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チート能力もらって転生したらオークだった  作者: 霜月緋色(腱鞘炎発症→安静中)
OO93(オークさん) BUTARDUST MEMORY 編
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第三十三話 蒼く輝く炎で その3

「まさかこんなところで巨人族のおっぱいと出くわすとはな」


 鎖に繋がれた美女――略しておっぱいとの再会。

 おっぱいはジュディとビッチェルの二人を同時に相手してなお、互角に戦ってみせた巨人族の女戦士だ。


「だからアタシの名はヒルダだって言ってるだろ! 六魔団長ゴライアスのヒルダだよ!!」

「そうやいのやいの騒ぐな。傷に響く」

「……アンタ、ケガしているの?」

「フッ、執念深い脳筋に絡まれていてな」

「ふぅん。誰かと戦っているわけね」

「ああ。ランバとかいう脳筋オーガだ」

「ランバ!? エギーユ四天王のひとりじゃないの。大物よ!」

「ま、そういうわけでな。少々手を焼いているのだ」


 自嘲気味に嗤う俺を、おっぱい改めヒルダがじっと見つめてくる。

 やがて、


「アタシをここから出してくれれば、アンタに手を貸してあげてもいいわよ」


 と提案してきた。

 ヒルダはいまこそが脱出の好機と考えたのだろう。


 ぶち破った扉の向こうでは、ランバがゆっくりとカラナフィに近づいているのが見える。

 考えている時間はない、というわけか。


「いいだろう。貴様をここから出してやる。その代わり俺に手を貸し、空いた時間に貴様の胸の谷間に俺を挟むことを赦してやろう」

「……なんか条件が増えてる気がするんだけど?」

「嫌なら別にいいんだぞ? で、どうするんんだ? 三秒で決めろ」


 交渉とは、何事も優位に進めなくてはならない。

 例え俺自身が窮地に陥っていたとしても、だ。


「このままここに残っても三日後に処刑されるって話だからね。……しょうがないわ。それで手を打ってあげようじゃない。それでこの鎖のカギは持っているんでしょうね?」


 ヒルダが四肢に繋がれた鎖をじゃらりと鳴らす。


「フン。そんなものなくとも魔法で焼き切れるわ。見ていろ」


 俺は魔力を高め炎の魔法を収束し、レーザーのように一点照射して鎖を焼き切っていく。

 ゴト、ゴト、とヒルダの四肢を拘束していた鎖が落ち、


「ふぅぅ~~~~ん……っと。やっと体を伸ばせた。ひとまず礼を言っておくわ」


 巨人族の女戦士、ヒルダが解放された。


「礼など無用だ。それより……わかっているな?」

「ああ。わかっているわ。アンタに手を貸してあげるわよ。アタシの名誉も挽回しないといけないしね」

「違う! そっちじゃない! 俺をおっぱいに挟むことだっ!」

「ええっ!? この状況でそっちの方っ!?」


 ヒルダとおっぱいに挟む件について騒ぎ過ぎたのだろう。

 ピタリ、とランバの歩みが止まる。そして、視線がこちらへと向いた。


「殺シタトハ思ッテイナイカッタガ、マダ動ケルトハ驚イタゾ」


 ランバの視線は俺に向いている。

 それも当然。

 なぜなら、ランバの視線上には俺しかいない。

 ヒルダの姿はギリギリ壁の影に隠れ、死角になって見えていないのだ。


「フンッ、貴様のへなちょこパンチなど、いくら貰っても効かぬわ」

「ホウ、良クゾホザイタ。ナラ再ビ俺ノ拳ヲクレテヤロウ」


 ランバがのっしのっしとこちらに向かって歩いてくる。

 俺は牢の中から動かない。


「イイノカ? ソコカラ動カヌノナラ、ソコガオ前ノ墓場トナルゾ?」

「俺の? 貴様の、の間違いじゃないのか?」

「コノ期ニ及ンデ強ガリトハ……カッカッカッ! 気ニ入ッタゾ。特別ダ。オ前ハ殺シタ後俺ガ喰ラッテヤロウ。ドレ……」


 ランバが巨体を屈め、牢の中に入ってこようとし――


「いまだおっぱいっ!!」

「ヒルダだよ!! はぁぁっ!!」

「――ムガァツ!?」


 ヒルダにぶっ飛ばされて宙を舞った。

 流石は巨人族。

 単純なぶん殴りがオーガロードであるランバ相手でも通じている。


 床を転がったランバが、むくりと上体を起こす。


「オ前ハ……」

「魔王サイサリス様に仕える六魔団長が一人、ゴライアスのヒルダよ。憎きエギーユ四天王が一角ランバ、ここでアンタに会えた幸運に感謝するわ!」


 ヒルダが興奮したように叫ぶ。事実、昂っていたのだろう。

 まあ、考えてみれば当然か。


 敵軍の捕虜となったヒルダにとって、ただ脱出しただけでは汚名の返上にならない。

 失ってしまった名誉を挽回するには、敵将の首ひとつでも獲ってこなくてはならんのだろう。


