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✡魔女の先祖✡

作者: クロネコ


 ちょっと 思いついた 物語の序章のようなお話を短編にしてみました。もしかしたら その話が、進むと改めて 改稿するかもしれません。


 そこは、魔法と剣の世界。妖精達が、溢れ 人と共存している世界。この物語の舞台となる 国は、『フェルシア帝国』。エルフ達が、治める 国。

このフェルシア帝国は、人間の世界と隣り合わせにあるものの 彼らとは、親交せずに 独自の文明を作り上げている 大国。かつては、人と手を取りあっていたようだが 寿命が違う彼らとは、時が経つに連れて 意見が、食い違うようになった。そして ある時 人は、エルフの魔力と知識を我が物にする為 エルフを容赦なく 捕らえるようになったのだ。その中には、当時のエルフ王とその一族も含まれており その被害は、存外なものだった。それが、この国と人間との決別の始まり。

それ以来 エルフは、人の世界から 自分の国を隔離し 遠ざけるように。帝国の存在する 森の中に 強力な結界を張り巡らせたのだ。結界を張ったが 国が、完全に消えているわけではない。余程の魔力を持つ者ならば 国の存在を察知することは、容易いはず。けれど 国に足を踏み入れるには、純粋な心を持たなければならない。欲の為 エルフに知識を求めるのではなく 心から 助けを求めていなければ 魔力を持っていても 森の中を彷徨うだけに終わってしまう。まるで 蜃気楼のように 手に届きそうなのに 触れることが出来ない 幻想のように。

それは、数百年経った 今でも 人は、帝国に訪れたことが無い。人間の世界は、その間 幾度も、崩壊と再建・建国を繰り返しているようだが 時が経つに連れて エルフの存在は、夢物語の生き物にされてしまったらしい。


 かの王 フェルナンド王は、幼い頃 辛い状況の中 王位を継いだ。その後 数百年もの間に 数多くの実績を残したことで 彼は、歴代のエルフ王の中でも 優秀で 世継ぎの誕生を心待ちにされていた。だが 王は、国の統治を理由に 妃を迎えようとしない。それが、王に集う者達の唯一の悩みだ。フェルナンド王の肉親は、誰もいない。みんな 人間と決別するきっかけとなった 争いの最中 人間達に酷い扱いをされた上 殺されてしまったのだ。遺されたのは、当時 生まれたばかりの赤子だった フェルナンド王だけ。この争いによって 国中のエルフの半分以上が、命を落とした。だから このままでは、血筋が、途切れてしまう。それだけでなくても 長命のエルフは、子供の出生率が、低いのだ。臣下達は、そんな不安を抱いていた。中には、自分の娘を王の寝室に 潜ませる貴族も、出てきたので これには、焦りを隠せなかったが。勿論 王は、この問題を起こした 貴族の一族に罰を与えた。

フェルナンド王は、整った顔立ちをした 美丈夫であり 貴族の令嬢だけでなく エルフの民達からも、人気があった。甘いマスクと柔らかい エメラルドの瞳で見つめるだけで エルフの女達を、メロメロにさせてしまっていたのだから。王としても、臣下や民から 慕われている。誰もが、フェルナンド王の伴侶となる 運命の女神が、降り立つことを待ち望んでいた。王の幸せを、国中のエルフが、願っているのだ。この国をここまで 立て直してくれた 賢王の為に。


 そんなある時 フェルナンド王に、運命の女神が、現れる。けれど それは、エルフ達の間で 問題となった。なぜなら 王の相手は、人間の女だったかだ。その女は、透き通るような 美しい黄金色の髪をしており その瞳は、サファイアのように 澄んでいる。その声は、鈴のように コロコロしており 庇護欲を誘うものだった。

王と彼女が 出会ったのは、王が視察を終えて 城に帰ろうとしていたところだったらしい。その道は、人間の世界と隣り合わせになっており 時より 人間の狩から逃れてきた 動物が、倒れこんでいることがあった。王も 最初は、そうだと思っていたのだが 近づいてみると 道に倒れていたのは、その人間の女だったそうだ。彼女は、背中に剣で切りつけられた傷が痛々しく残っており 王は、女をそのまま 城に連れ帰ってきた。

その後 王は、女を侍女の制止を押しのけて 彼女の看病をし続ける。王の瞳は、女だけを映しており 彼女にひと目惚れしてしまったのかもしれない。フェルナンド王は、女の世話を自ら 甲斐甲斐しく 行う。その姿は、まるで 恋人への求愛のようにも見えた。

