第二十四話 熱砂の攻防戦 その2
「あのヒルダとかいう巨乳。やりおるな」
ビッチェルとジュディふたりがかりなのにも関わらず、まさか互角に戦ってみせるとは……。
「ふん! このっ、いいかげん死になさいよねっ!」
しかし、ジュディのバトルアクスは確実にヒルダへダメージを与え続け、
「かっかっか! 楽しいとねっ!」
ビッチェルの拳は体力を奪っていく。
「くっ……。たかがオークとオーガの分際でっ」
俺のしもべである二匹のバケモノの予想外の強さに、ヒルダの顔が歪む。
俺は3者の戦いを見守りつつ、この状況を打開する一手を考えていた。
「さて、どうしたものか……」
ここから魔法を放ってジュディたち共々ヒルダを倒すのは簡単なことだろう。
だがしかし、だ。
巨人とはいえ、あんなにもビューティホーな肉体を失わせるには惜しい。
ぜひとも捕まえ、左右のおっぱいをマッシュと共に存分に楽しみたい。
心からそう思う。
「俺も肉弾戦に参加するべきか? いやしかし……」
俺もヒルダに対し接近戦を挑めば、おっぱいのひとつやふたつはどさくさで揉めるかもしれない。
しかし、俺とヒルダの間には覆し難い体格差がある。
俺がパンチを出したところで届きはしない。
となれば、とうぜん跳躍して攻撃するしかない。
しかも、跳躍した攻撃したところで、おっぱいよりも下半身に当たる可能性が高い。
そうなると……そうなるとだ。
俺が跳躍してアッパーを放てば、偶然にもビギニアーマーの隙間から、俺の拳がヒルダのよからぬところへ突き刺さってしまう可能性もあるわけだ。
「フッ、まさか俺が背負ってる十字架にこんなところで縛られるハメになるとはな……」
童貞にとってよからぬところは未知の領域。
言ってしまえば秘密の花園なのだ。
そんなところに拳が突き刺さってみろ。
取り乱してしまうことは必至ともいえる。
だからこそ、俺だけがこの戦いに参加できずにいたのだった。
「仕方がない。ここは応援という名の後方支援に徹するか」
俺はそう結論を出し、ジュディたちへ声援を送りはじめた。
「ジュディー! ビッチェル!がんばれ! 貴様たちなら必ず勝てるっ!」
「――ガイアッ!! うん! ぜったいに勝つから見ててね!」
「かっかっか! 小僧にそう言われては負けられんね!」
ジュディとビッチェルがギアが一気にふたつぐらいあがる。
本音をいえば、ヒルダを動けなくなるまで削ったところで死んでくれるのが理想的なんだがな。
あの二匹ではそれは叶うまい。
「くっ、まだ速くなるのかっ!!」
ヒルダが防戦一方になりはじめた。
体には傷が増え、決してすくなくはない量の出血をしていた。
なんだかもうちょっとでジュディたちバケモノシスターズが勝利してしまいそうな勢いだ。
「えーい!」
ジュディの荒々しくも鋭い斬撃。
「かっかっか! かーっかっか!!」
ビッチェルの剛腕から繰り出される致命の拳。
どちらもまともに喰らえばただでは済まないだろう。
「あっ……剣が――」
ヒルダが持っていたバスターソードが半ばからへし折れる。
「いまよビッチェル!」
「ここたいジュディ!」
二匹は同時に叫び、それぞれの武器(拳)をヒルダへと見舞った。
「きゃーーーーーーッ!!」
ビッチェルの拳がみぞおちに深く突き刺されば、ジュディのバトルアクスがヒルダのビキニアーマー(上)を斬り飛ばす。
自由になる大きなおっぱい。
ヒルダは崩れ落ち、仰向けに倒れこむ。
どうやら意識を失っているようだ。
『とどめよっ!』
『かっかっか! 楽しかったとよ。巨人族のメスぅ!』
最後の攻撃をしようとするふたりに向かって、俺は声を張り上げる。
『待てふたりとも! もう決着はついた!』
『え……ガイア?』
『そこまでだ。ふたりともそいつから離れろ』
俺はそれをねっとりとした目でおっぱいを楽しみながら、ヒルダに止めをさそうとする二匹をとめる。
『ガイア、どーしてとめるのよ?』
『そうたい小僧。どうして止めると?』
ふたりは荒い息を吐きながら、怒ったような目を俺に向けてくる。
とどめを刺そうとしたところを止められたのだから、ふたりが怒るのもムリはない。
こいつらは血に飢えたバトルジャンキーなのだからな。
『まあ待て。そのメスは捕虜として連れかえる』
『えー? 捕虜にー?』
『そうだ。これだけ大きな体だ。せいぜいこき使ってやるさ』
オークたちにとって、捕虜と奴隷は同義である。
捕虜は物のように扱われることが多い。
『ふーん。ホントに捕虜にするの?』
『あ、ああ』
ジュディがジト目で見てくる。
嫉妬深いジュディのことだ。きっと俺が捕虜となったヒルダに口には出せないようなよからぬことをしようとしているのではないか? と勘ぐっているのだろう。
だいたい当たりだ。
『とか言ってー。ホントはこのメスにエッチなことするつもりなんじゃないのー?』
『フッ、なにを言うかと思えば、バカなことを……』
『あ……』
俺はジュディに歩み寄り、その体を抱き寄せる。
そしてまっすぐにぶっさいくな顔を見つめながら、言う。
『俺がこんなメスになにかすると本気で思ってるのか?』
『え? それは……その……でも、』
『ジュディ、俺をもっと信じろよ』
『ガイア……』
俺がニッコリ笑うと、ジュディの目がはたちまちとろんとしたものに変わる。
隣ではビッチェルがヒルダの配下が近づいてこないよう威嚇しながらも、チラッチラっと羨ましそうにジュディを見ていた。
『……な? 俺を信じて』
『……うん。……じる。あたしガイアを信じるわ』
『ありがと。ジュディ。そうと決まればこのでかいメスを縛り上げて運ぼう』
『うん!』
俺はするすると尻から糸をひねり出し、ジュディとふたりでヒルダを縛り上げていく。
そして縛り上げてぐるぐるになったヒルダを戦車に括り付ける。
『よし! いったん引くぞ。後方の部隊と合流する』
見れば、すでに戦場は乱戦状態へと突入していた。
俺の消耗品であるオークたちは、500メートルほど後ろ。
オークたちのさらに後ろでときたまピカピカ光ってるのは、きっとエリーが回復魔法でも使っているのだろう。
敵の将をひとり捕獲したいま、早急に部隊と合流しなくては。
『ふたりともっ、戦車をひいてくれ! ここから離れるぞ!』
『うん!』
『承知したばい!』
『いいか、あっちだ。あっちに向かって進むんだぞ!』
俺はマジな顔してオークたちのいる方を指さす。
『はーい』
『かっかっか。任せると』
そう笑いながら、来た時と同じように敵兵をぐっちゃぐちゃにひき殺しながら戦車が進みだす。
俺の危惧していた通り、戦車は反対方向へと進んでいった。




