第十六話 出撃サキュバス その9
「みなさんお揃いのようなので、これよりサイサリスとの戦に向けた作戦会議をはじめさせていただきます」
そう言ったのはマッシュだ。
今日も金ぴかの仮面をつけ、卑猥な髪型をしている。
この場にいる誰もが口を挟まないあたり、マッシュは会議の進行役なのだろう。
円卓には上座のエギーユを頂点とし、力のある者から順にジジイの近くに腰をおろしているようだ。
ジジイ、四天王、八魔将といったように。
そして俺は、末席に座るカラナフィの背後に立っていた。
四天王をはじめ、八魔将のヤツらがチラリチラリと横目で俺を見る。特にポリーのおっさんなんか、ねっとりとした熱視線を送ってきていた。
「では、まずサイサリス軍に動きがありました。偵察兵から入った情報によりますと、西の荒野に兵力を集めているそうです」
「シュニッツァル、あちらさんの数はどれぐらいなのかしら?」
マッシュの説明にエメラダが問いを投げる。
「確認できるだけでも三万。しかも、六魔団旗すべてが掲げられていたそうだよ」
その回答に、わずかにざわめきが起こった。
「へぇ、六魔団長さまのお揃いかい。あちらさんも、ついに本気になったわけね」
「そういうことみたいだよエメラダ。僕も最初は耳を疑ったけどね。どうやら今回の戦は――」
「……総力戦」
マッシュの言葉をカラナフィの隣に座るモモが引き継ぐ。
モモがなにかアクションを起こすたびに、カラナフィがビクリと身を震わせるのでうっとうしいことこの上ない。
どんだけビビってんだよ。
「ガハハハ! 面白イ、六魔団長ナド、俺ヒトリデケチラシテクレルワッ!」
そう言い笑ったのは、ホモのおっさんの隣に座る巨漢――なんとオーガだった。
小声でカラナフィに聞いたところ、あのオーガは四天王のひとりであり、『知恵の実』を食べたことにより言葉を話せるようになったそうだ。
種族はオーガ・ロードで、名をランバ。
非常に好戦的で、強靭な肉体のみを武器に四天王の地位にまで登りつめた戦闘狂らしい。
「ふふ、自信を持つのはいいがなランバよ、六魔団長には卓越した魔法の使い手もいるぞ」
「ガハハハ。ポリー、俺ヲ甘ク見ルナヨ。魔法ナド、俺ノ体ニ通ジルモノカ」
「ふふふ、勇ましいことだ」
ホモと脳筋が笑い合う。
その顔からは、互いに実力を認め合ってのがわかる。
しかし……ビッチェルに続いてまたオーガか。
でもなんか強そうだし、四天王ってことはじっさい強いのだろう。〈鑑定〉使ってもステータス確認できなかったしな。
あいつの肉を捕食したら、俺の肉体もかなり強化されるに違いない。
「話を進めさせてもらいます。六魔団長が集まっている。これは、サイサリス軍が総力戦をしかけてくる証拠だと思います。となれば、僕たちはこれを迎え撃たなければなりません」
「シュニッツァルよ、前置きはよい。要点だけをまとめよ」
「はっ!」
ジジイの言葉にマッシュが畏まる。
「では、サイサリス軍三万強に対し、僕たちも早急に兵力を集めるべきです。三万の軍が僕たちの領地に進軍してくるまで、あまり時間はありません」
「シュニッツァル、お前はどれぐらいと読む?」
「ポリー様、僕は十日とみています」
「そうか……十日、とな。ならばそれまでに各自配下の者を集めなくてはならんな」
「そうなりますね」
「ふふふ、そうか。なら私も配下の者を集めるとしよう。皆も集めておくのだぞ」
ポリーの言葉に八魔将が頷く。
みなの視線が自分に戻ってきたのを確認してから、マッシュは続ける。
