第三十一話 バケモノの魔王 爆誕
ジュディを魔王にする。
俺がずっと考えていた秘策である。
「オークを……魔王に?」
「そうだ。あのメスオークを魔王として担ぎ上げ、ドライゼとサイサリスの両魔王陣営への対抗戦力を作り上げるのよ!」
「そんな……いくらなんでも無茶だ! オークなんかがドライゼさまやサイサリスと戦えるわけないじゃないのさっ! ころ――殺されちまうよ!!」
カラナフィが非難の声をあげる。
ジュディの戦闘能力を知らないカラナフィからしてみれば、当然の反応だろう。
普通に考えればオーク如きが魔王にかなうはずがないのだからな。
「そうだな。殺されるだろうな」
俺は頷き、カラナフィの言葉を肯定する。
未だ天井知らずに成長するジュディといえど、さすがに魔王クラスと互角に戦えるわけがない。
それはもう、“万が一”すらなく殺される可能性が高い。
「……だったらなんで――」
「クックック、それこそが俺の狙いでもあるからなのだよ!」
「ッ――!?」
新しく誕生した魔王を快く思う魔王などいるはずがない。
必ずやジュディの命を奪わんと兵を差し向けるはずだ。
八魔将程度なら俺が倒そう。
そしてサイサリス軍の六魔団長との戦いを経てレベルアップしたジュディなら、四天王ですら互角に戦えるのではないだろうか? そこに、俺も加勢すれば相手が四天王であっても勝利することだってできるはずだ。
となれば、ジュディを倒せるのは魔王クラス――すなわちドライゼのみ。
あのメスブタは強い。忌々しいことにこの俺よりも。だからこそ、あのメスブタを完全に消滅させるには魔王クラスをぶつけるしかなかったのだ。
共倒れが理想だが、ジュディがドライゼに倒されるだけでも良し。ドライゼが瀕死になり、俺がトドメをさせればなお良しだ。
「ど、どういうことなんだいっ!? せっかくあのオークを魔王にするのに倒されるのが狙いなんて……」
俺の目的がわからないカラナフィはひどく混乱している。
「カラナフィ、貴様が自分を裏切ったと知れば、ドライゼは怒り狂うだろうな」
「あ、ああ……だろうね」
「あそこにいるメスオークを魔王に仕立て上げれば、あのメスオークが貴様への怒りをすべて引き受けてくれるのだぞ?」
「ッ!?」
「ドライゼがメスオークの首を狙っている間に貴様たち夢魔族はどこへなりとも行くがいい。弱い貴様らでも人族の国で隠れ住むことぐらいはできよう」
「…………いいのかい? お前さんの仲間を犠牲にすることになるんだよ?」
「フッ、今更だな。俺は貴様のことが嫌いじゃない。ならば生きていて欲しいと思うのは当然のことだろう? あのメスオークは……そのための犠牲に過ぎんさ」
「ガイア、お前さん……そんなにまでアタイのこと……」
なんかカラナフィの瞳がうるうるしてきた。
絶望的な状況下に置いて、普段ツンツンしている俺がデレてきたのだから仕方がない。
できることならこのまま童貞を捨て去りたいところではあるが、いまそれをすればメスブタが暴れまわること必死。
ここは将来への種蒔きと割り切ろう。
カラナフィが自ら進んでおっぱいを差し出しくるようになるまで。
「話は以上だ。貴様も覚悟だけはしておけ。俺の計画通りに事が進むとは限らんからな」
「わ、わかったよ!」
それから数日が経ち、みすぼらしいながらも魔王城が完成した。
『ガイア! 見て見てっ! あたしたちの~お城が完成したわよ!!』
『がんばったなジュディ。こんなにも素敵なお城ができたのは貴様のおかげだ』
石材を積み上げて作った三階建ての城に、オークやゴブリン共が住む城下町。
近くを流れていた川から支流をつくり、水路まで流れている。
これが人間の国だったら年単位かかったのだろうが、こちらは命を使い潰すつもりで作ったのだ。
限界まで命を使い潰し、死の直前にエリーの回復呪文で復活させる。
そして立ちあがった消耗品共をまた使い潰すのだ。
その甲斐あってか、城と街を建設するのと並行して精強な軍隊までできあがるという、嬉しい誤算まであった。
『村を出てこんな遠いところまできちゃったね。ホント、いろいろあったなぁ~……』
『そうだな。いろいろあった』
感慨深気にジュディが言うい、俺は相づちを打つ。
『あ、そうだ。新しくつくったこの群れの族長はガイアがなるんでしょ?』
『いいや、俺じゃない』
『え?』
『ジュディ、よく聞いてくれ』
『う、うん』
俺はジュディを抱きよせ、その耳元に甘く囁く。
『俺たちの族長になるのはジュディがいいと思うんだ。強く、そして美しいジュディがね』
『う、美しい……』
『ああ。戦っているジュディは美しいぞ。それに見てみろ――』
俺はせわしなく働いている消耗品共を指さし、続ける。
『ここにいるみんなはジュディについてきたんだ。強く、美しいジュディにね』
『…………』
『それにオークやゴブリンだけじゃない。ここには夢魔族もいる。そんな様々な種族をまとめあげられるのは、誰よりも優しいジュディしかいない!』
『で、でもっ、優しさならエリーの方が……』
『そうだな。エリーも優しい』
俺は同意して見せ、数秒間を置く。
『でもな、エリーは優しすぎるんだ。過ぎた優しさは仲間を――ひいては群れをダメにする。大切なのは厳しさと優しさ、そのふたつを併せ持っていることなんだ。そして……それを持っているのはジュディしかいない』
『そ、そんなこと急に言われても……。あたし自信ないよぉ』
『大丈夫だ。俺がいる。ジュディの隣には俺がいるだろう? 俺が族長になったジュディを支えてあげるよ』
実際は俺の傀儡になってもらうだけだがな。
『みんなもそう思わないか?』
もう一押し。
そう思った俺はエリーとビッチェルにも話を振ってみる。
『あたすはジュディが族長になるの賛成だっぺよぉ』
『かっかっか、わっちも賛成とよ』
『ばーぶー』
『みんな……』
まだ赤子であるグロリアの賛同まで得て、ついにジュディは首を縦に振った。
『わ、わかったわ! やってみる! ガイア、それにエリーとビッチェルにグロリアも!』
ジュディが俺たちの顔を順番に見る。
『あたしは精一杯頑張るからっ、その……よ、よろしくね』
『もちろんさ!』
『あったりまえだっぺぇ』
『かっかっか』
『ばーぶー』
こうして、魔王ジュディは誕生したのだった。
魔王ジュディに沸く俺たちのもとにカラナフィがやってきたのはそんな時だ。
「が、ガイアッ!!」
「ん? どうしたカラナフィ、騒々しいな」
「……ガイア、頼みがある」
「なんだ?」
訊きかえす俺にカラナフィは、意を決したように言う。
「あ、あたいと一緒に魔王城に行ってくれ!」




