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チート能力もらって転生したらオークだった  作者: 霜月緋色(腱鞘炎発症→安静中)
OO93(オークさん) BUTARDUST MEMORY 編
105/123

第十九話 出撃サキュバス その12

「〈劫火爆裂〉!!」

「〈影刃列牙〉!!」


 俺とマッシュは同時に魔法を放つ。

 闇の精霊魔法と爆炎の魔法が中空でぶつかり合い、轟音が響く。

 威力は……互角だったようだ。

 魔法は相殺され、その余波で城内の壁や床に亀裂が入った。


「へぇ……僕の〈影刃列牙〉を撃ち消すか。なるほど……君の魔法もなかなかじゃないか」

「フッ、それはこちらのセリフだ。精霊魔法とやらははじめて見たが……それなりに威力があるではないか。褒めてやるぞ」

「お褒めにあずかり光栄……なんて言うとでも思うかい? いまここで打ち倒される君に!」


 いまの魔法で、マッシュは俺を侮りがたい相手と感じたようだ。

 俺を軽んじる空気が消え、言葉に殺気がこもる。


「やれやれ。そう熱くなるなよマッシュ。貴様がどうしても、と言うのであればこのまま続けてやってもいいのだが……いいのか? ここで俺たちが戦えば……ほれ、まわりに被害がでるぞ」


 俺はあごで壁をさす。

 壁には亀裂が走り、いまにもくずれ落ちてしまいそうだ。


「……このまま続ければ魔王城に被害がでてしまう……か」


 マッシュは一時的に殺意を抑え込み、構えを解く。

 俺はそんなマッシュと顔を見合わせると、小さく頷いた。


「その通りだ。貴様とて八魔将。己が主と仰ぐ者の居城を壊したくはあるまい。そしてそれは俺とて同じだ。そこで提案なのだが……どうだ? 場所を変えんか?」

「……驚いたよ」

「ほう。なにがだ?」

「君みたいなヤツから、まともな提案があったことにだよ。でも……いいよ。場所を変えようか」

「フッ、俺をなんだと思っているのやら。まあ、いい。提案を受け入れたのならさっさと案内しろ。俺たちが……殺し合える(・・・・・)場所にな」


 俺とマッシュは数秒間にらみ合ったのち、どちらともなく視線を外す。


「なら君の墓標となる場所に案内しよう。こっちだ。僕についてきたまえ」

「ああ」


 マッシュが手を振り、ついてくるよう促す。

 そして歩きはじめた瞬間――


「〈劫火滅却極炎波〉ッッッ!!」

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」


 がら空きとなったその背に、俺は最強レベルの攻撃魔法を放った。

 致死級の爆炎魔法がマッシュに命中し、ごん太(極太)の火柱があがる。

 衝撃で壁や天井が崩れ落ち、燃え上がるマッシュに降り注いでいく。


 しかし、カラナフィとは違い、さすがは実力で八魔将になった男。

 がれきの中から這い出てきたマッシュは、黒こげになってプスプスしながらも未だしぶとく生きていた。


「チッ、死ななかったか。ずいぶんと魔法耐性が高いようだな」

「く……き、君って……ヤツは……な、なんて……」

「待っていろ。いま止めをさしてやる」


 俺は三度みたび魔力を高め、攻撃魔法を放つ準備をする。


「くっくっく。なにか言い残すことはあるか?」

「き、君のようなや、ヤツには……まけ……ない」

「んん? よく聞こえんぞ。ハッキリ喋らんか」

「君には……負けないって言ったんだっ!」

「ほざけ! 〈劫火滅却極炎波〉!! 死ね! 悪質なストーカーめっ!!」


 再び火柱があがる。

 仕留めたか?

 俺がそう思った刹那――


「やぁぁッ!!」


 突如として俺の影の中からマッシュが飛び出してくる。

 しかも手には小剣を握っていた。

 狙いは――俺の首か!