「できれば七日で兵力を集め、十日後には西の荒野でサイサリス軍を迎え撃ちたいと僕は考えているのですが……エギーユ様、いかがでしょうか?」
「お主に任す」
「はっ! ありがとうございます。では、次は軍内の配置についてですが――」
「俺ガ先陣ヲ切ル。ホカノ者ハ、俺ニ続ケバイイ」
軍の配置は、戦を左右する重要な要素である。
それなのにこの脳筋は、己の戦闘欲を満たすためだけにしゃしゃり出てきたのだ。
まあ、こいつが勝手に突っ込んで勝手にくたばってくれれば、俺としては捕食しやすいので楽なのだがな。
とか考えながら俺が麻袋のしたでほくそ笑んでいると、
「あらランバ様。まってくれないかしら」
とエメラダのやつが口を挟んできた。
「ナンダ、エメラダ?」
「うふふ、ランバ様は四天王のおひとり。それをいきなり先鋒にだしては、相手に警戒されてしまうでしょう。ひょっとしたら、ランバ様のお力に怯み、退却してししまうかもしれません」
「ヌゥ……ソレハツマランナ」
「でしょう? で・す・か・ら、ここはどうか、わたしたち八魔将に先鋒を譲ってはくださいませんか?」
エメラダは腰をくねらせ、媚びた目をランバに送る。
「ウヌゥ……」
「ね? お願いしますわ」
「ウヌヌヌヌ……」
「ふふふ。ランバよ、下の者に功を譲ってやるのも、また四天王の努めよ。お主の力は六魔団長が出てきた時にぶつければよい。それまでの露払いは、八魔将に任せてみるのもよいのではないかな?」
「ヌゥ……ポリーがソウ言ウノデアレバ、シカタガナイ。エメラダヨ、先方ハお前タチ、八魔将ニクレテヤロウ」
「ありがとうございます。ランバ様」
優雅に一礼したエメラダは、次にカラナフィに顔を向けた。
「ということになったわ。がんばってねカラナフィ。先鋒のつとめを見事果たすのよ」
「………………はい?」
突然話を振られたカラナフィは、硬直することしかできないでいる。
「い、いやいやいやいや、ななな、なんであたいが先鋒なのさっ!?」
「あら、あなたもいつまでも末席は嫌でしょう? 心優しいわたしはね、末席であるあなたに功をあげる好機を譲ってあげるって言っているのよ。どう? わたし優しいでしょう」
ひとの悪い笑みを浮かべるエメラダ。
対してカラナフィの顔は真っ青だ。
「……くすくすくす」
隣のモモが含み笑いを漏らす。
「……それ、いい考え。あたしも支持する。先鋒にはカラナフィを推す」
「ええっ!? も、モモまでなに言いだすのさ!?」
「あら、まさか八魔将ともあろうものが、先鋒を努めたくない、なーんて言わないわよね? どうみんな、みんなも先鋒はカラナフィがいいわよね?」
エメラダの言葉に、他の八魔将も同意を示した。
唯一、反対していたのはマッシュだけだ。
八魔将のなかでカラナフィは嫌われているとは聞いていたが、まさかここまでとはな……。
「ふふふ、力を示せよカラナフィ。そしてガイアよ、」
ホモがホモホモしい視線を俺に向ける。
「お前の奮戦を期待するぞ」
「は、はい」
俺は知らず知らずのうちにお尻をガードしながら返事を返す。
どうやらポリーの言葉はこの場においてかなりの影響力を持っているらしい。
本人の意思など関係なく、カラナフィがサイサリス軍との戦において、先鋒を努めることが決まってしまったぞ。
そして、それはつまり、俺もカラナフィと共に最前線で戦うことを意味してた。
決戦まであと十日。
それまでに戦の準備をしなくてはならない。
あまりにも、時間が足りなかった。
オーガロードのランバはもっふるさま案になります
もっふるさま、ありがとうございました。




