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ANSWER3:「打倒四之宮〜!」

放課後を迎えた教室には、人もまばらだ。ハルナは鞄から化粧道具を取り出すと、おもむろに言った。


「ナツミ、今日Preciousに行ってもいいかな?二人がどんな所で働いてるのかみたい」


「いいとも〜!」


「うっさい、リョウには聞いてないから」


 リョウちゃんは、いつものようにうなだれた。


「来て来て!」


 でも、そのまま制服で来ないでよ、そう言った私に、ハルナは満面の笑みで、残念と答えた。ハルナだったら本当にやりかねない。


「ナツミ、そろそろ行かないと準備間に合わねぇぞ」


「了解〜。じゃあハルナまた後でね!」





 お店の制服に着替えた私たちは、何だか落ち着かずそわそわしていた。リョウちゃんは、ハルナを、私は四之宮さんを待っている。


 最初に現れたのは、ハルナの方だった。





「ナツミ、リョウ、頑張ってる?」


「ハルナ!」


 ハルナの、ふわりとスカートを揺らせながら歩く姿は、まるでお人形さんみたいだった。いつもより、気合の入ったメイクでも、厚化粧に見えないのが凄い。ハルナは自分を可愛く見せる術を知っているのだ。


「リョウちゃん顔がにやけてる。キモイ」


「ばっ……か、んなわけねぇだろ」


 なんて分かりやすい奴だろう。


「へぇリョウ、制服似合うじゃん」


 ハルナは、リョウちゃんをファッションチェックでもするかのように見た。


「だろ?」


 リョウちゃんの顔のにやけ具合は相変わらずキモかったけど、確かに制服は似合っている。黒のベストにネクタイ、正装をしているのに、似つかわしくない茶髪とピアスは、ギャップがあってとてもいい。実際、お店の中で逆ナンされている姿を何回か見ている。

 黙っていればなぁ、普通にかっこいいのに。


「四之宮さんはまだ?」


 ハルナは、にやけまくるリョウちゃんを軽く無視すると、辺りに四之宮さんの姿を探した。


「まだ来てない」


「ホントに来るわけ?」


「さぁ……」


 四之宮さんは、また来てくれるとは言ったけれども、私には本当に来てもらえる自信はなかった。四之宮さんを追いかければ追いかけるほど、遠くに行ってしまうような気がしていた。

 大人の女の人みたいに、恋のかけひきなんてできない。追いかけるしかないのだ。がむしゃらに。


「来なかったら、私が首に縄つけてでも連れてきてあげるから!」


 本当にそんなことできるのかなんて関係ない、私はハルナの心強い発言が嬉しかった。


「打倒四之宮〜!」


 そう言うとハルナは、拳を大きく振り上げた。大人っぽい外見からは想像できないセリフに私は思わず笑ってしまった。


「打倒四之宮〜!」


 楽しくなってきた私は、同じように拳を振り上げた。リョウちゃんは何か言いたそうに口をパクパク動かしていた。




「俺が何だって?」




「ひっ」


 恐る恐る後ろを振り返ると四之宮さんが立っていた。本当に来てくれた。会話を聞かれていた恥ずかしさと、四之宮さんに会えた嬉しさが、ごちゃ混ぜになって、不思議な気持ちだ。


「四之宮さん、お久しぶりです」


 ハルナは先ほどまでの表情とはうってかわって大人の女の顔になっていた。この使い分けが私にも出来ていたら、今頃違う人生を歩んでいたかもしれない。


「ハルナちゃん、来てたんだ」



 四之宮さんは、優しく微笑んだ。私に向けられる笑みはいつも子ども扱いしているようなものだったり、挑戦的な表情だったりするが、ハルナに対するそれは一人の女性として対等に扱っている証拠だと思った。


「四之宮さん、ハルナには優しいんだ〜。ずるい〜」


「優しくして欲しいわけ?」


 そう言って向けられた顔はいつも以上に真剣で、心臓がドキリとなる。


「あ……え……」




「…………クッ。お前は本当にガキだな」




 一瞬にして真っ赤になった私の顔を見ると、四之宮さんは必死に笑いを堪えていた。


「四之宮さんだって人のこと言えないでしょ。25歳には見えないよ!もっと上かと思ったもん」


「あ〜確かに四之宮っちは老けてる。なんつうか妙に落ち着いてるんだよね」


「お前ら言いたい放題だな」


「25歳ということは四捨五入して30歳!」


「うわ〜四之宮さん30代突入だね」



 いい加減にしろ、そう言った四之宮さんの顔は全然怒ってなかった。私たちはこの日、本当によく笑った。何気ない会話が楽しくてしょうがなかった。このままずっと、楽しくやっていければいいのに。



 変わりたい気持ちと変わりたくない気持ち。四之宮さんに本当に気持ちをぶつけたら、もう二度と会えなくなってしまうかもしれない。好きだからこそ怖がりになることもある。壊れてしまいそうな気持ちを持て余しながら、四之宮さんを見つめていた。


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