 俺にとっては幸運以外の何物でもない。

 日頃の行いがこのように幸運として返ってきているのだろう。


「おい、そこの麻袋!」


 ランバから視線を外さずにヒルダが声をかけてくる。


「む、俺のことか?」

「そうよ。相手は四天王の一人ランバ。武器を失ったアタシじゃちょいと手に余るわ」

「だろうな」


 ヒルダの持っていた長大なバスターソードは、ジュディとビッチェルとの戦いでへし折れた。

 魔王サイサリス軍の将軍格、六魔団長といえども素手でランバと戦うのは厳しいと感じたのだろう。

 なんせ、ランバは俺でも手に余るぐらいだからな。当然だ。


「だからまずアタシが殴りかかるわ。アンタは隙を突いて攻撃して」

「承知した。援護は任せてもらおう」

「頼んだわよ」


 ヒルダはそう言うと、「はぁぁぁぁっ!」と叫びながらランバに跳びかかった。

 双方ともに三メートルはある。

 巨体同士の肉弾戦だ。


「このおっ!!」

「カッカッカ! ヤルナ! コノ俺ト拳デヤリ合エルトハ嬉シイゾ!!」

「くっ、なんて硬さなの!? でもっ!!」

「ムウ? 今ノハ効イタゾ」


 周囲の床や壁を破壊しながら殴り合う両者。

 ランバの視線はヒルダに釘付けだ。

 この機を逃すわけにはいかない。


 俺はカラナフィに顔を向けると、ハンドサインで『いまの内に逃げろ』と合図を出す。

 ワタワタしながら逃げ回っていたカラナフィだったが、俺の合図を受け頷く。

 そして翼を広げ、「えいや」と気合を入れ飛び上がる。


 カラナフィはぽっかりと穴が空いた天井を目指し、必死になって飛ぶ。


「待テ! 逃ゲルナ!!」


 ランバが気づいた。

 近くにあった瓦礫に手を伸ばす。

 カラナフィに投げつけるつもりなのだ。


「させるか! フレイム・ランス!!」


 ランバの伸ばした腕に、炎の槍が命中。

 爆発。

 瓦礫を掴みかけたランバの腕を弾く。


「行けカラナフィ! 決して振り返らずに飛び続けろ!!」

「わかったよ!!」


 カラナフィが飛び去っていく。

 あとは上手く逃げ出せるのを祈る他ない。


「グヌゥゥゥゥ……」


 上を見あげたランバが、悔しそうに呻く。

 全力で飛んでいるからか、カラナフィはだいぶ上の方にいた。


「カラナフィ様と戦えずに残念だったな」


 ランバの手前、念のためカラナフィの名に『様』をつけておく。

 いつか俺が窮地に陥ったとき、全責任を上司であるカラナフィに押し付けるためだ。 


「マダ戦ウ定メデハナカッタトイウコトカ……。マアイイダロウ。オ前タチダケデモ、俺ノ疼キヲ抑エラレルカモ知レンカラナ」


 ランバがターゲットを完全に俺とヒルダに切り替えた。

 さて、どうしたものか。


 ヒルダを囮にして逃げる手もあるが……巨人族の巨乳に全身を挟まれる機会なんぞ再び転生してもないと言い切れる。

 したがって俺ひとり逃げる選択肢はなし。

 かといってランバを倒しきることも難しいだろう。


 よしんば倒せたとしても、新手が現れないとも限らない。いや、こうも派手に暴れているのだ。

 まず間違いなく現れるだろう。そしてそれがポリーのような四天王クラスだった場合、完全に詰んでしまう。

 となると、ヒルダを上手く言いくるめ、この場から二人で脱出するのが理想か。


「後ろへ跳べヒルダ! サンダーストーム!!」


 俺はランバに向かって上位の雷撃魔法を放つ。

 ヒルダが跳び退いた瞬間、ランバを中心に雷の嵐が巻き起こった。 


「ヌゥッ!?」


 効くなんて端から期待しちゃいない。

 ただ、雷撃のビリビリでランバの意識と動きを数秒止めれればいい。

 そして俺の読み通り、ビリビリを浴びたランバが小刻みに震え、動きが止まった。


「おっぱ――ヒルダよ」

「いま『おっぱい』って言おうとしただろ!? そそそ、そーゆーことは女に言っちゃイケナイんだぞ!」

「まあ落ち着け。そして聞け」

「……な、なによ?」


 俺はランバから視線を外しても意識は外さず、ヒルダに語り掛ける。


「……退くぞ」

「なっ!?」


 率直に伝えたらヒルダの目が見開いた。

 説得はここからだ。


「このままやってもランバを倒すのは難しいだろう。それは直接やり合っている貴様が一番よくわかっているのではないか?」

「っ……」

「仮に倒せたとしても、ここは地下だ。地上へ出て外に逃げるまでに新手が現れ、多くの敵に囲まれよう」

「……だから逃げるっていうの?」

「そうだ。一度は捕虜になった貴様が己の名誉を挽回したい気持ちはわかる。しかしいまは現実を見ろ。まずは生き残られねば挽回する名誉もクソもないぞ」

「…………」


 ヒルダは悔しそうに顔を歪ませ、やがて、


「……わかったわよ」


 と言った。


