ANSWER6:「正解」
「オーナー修正液ない?間違えちゃった」
「うわー何この英単語の量。覚えられるわけねー」
バイトも学校も休みな本日は、Preciousに客として遊びに来ていた。青春真っ只中の私たちには期末テストという恐怖が迫っている。そこで、誰が言ったかPreciousで勉強会を開くことになったのだ。
「お前ら、俺の大事なバーで消しカス散らかすなよ」
半泣きなオーナーのもっともな意見を取り入れ、とりあえずテーブル席でなら勉強してもいいことになった。
「オーナー、俺マティーニ!」
「調子に乗んな、リョウ」
「まぁまぁ、ダンディなオーナー、そう言わずに……」
ハルナとリョウちゃんの図々しさは今の世の中で生き抜く大事な糧だと思う。結局、オーナーはオレンジジュースを差し入れしてくれた。私たちはありがたく頂くことにして、教科書を開いた。
「ナツミ、ちょっと聞いてんの?」
「……えっ、あ、ごめん。何?」
「だからぁ、この英文!」
「あ、うん。えっと」
理解不能な問題の数々にハルナとリョウちゃんが悪戦苦闘する中、私は勉強どころじゃなかった。
テストの点数より問題なのは、昨日のキスなのだ。
一体なんだったのだろう。
空気に流されて?……ありえる、かもしれない。
ただの気まぐれ?……ありえるから怖いな。
好きだから?まさか……。
「ね、今から四之宮さん呼ぼうよ!」
「いやっ、どうだろ!忙しいんじゃないかな〜」
私はなんだか四之宮さんにどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。四之宮さんのことを考えただけでも、心臓がバクバク言ってるのに、本人に会ったら私の心臓は壊れてしまうかも知れない。
「どうしたのナツミ。いつもならバカみたいに喜ぶのに」
バカみたいって、ひどいなぁ。
「お、呼ぶ前に本人が来た〜」
「四之宮っち、こっちこっち!」
こんなんばっかりだ。きっと私の心臓はいつか本当に壊れてしまうに違いない。
「何してんの?教科書なんて開いて」
「期末テストがあんだよ」
四之宮さんは私の隣に座り、教科書をぱらぱらと捲った。四之宮さんの態度は昨日の事なんて忘れてしまったかのように、自然だった。
「イ、イン お、オールデン タイムズ、ウィッチ ワズ……何これさっぱり意味分かんない」
ハルナは、問題集を片手にブツブツ言っている。四之宮さんは、そんなハルナの手から問題集を奪い、完璧な発音で英文を読む。
「どれ、In olden times,a witch was thought to take the shape of a black cat。昔、魔女は黒猫の姿になると考えられていた」
「四之宮っち、すげぇ!」
「ハルナちゃん、こんな簡単な英文読めないでテスト大丈夫なのか?」
「だめっぽい」
そう言ってうな垂れるハルナを見て、四之宮さんは困ったように笑った。
「ナツミ、お前はどうなの?」
急に四之宮さんに顔を覗き込まれ、驚いた私は、鼓動が速くなるのを感じていた。四之宮さんの顔を直視できない。
「わ、私は……だ、だいじょうぶ……じゃないけどだいじょうぶ」
「ナツミ意味わかんねぇから」
「ていうか、さっきからおかしいよ、ナツミ?」
「あっ、四之宮っちなんかしたでしょ?」
「あぁ、昨日キスした」
「えええ!?」
「げほっ、えほっ」
私はあまりの衝撃に飲みかけていたオレンジジュースを、噴出しそうになった。リョウちゃんとハルナは二人して固まっている。当然のリアクションだ。
「ちょ、マ、マジ?」
「ああ」
平然と言う四之宮さんに動揺など全く見られない。それから、強く、凛とした瞳を細め、四之宮さんは笑った。
「ナツミ、問題。この英文の答えは?」
“I love you. Please become a lover.”
いきなり投げかけられた英語に困り、私は焦ってしまった。それから1分後、四之宮さんの言った言葉を理解した私は、驚きと喜びでいっぱいだった。
“私は貴方を愛しています。どうか私の恋人になってください”
私は、「はい」とだけ答えると、小さく頷いた。
「正解」
四之宮さんは、大きな手で私の頭を優しくなでた。一瞬夢ではないかと、気が遠くなる。でも確かにそこにいるのは、四之宮さんで、私を包む頼もしい手は、私の愛しい人本人のものだった。
「そんなわけで、俺ら付き合うことになったから」
にやりと笑う四之宮さんには一生敵わないかもしれない、そんな風に思った。
「どんなわけだよ!いみわかんねぇ」
「四之宮さん、何もこんな時に言わなくても」
もうちょっとムードのある時に。と文句をいった私を四之宮さんは笑い飛ばした。
「じゃあ、ムード出してやるよ」
四之宮さんは私の手を引くと、強引にキスをした。
「あ〜〜〜〜〜!」
ハルナとリョウちゃんは、またまた固まってしまった。
「四之宮さんのばか」
笑う四之宮さんを弱弱しく睨んでみたけれど、にやつく顔は押さえられなかった。
「まぁいいんじゃない、ハッピーエンドってことで」
戸惑うリョウちゃんを差し置いて、ハルナが嬉しそうに笑う。当分立ち直りそうも無いリョウちゃんは、バカップルめ、と呆れて言った。
ねぇ、四之宮さん、私はあなたと一緒だったらどんな難しい問題でも、正しい答えが導き出せると思うんだ。一緒にいてよ。きっと、素敵な女性になるから。
「てか、四之宮っちって、ホント何者?」
「あ〜四之宮グループって知ってる?」
「知ってるけど……ま、まさか」
「あれ、俺の会社」
「鉛筆から車まで幅広くサービスを提供し続け企業を陣取る大手メーカーの四之宮グループ!?」
「ということは、もしかして社長!?」
「いや、社長は俺の親父」
「四之宮っち、四之宮グループの御曹司かよ!?」
「ナ、ナツミ!気をしっかり!」
や、やっぱり前途多難かも……
私にとって、ナツミと四之宮は思い入れ深いキャラクターとなりました。今回の反省点を次に活かし、もっともっと上手く表現出来ればなと思います。ANSWERを読んでくださり、本当にありがとうございました。