why don't you know yourself?
自分が何をしたいのか、何をすべきなのか、何になりたいのか、何のために生きてるか、わからないし知らなくてもいいと思っている。興味はあるようでない。教えてくれるっていうなら聞くけど、自分から尋ねようとは思わない。そもそも教えてくれる人なんてこの世に存在しないと思う。いたとしても出会うことはないだろう。その人が私を見つけてくれない限りね。
晴れ渡る空の下、風の気持ちいい午後二時三十六分。私は今眺めのいい寮の屋上でひも無しバンジーをやろうか検討中だ。もしバイブルの内容が本当なら私はここから飛び降りて死んだとしても神様って奴の仕業でまた生まれ変わったりするのだろうか?だとしたらめんどくさいなぁ〜、365×15日生きたよ、あっでもまだ十五回目の誕生日まだだから厳密にいうと、数学は嫌いじゃないけど考えるのめんどくさい。まぁとりあえず、重力に身を任せてみようかな。私はフェンスに手をかけて身を乗り出そうとした時屋上の扉の開く音がした。聞こえた瞬間私は両手の力を抜いて浮いた両足を屋上のコンクリートにのせた。
「茜、こんなとこにいたの?探したわよ。新しい日本人が来たから案内してあげて彼女英語しゃべれないから。」
声をかけたのは60前半くらい(実際の年齢は知らない)の私が暮らしてる寮の寮母のうちの一人のスミス。彼女の声は年に似合わないかわいい高い声で、その声をきいてすぐに彼女だとわかった。
「今日は天気がいいわね、ここで何をしてたの?」
「日向ぼっこ?」
私は適当にスミスをはぐらかし得意の作り笑顔で返事をする。ちなみに私の名前は茜。私が生まれたのが夕方だからつけたという平凡な理由。嫌いでもないけど好きでもない。
「そう、部屋でその子が待ってるから早く行ってあげてね。」
「はい、今行きます。」
私は四年前からイギリスの寮付きの学校に留学している。親の仕事の都合で日本の学校には通ったことが無い、だけど一応会話程度の日本語ならしゃべれる、でも私的には英語の方が話しやすいから私以外の英語がしゃべれる日本人とでもたまに英語で話す。新しい日本人かぁ、通訳とかだるいんだよね。とかいいつつも、私の体は素直にその新入り日本人の所に向かってる。どんな子だろ、今時のイケイケな子だったら嫌だな私怖い子嫌いだし。
寮母の部屋の扉の前にたって最悪の事態を予想して覚悟を決めた私はノックをしないで扉をあけた。するとそこには寮長のマリアと小柄な女の子がいた。私が162センチだからぱっと見150センチ前半かな?ていうか年下?同じ年?童顔だからよくわからないな。ていうか雰囲気ケバくない、ていうか地味、なんか少し安心。私が彼女の見た目から彼女の性格を予想しようとした時、マリアの口の方がそれよりも早く開いた。
「彼女が新しく入ってきた朝子、あなたと同じ学年に入ったからいろいろと教えてあげなさい。」
「わかりました。この子の部屋はどこですか?」
「一応あなたと同じ部屋にしておいたから、荷物はもう運んであるからいろいろ案内とか注意事項とか伝えといて。彼女来たばかりでまだ英語わからないから。」
そう言われたので朝子と紹介された少女の方を見ると、意味の分からなそうな顔でこっちを少し不安げに見てる、どうやら本当にわからないらしい。
「この子は日本人の茜、いろいろ教えてくれるからね。」
と簡単な英語でマンソンが少女(親しくもなっていないのに名前で呼ぶのもなんなんで)に言う。少女は小刻みにこくこくうなずく。
それを見届けると私は少女を連れて寮母の部屋をあとにした。人見知りの激しい私は正直、話かけられない、そもそも日本人なんて家族以外とあまりしゃべらないからな、と思っていたらそんな私の心を読んだかのように少女の方から話かけてくれた。
「私、朝子っていうんだ、茜ちゃんっていうんだよね?」
「あ、うん。」
「よろしくね。」
「うん。」
自分でも嫌になるよ、会話が続かない合図値しかうてなんですよ私は。人見知りなんです、コミュニケーション苦手なんです、ていうか嫌いです、すみませんね悪気はないつもりです。だから同じ国の新しい子とかだるいんだよ。嫌でもコミュニケーションとらないといけない対象の一つだからさ。
部屋についていろいろ最低限の決まり事や注意事項を説明して、あとは朝子ちゃんからの質問攻め。彼女も彼女なりにコミュニケーションをとろうとやってくれているようだ、人見知りの激しい私にとってはありがたい人材です。話をして行くうちに彼女の年齢がわかった、小柄で童顔だから同じ年か年下かと思っていたが実は彼女今年で17歳だという。まだ誕生日は迎えていないから今のところまだ16歳だそうだ。年に全然見えないね。いいのかわるいのかわからないけど。見た目も中身も少し幼い彼女は年齢を隠していたら本当に同じ年か年下わからないましてや年上に見えない、失礼かも知れないけど。聞かないでおいたら面白かったかな?
