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欲望が落ちていた夜Ⅱ

「どれ、ひとつ試してみるか」


 俺は足元に転がっている石の一つを拾い上げて大きく振りかぶる。

 狙うは〈マドハンド手〉。

 十メートルほど離れた場所にいる〈〉は、まるで俺を挑発するかのように掌をひらひらとしたり、腕ごとゆらゆらと揺らしたりしている。


「安い挑発に乗ってやるか……ふん!」


 俺は拾った石を沼地からひょっこり生えている〈泥の手〉目がけて投げつける。

 だが――――、


「むう、当たらんか」


 そう。俺の投げた石ころは〈泥の手〉に当たらず横を通り過ぎただけだった。

 出来ることならじゃぶじゃぶと沼に入っていき、直接ぶっ飛ばしてやりたいところではあるが、全身を泥まみれにしたくないし、何よりかつてここを巣としていたリザードマンたちの話ではこの沼には所々、いわゆる『底なし沼』が存在し、慣れていないない者が入るのは非常に危険だとのこと。

 まあ、だからこそリザードマンたちは外敵から群れを守るためにここを巣としていたのだろう。


「ならば……物量作戦だな」


 そう言うと俺は近くにある石ころを集めれるだけ集め、「せーい! せーい!」と言いながら連続で投げ続ける。

 しかし、なかなか当たらない。こんなことならジュディ目がけて石を投げる練習もしておくんだった。

 だんだんとイライラしてきた俺は、その怒りに比例して石のサイズも大きくなっていき、最終的にはより命中率を高めるためにサッカーボール大の石まで投げつけていた。

 デカイ石をがすがすぶつけられた〈泥の手〉はだんだんと動かなくなっていき、当初、二の腕まであった長さが今では手首あたりまでと、いくぶんサイズが小さくなっている。

 これは攻撃を受けて弱ったということなのだろうか?


「ふう。なかなか死なんヤツだな」


 魔法生物はHPがなくなると形を保てなくなるはずだ。

 小さくなったとはいえ、まだ姿形を保っているということは完全に倒しきっていない証拠なのだろう。

 投石を続けた俺は、疲れが残らないように腕を回して肩の筋肉をほぐす。

 まあ、〈泥の手〉を前にしながらこんな風に余裕ぶっこいていられるのも〈泥の手〉がまったく反撃してこないからこそ出来るのだがな。


「しっかし、これだけ攻撃されてもいっこうに反撃してこないとは……ふっ、なんとも情けないヤ――――」


そこで俺はふと言葉を止める。


(攻撃を受けているのに反撃はおろか、逃げも隠れもせん……だと!?)


 そしてある『考え』に至る。

 その考えとは、「目の前にいる〈泥の手〉は、魔法生物である『本物』の〈泥の手〉なのだろうか?

 ということだ。

 人は目で見たものの先入観から物事を決めてしまう節がある。

 ひょっとしたらあそこでぐったりしている〈泥の手〉は〈泥の手〉じゃなく、底なし沼に沈み、泥まみれになった誰かの腕……例えば、あくまでも例えばだが…………に、人間の腕だったりする場合もあるのではないだろうか?


 今思えば、〈泥の手〉がゆらゆら揺れてたのは挑発なんかではなく、助けを求めていたように見えなくもない。

 その場合、俺は助けを求める何者かに対し、止めをささんとばかりに石を投げつけていたことになってしまう。


(逃げるか?)


 見れば〈泥の手〉らしきものはすでに手首まで沼に沈んでいる。あと数分もすればすべて沈み、何事もなかったようにこの沼は静寂を取り戻すことになるだろう。 

 しかしだ。もしまだあの〈泥の手〉らしきものが生きていたとしたらどうだ?

