黒い塊の真偽
気付けば
黒い塊が
そこにあった
私の眼が
移動した方向に
その
黒い塊も
同じ様に移動した
塊は言った
「私はあなた」
私は言った
「いいえ、私は私」
すると
塊はグルグルと
その場を回り始めた
私は好奇心から
少し触れてみようと
思った
しかし
触れようとした瞬間
私は
黒い塊に
飲み込まれて
しまったのだ
眼は
開いていたのか
周りすべてが
闇で
何も見えない
急に不安になり
私は何かを探した
そんなものは
この闇には無いのだ
きっと
私は闇を歩いた
足も見えない闇の中
私は手で探った
手も見えない闇の中
自分自身さえも
見えない
解らない闇の中では
何を以て
私とするのだろうか
意識は存在する
思考は存在する
だから
歩いている
歩いている…?
だから
探っている
探っている…?
意識や思考だけでは
答えを
見つけ出す事が
出来ない
私は闇の中で
茫然となった
不意に声がした
「あなたは私」
その声は
反響するように
闇を舞った
「あなたは…私…」
闇の存在は私なのか
私があなたならば
この闇が私であり
思考、存在が
闇である
私をあなたに
置き換えるなら
私は何の不安も無く
此処に
いる意味が出来る
この闇が
私なのだから
しかし
それでは傲慢だ
同じ立場の元に
存在するのなら
答えも譲歩出来るが
相手が
言葉の通じない
動物や植物なら
況てや物ならば
私の思考を
当てはめるのは
傲慢なのではないか
「私は…私か?」
闇に声が転がる
これではまるで
禅問答の様だ
答えはきっと無い
私は私と言いながら
生きていく手段は
持っていない
もしそうなら
他人と繋がりを
得てはいけないし
悲しみや孤独を
感じてもいけない
闇は答えを待った
私は暫く沈黙を
続けた
根底を覆す答えなど
私の中には何も無く
頭の中まで
闇の様だ
もう何も解らない
暗い渦の果てへ
落ちて行きそうだ
すると
「あなたは
だれですか?」
闇が口を開けた
私は
脳も体も
闇に侵蝕され
考える事を放棄した
しかし
無意識に私の
口から言葉は零れ
自らの言葉を聞き
私は少し驚いていた
「私は私であり
同時に
あなたでもある」
そう言い終えると
私は意識を失う様に
脱力し
その場に沈んだ
いや
本当にそこに
沈んでいった
足掻き
苦しむ事も無いまま
私は闇に沈んだ
微かに
光が見えた気がした
多分
気のせいだろう
「もしそうなら
もう少し
平和かもしれない」
闇は
私は
そう思った
眼を開けた
当然の様に
世界は輝いていた
太陽は昇り
いつも通りの
朝が来ていた
私は少し安心した
世界はちゃんと
彩りを含んでいた
黒い塊は
そこには無かった
まだ
薄霧のかかる
脳は少しずつ
夢を思い出す
黒い塊は答えを
見つけたのだろうか
頭を
言葉が氾濫して
私はもう一度
眼を瞑る
「私はあなた…か」
そう考えれば
世界はもう少し…
プルルルル
不意に携帯が鳴る
こんな朝早くに
君からだ
電話口では
少し興奮した
口振りで
黒い塊の話を
始めた
それを聞いて
私は少し笑った