「ちぃぃッ」


 俺はギリギリでマッシュの小剣をかわし、逆に回し蹴りでマッシュを吹き飛ばす。

 マッシュは壁に叩きつけられ、荒い息を吐いていた。


「影から影への移動だと? ……そうか。これも闇の精霊魔法のひとつということか。フン、カラナフィをこそこそつけ回していた貴様には、ピッタリな下衆な魔法ではないか」

「はぁ……はぁ……。くっ、不意打ちをしてきた君には……『下衆』だなんて言われたくないね……」

「ほう。まだ強がるだけの気力が残っていたか」

「立会を望みながらの奇襲。……この卑怯者めっ」

「くく……くっくっく……はぁーっはっはっは!!」


 殺意と侮蔑を混ぜ込んだ目をマッシュに向けられ、俺はついにこらえきれなくなり笑い声をあげた。

 笑う俺に訝しむマッシュを見下ろし、言ってのける。


「卑怯? この俺が卑怯だと!? はぁーはっはっは! ありがとうマッシュ。俺にとって最高の褒め言葉だよ!!」 

「君って……ヤツはっ!!」


 マッシュが闇の精霊魔法を放ち、それを俺は火属性の魔法で迎え撃つ。

 威力は互角に近いが、マッシュが傷を負っている分、俺が有利だ。

 このまま持久戦に持ち込めば、俺の勝利は揺るぎない。


「くっ……まだだ。まだ僕は終わらないぞ!」


 己の不利をマッシュは理解しているようだ。

 連続して精霊魔法を放ってきながらも、こちらの隙をうかがっている。

 そんな時だった。


 戦闘音を聞きつけたのか、城で働く侍女のひとりがこちらに駆けつけてきた。

 魔王城では多くの者が働いているのだから、これだけ派手に争っていれば誰か来るのも当然か。


「いったい何事です……ひっ、シュニッツァル様、それにガイア様もっ。いったいなぜお二人が!?」


 俺たちが戦っているのを見て、侍女が取り乱す。

 侍女はやたら青白い肌をしているが、顔だちはそれなりに整っている。

 あの侍女が「どうしても」というのであれば、おっぱいぐらいなら揉んでやってもいいルックスだ。


「貴様、死にたくなければさがっていろ!」

「君、ここは危険だ! 離れていなさい!」


 俺とマッシュが、同じタイミングで侍女に警告を発した。

 クソ。このキノコ頭がっ。相手がちょっとでも可愛いとすぐこれだ。

 俺の見せ場を取りやがって。やはりこのストーカーはここで始末しておこう。


「いいかげん死ね。マッシュ!」

「バカを言うな! 死んでたまるものか!」


 何度目かとなる魔法がぶつかり合い、爆風が巻き起こる。


「きゃあ!!」


 その風を受けて、なんと侍女のスカートがめくり上がったではないか。

 まずい!

 そう思うも俺のなかの男としての本能が、スカートがめくりがった侍女の絶対領域に視線を固定してしまう。

 下着の色は白。

 小さくガッツポーズした俺は、侍女がスカートを手で押さえると同時に我に返った。


 戦いにおいて、一瞬の隙は即死に繋がる。

 ましてや数秒ともなれば、それは殺してくださいと相手にいっているようなものだ。

 だというのに、俺はそんな致命的ともいえる隙をマッシュに晒してしまったのだ。


 強力な魔法がくる。

 そう思いながらも慌てて視線をマッシュに戻すと、


「……ハッ!?」


 マッシュも、慌てたようにこちらに顔を向けたところだった。


「……ガイア君。どうしていま攻撃してこなかったんだい?」

「フッ、それは俺のセリフだ。俺を倒す絶好の機会だったろうに」

「…………」

「…………」


 やや気まずい空気が立ち込める。

 なぜいま攻撃してこなかったのか?

 どうやら、その疑問はお互いに抱いていたらしい。


「……白、だったな」

「……ああ。白だったね」


 再び沈黙が降り、そして俺は理解した。

 なぜ俺はマッシュをこんなにも嫌悪していたのかを。


 似ている。

 マッシュは俺に似ているのだ。

 もちろん見た目などではなく、思考や行動パターンが俺に近すぎる。


「そうか……そうだったのか。フッ、笑えん話だ」

「……なんのことだい?」

「気にするな。独り言よ」


 俺はひとりごちると、自虐的な笑みを浮かべた。

 同族嫌悪。

 人は自分に似ている相手がいた場合――


「マッシュ、貴様はここで……」


 親友ともになるか――


「潰す!」


 敵になるしかないのだ。


「はぁッ!!」


 俺は床を蹴り、マッシュとの間合いを一気に駆ける。


「そ、そう簡単にいくと――」

「悪いな。簡単に逝かせてやろう。火球ファイア・ボール!!」

「――ッ!?」


 俺は火球を放った。

 しかし、狙いはマッシュではなく俺の背後にいる侍女の足元だ。


「きゃあ!」

「き、君はなにを――白……ハッ!?」

「バカめっ! ぱんちゅに目を奪われたことを後悔しながら死ぬがいいっ!」


 俺は火球でわざと爆風を起こし、再び侍女のスカートをめくりあげたのだ。

 しかも俺からは見えないよう、わざと背後で。

 思考が近いマッシュは、当然ながら下着ぱんちゅに目を奪われる。

 俺はその隙に距離を詰め――


「チェックメイトだマッシュ!!」

「ふぎゃっ――――ッ!!」


 その拳を、マッシュの顔面に叩きこんだ。


「ふぅ……ったか?」


 全力でぶっ飛ばした。

 ジュディはムリでも、悪質なストーカーの命ぐらいなら奪えるはずだ。

 確かな手ごたえもあったしな。


「く……」

「……しぶといやつめ」


 八魔将の名は伊達ではない、ということか。

 マッシュはまるで幽鬼のように上体を起こし……パリンと、何かが割れる音が聞こえた。

 乾いた音をたてて、床にひび割れた金色の仮面が落ちる。


「チッ、手ごたえはあの金ぴかな仮面だったか」


 マッシュがつけていた金色の仮面は、それ単体でもかなりの防御力があったのだろう。

 俺の拳を受けてなお、マッシュの命を守ったのだから。


「そうだ。いいこと思いついたぞマッシュ。せっかくだ、貴様の顔を拝むとしようか」

「く……」


 マッシュが苦悶の声を漏らす。

 上体を起こすことはできても、立ちあがることはもうできないようだな。

 ちょうどいい。ならハーフエルフの顔を、オークみたくパンパンのブタ面にしてから殺してやろう。

 俺はマッシュに近づいていき、そのキノコカットを掴みあげる。


「さあ、顔を向けろ」


 そして、ぐいと無理やり顔を向けさせた瞬間、俺は驚愕することになった。


「くそ……僕のひみ、つが……」

「な……な……マッシュ、貴様……貴様は……」


 俺は衝撃の事実に思わず掴んでいた手を放し、驚きの声をあげた。


オーク(・・・)だったのかっ!?」

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