夕食の時間まで時間があったから彼女の日本での生活を聞いた。好きな人がいたとか学校はこうだったとか。朝子ちゃんは話すのが大好きらしくて一方的に話をしてくれるので適当に合図値をうってれば乗り切れる楽な相手だと思った。一時期日本の女子高生に憧れたことはあるけれど、今は自分の母国に執着も無いし外から見ていてあまり母国が好きになれない。これは私が日本での生活が短くて日本をあまり知らないからと言う要素もあるということは否定しない。
話が進んで行くうちに私は『ちゃん』付けで朝子ちゃんは私のことを呼び捨てで呼ぶようになっていた。「私も呼び捨てでいいのに」と朝子ちゃんは言うが、私は初めうちはある程度の距離感は必要だと思うし、そもそも馴れ馴れしいのは私の性に合わないのと何となく日本人の女の子は『ちゃん』付けでないといけない気がするからである、ていうか生まれつきのお国の文化が少し身に付いてる的な感じだよ、うん。
しばらくして話のネタが尽き始めた頃、私の方から初めて質問をしてみた。会う人には必ずする質問。
「朝子ちゃんはさ、将来何になりたいかもう決めてる?」
朝子ちゃんは少し嬉しそうに笑って「うん」って答えた。その後一瞬寂しそうな顔に見えたのは私の気のせいかな?
「私ね、小説家になりたいんだ。」
「ふ〜ん、そうなんだ。」
「茜は?」
「考えてない、ていうか思いつかない。」
「得意なことは?」
「わからない。」
「好きなことは?趣味は?」
「う〜ん、さぁ。」
「どうして、わからないの?」
「わからないものはわからないの。」
朝子ちゃんが言葉がたらないというような顔で私を見たので、私は少し考えてから言った。
「自分が何をしたいのか、何をすべきなのか、何になりたいのか、何のために生きてるか、わからないし知らなくてもいいと思っている。興味はあるようでない。教えてくれるっていうなら聞くけど、自分から尋ねようとは思わない。そもそも教えてくれる人なんてこの世に存在しないと思う。いたとしても出会うことはないと思う。その人が私を見つけてくれない限りね。」
「自分からその人を探そうとは思わないの?」
「自分から探そうとは思わないね。」
「なんで?」
「さぁ、興味ないのと面倒くさいから?」
しばらくの沈黙の後に朝子ちゃんは嘲笑ではなく、皮肉も嫌みも感じさせない笑顔で言った。
「茜は自分のこと何もわかろうとしていないんだね。」
他人が聞けばどう思うだろう?今さっき会ったばかりのお前よりかは自分のこと理解してるつもりだと憤慨するだろうか。少なくともこの言葉は私を憤慨させるには足りない要素であった。そういえばもうずいぶんと怒っていないな、最後にキレたのいつだっけ?でも、彼女の言う通り私は何もわかろうとしていないかもしれない。なぜって?う〜んやっぱり興味が無いからかな?すべてに。
タイミングよく夕食のベルが鳴る。それを聞いて私たちは終わりの見えない会話をやめて食堂に向かった。いつも聞くと嫌になるそのベルの音が今は少し救いのように思えてしまった。明日からまた学校が始まる、なんの変哲もないつまらない毎日が始まる。隣にいる新しい『友達』を見てため息を押し殺した。あぁこれからめんどくさくなりそう。