんだ。俺たちは一緒には逃げない」

「どうして?」

「集団で移動するとそれだけ敵に見つかりやすくなってしまう。いいか、『みんなで逃げる』ということはな、『安心』ではあるが、決して『安全』ではないんだ」


 だって前世で読んだマンガにそう書いてあったから!


「……」


 理解したのかどうか分からないが、ジュディは黙って俺の言葉に頷いていた。


 東の森へ抜ける村の出口へたどり着く。


 夜の森は不気味な静寂に包まれていて、俺たちが入るのを拒んでいるようにも見えるし、歓迎しているようにも見える。


 それにビビったジュディの歩が止まってしまう。


「ガイア……あたし怖いよぉ」

「大丈夫だ。俺がいるから」


 それに俺にはお前の方が怖いよ。


「……ずっと……手を繋いでてもいい?」


「もちろんだ。この手は離さないからな」


「ん。……ありがと」


 こうして俺たちはゴブリンの襲撃から逃れるため、夜の森へと入っていった。


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