 助けたらお礼に何か貰えるかも知れない。ミャムミャムのように女冒険者だったらおっぱいのひとつでも揉ませてくれるかも知れない。

 だが、生死の確認なんてどうやれば――。


「あ、〈鑑定〉すりゃいいんじゃん」


 ここしばらく〈鑑定〉を使っていなかったせいか、そんな基本的なことすら忘れてしまっていた。いけないいけない。

 ってなわけで、俺は今さらながら〈鑑定〉能力スキルを使い、〈泥の手〉のステータスを確認してみることにした。

 もしこれで既に天に召されていたとしたら、何事もなかったかのようにこの場を立ち去ればいいだけのことよ。


「どれどれ、〈鑑定〉発動っと」


 結果――、



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 種族:サキュバス LV.2

 HP    46/784

 MP    62/224

 体力     98

 筋力     47

 魔力     119

 敏捷性    68

 知性     72

 物理防御   44

 魔法防御   82

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



 けっこーしぶとく腕がばたばたと動いていたから、もしかしたら人間じゃないかもとは思っていたが……まさかサキュバスだとは思わなかった。


 夢魔サキュバスとは男性を誘惑して精を奪うという、けしからん女形の魔物のことだ。

 男の欲望が具現化した存在といってもいいだろう。そう、言うなれば男の欲望の塊なのだ。

 何でも、とんでもなくエロい体とそれに見合うだけのテクニックを持っていて、その誘惑を拒める男はいないという。

 前世で読んだラノベやプレイした大人向けゲームでもサキュバスという種族は大抵の場合エロく描かれていることが多く、俺自身、何度となく精を吸われたことか……。

 二次元ですらそうだというのに、いま俺の目の前には『本物』がいるのだ。

 沼に沈みかけている『本物サキュバス』が絶体絶命のピンチなのは疑うまでもない。

 なんせ俺自身が止めをさしてしまうところだったわけだしな。

 だが幸いなことに、サキュバスが腕を残して沼に沈んでいたことで俺は顔を見られてはいないだろう。当然ながら投石していたことも黙っていればバレやしない。


 ちらり、と泥まみれのサキュバスの手を見る。

 手首から上しか残っていないサキュバスの手はぐったりしていてピクリとも動かない。断っておくが、決しておれのせいだからではない。おそらくは酸欠で気を失っているのだろう。だからぐったりしてるのは俺のせいではない。

 さて、この瀕死のサキュバスを俺が救ったとしよう。 

 無論、この俺が純粋な善意から夢魔ビッチを救うなんてことはあり得ない。当然救うからには見返りがあってしかるべきだ。

 命を救ってやるのだ。お礼代わりにおっぱいの一つや二つ、揉ませてくれたっていいはずだ。いや、相手はド淫乱ビッチなのだ。ひょっとしたら握手をするぐらいの気安さで一発ヤら――ゲフンゲフン。いかんいかん、思考が先へと加速し過ぎた。

 とにかく、命を救うのだから俺が何かしらの見返りを求めていいはずだ。


 そう結論つけると荷物からツルを編んで作った縄を取り出し、縄の端に輪っかを作ってカウボーイみたく沈みゆくサキュバスの手に目がけて投げる。

 三度目の投擲でギリギリ残っていた手首を捕らえ、力いっぱい縄を引く。

 ズルズルと沼から引っ張り出されてくるサキュバスの体は触るのを躊躇わせるほど泥まみれだった。

 服を汚したくなかった俺はそのまま縄で泥まみれのサキュバスを引きづり、泥を洗い落とすために川を目指す。

 歩きながらサキュバスの体を確認する。

 サキュバスは泥まみれで、どう見ても泥人間にしか見えないが、泥越しでも分かるほどに胸の辺りから豊かな双丘が飛び出している。

 その夢と希望が詰まっていそうな双丘を見て、俺はゴクリと生唾を飲み込み、


(俺は今日…………お、『おっぱい童貞』を卒業することが出来るかも知れない…………)


 と期待に胸と股間を高鳴らせながら近くの川を目指して歩くのだった 


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