「でもどうやって逃げる気なの? ランバ(アイツ)は見逃してくれるようなやつじゃないよ」

「それについては俺に策がある」

「へぇ」

「いいか? まず…………――――」


 俺はヒルダの耳に顔を近づけ、作戦を伝える。


「そんなんで本当に逃げられるかわからないけど……わかったよ。やってみる」

「頼んだぞ」

「……何ヲ相談シテイル?」


 雷の嵐が解け、ビリビリの治まったランバが言う。

 やっぱりというか、魔法によるダメージは見受けられない。


「フン。貴様を恐怖のずんどこに叩き落す相談をしていたのさ」

「ヌカセ!」


 ランバが拳を握り向かってくる。


「はっ!!」

「馬鹿め! そうそう当たらんよ!」


 その拳をヒルダは大きく飛び退いて躱し、俺は紙一重で避けていく。

 ランバの追撃が迫る。


 一撃、二撃、三撃。


 ヒルダの前にまずは魔法を使う俺を始末しようと考えたのだろう。

 ランバの拳が執拗なまでに俺を追う。

 いいぞ。狙い通りだ。


「どうしたどうした? そんな拳ではハエが止まるぞ」

「チョコマカト煩ワシイ奴メ! オ前モ雄ナラ真正面カラカカッテ来イ!!」


 俺は一撃でゴーゴーヘブンな拳をひらりひらりと躱しながら、追いかけてくるランバを『ある位置』にまで誘導する。


 ――あと少し。


「死ネ!」

「はーーーっはっは! ならばその遅い拳を当ててみることだな!」

「グガァッ!!」


 ――きた!


「ヒルダ! いまだ!!」

「任せて!!」


 俺の合図を受け、ヒルダがランバに向かって渾身のぶちかましをキメる。


「ヌオッ!?」


 ランバの巨体が吹っ飛び、背後にあった扉をぶち壊して牢の中へと転がる。

 さっきの俺と逆になった形だ。

 扉はひしゃげ使い物にならない。


「グゥゥゥ……」


 牢の中でランバが頭を振り、立ち上がろうとしている。

 条件が揃うまであと一手。


「エクスプローション!!」


 俺は爆発の魔法をランバがいる牢の前の天井(・・)へと放つ。

 天井の一部が崩れ、牢の入口を瓦礫が塞いだ。


「コレデ俺ヲ閉じ込めたツモリカ?」


 瓦礫の隙間から、ランバがこちらを見て言う。


「フン。そんなもので脳筋の貴様を閉じ込めておけるなど思ってもいないさ。その瓦礫は貴様がいまいる場所を密室にするためのもの! 本命はコレだ!!」


 俺は一気に駆け出し、お尻をペロンと出す。


「ヌゥッ!?」


 そしてランバが覗いている隙間にお尻をねじ込み――


「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんっ!!」


 腹んなかにため込んでいた小麦粉を思い切り噴出してやった。


「ナ、ナニヲシタッ!? 何モ見エン!!」


 密室となった牢に小麦粉が充満する。

 ランバの視界には真っ白な世界しか映っていないことだろう。

 俺は尻を剥き出しにしたまま、キメ台詞をポツリ。


「粉塵爆破って知ってるか?」


 ファイアボールを隙間から打ち込み、牢の中で大爆発が起こった。

 俺の腸内で小麦粉に何かしらの科学変化があったのか、炎が蒼く輝いている。

 威力が増した証拠だろう。いいことだ。



「グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――ッ!!」

「退くぞヒルダ!」

「わかったわ」


 天井には大きな穴が空いている。

 ランバのジャマがなければ登ることは難しくない。


 ヒルダは跳躍してひとつずつフロア()を登っていき、俺は俺で尻からクモの糸を出して登っていく。

 そうしてなんとか元いた部屋まで戻ってきた。

 魔王城の上層階。

 カラナフィもここから逃げたのだろう。

 部屋の窓は全開で開かれていた。


「麻袋、どうするの?」

「このまま逃げるぞ」

「でもこの高さじゃいくらアタシでも着地できないよ」


 いま俺たちがいる部屋は、切り立った崖側にある。

 飛行能力を持つカラナフィはいいとして、巨人族のヒルダが脱出するには困難を極めるだろう。


 そんなタイミングで、


「待テエエエエエェェェェェェェェェェッ!!」


 穴の底からランバの怒声が聞こえてきた。

 チッ、粉塵爆破さんの力を以てしても、やはり死んではいなかったか。


「凄い勢いで追ってくるよ!」

「大丈夫だ。見ろ」


 俺は窓の外を指さす。

 ヒルダも顔をそちらに向ける。


 そこには――


「おーーーい! ガイアーーーー!!」


 ワイバーンのゼフィに乗ったカラナフィが、こっちに手を振っていた。

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