女も 最初は、フェルナンド王に対して 警戒している様子だったが 自分に優しく接してくれる エルフの男に対して プラスの感情を抱いていることは、確かだろう。怪我が治ってからも 王は、彼女を人間の国に送り届けようとはしなかった。勿論 女も、帰ることを口にせず フェルナンド王の寵愛を一身に受ける。それこそ 生まれる前から 2人は、結ばれることが定められていたかのように。当初 臣下達も、2人の関係に 反対していたが その仲睦まじい様子に その考えを改めるようになる。大臣達は、世継ぎが生まれるのも 遅くないだろう と 期待に胸を膨らませた。


 けれど そんな王と人間の女を歓迎できないのが、王の伴侶を夢見ていた エルフの女性達だった。彼女達は、長年 王の妃になることを夢見て 生きてきたのだ。それなのに 突然 現れた しかも 人間の女に その地位を取られるなど 屈辱的だったのだろう。それも あんなにも 甘く熱の篭った視線を、一身に受け止めて。もしも 彼女が、王妃に迎えられてしまえば 彼女達は、人間の女に対して 恭しい 態度をしなければならないのだ。

エルフの女達は、その想いを一致団結して 王の相手を罠に嵌める為 奮闘する。その筆頭となっているのは、フェルナンド王の妃候補の有力者達だ。彼女達は、あらゆる 女に不利となる 話題を、国中に流した。不確かな情報とでしか 王族の近況を知りえない 民達は、それを信じ 人間の女に対して 悪女だ と (ののし)る。逆に エルフの令嬢達は、悲劇のヒロインのように 語られているほどだ。数百年前の争いを知っている者は、未だに 人間を憎んでいる者も少なくないのだから。そんなエルフ達を煽り 国中が、その考えでいっぱいになってしまう。


 フェルナンド王は、それを無視し続けていた。全ては、愛する 彼女を傷つけたくなかったので その噂が、女の耳に入らないようにしたのだ。彼女の身の回りの世話をする 侍女も、彼女を支持する エルフの壮年の女性だし 年若く 女を敵視している エルフ達は、彼女に近づかせないようにしていた。万が一 女に危害を加える可能性があったからだ。そうじゃなくとも 日に日に 彼女に対する 批判の声は、多くなっているのだから。しかも 賛成してくれたはずの貴族の中からも その声を発する者も、出るようになってしまった。

だが ある日 最も有力な妃候補の侯爵令嬢に 女の不可解な行動について 話を聞く。何でも 彼女は、皆が寝静まった後 城の抜け出し 森で 何かを探しているそうなのだ。令嬢が言うには、女は 王を裏切っている と 。フェルナンド王は、それを信じることが出来ない。なので その疑いを晴らす為 侯爵令嬢に誘われるままに 女の後をつけていく。すると 彼女が、人間の男と親密にしている姿を目にしてしまった。

それは、まるで 恋人同士の抱擁にも思えるような光景で。侯爵令嬢は、それを見つめながら 女が ずっと 王を裏切っていたことを嬉々としながら 語る。令嬢の話によれば 王の寵愛を受け 自分の足で動き回れるようになってから あのようにして 男と密会していたらしい。

フェルナンド王は、怒り 狂い 女が、城に戻ってくるなり 彼女の話も聞かずに 牢獄に入れてしまう。


 それから 数ヶ月もの間 フェルナンド王は、牢獄に足を踏み入れようとしなかった。彼女に会えば どんな嘘でも 信じてしまいそうだったから。王の今の姿は、まるで 仕事をすることで 生き延びているかのように 思える。臣下達は、そんな王の様子に 戸惑いを隠せない。令嬢達も、女が 投獄されたことに喜んでいたものの 前よりも 妃を迎えるに対して 興味を失ってしまった 王に 落胆していった。まるで どんなに憎くても フェルナンド王が愛しているのは、あの人間の女だけなのだ と 実感してしまったから。ただ 王の伴侶になる 夢を諦めなかったのは、あの侯爵令嬢だけだ。

彼女は、邪魔な人間の女を陥れたことで 自分が、王の妃になることを確信していた。家柄も 血筋にも 何の問題がないのだから。女性としての高みに立つことを 幼い頃から 当たり前だと教育されてきたのだ。自分以外に 王の伴侶になる者は、いるはずがない。他の妃候補など 敵とも思っていなかった。彼女達の使い道は、自分には出来ない 汚れの仕事をさせるだけ。たとえ 側室を迎えることになっても 立場を弁えさせてしまえば 自分の天下だと実感していたのだ。

侯爵令嬢は、父親に頼み込み 自分が 王の婚約者である と 国中に広めさせる。そうすることで 王も、諦め 地位を確立する 手段でも申し分の無い 自分を、伴侶にすると思い込んでいたから。


 そんな時 人間の世界のとある国の王が、エルフの国に足を踏み入れてきた。これは、驚くべきことであり 数百年もの 結界をいとも容易く 潜り抜けてきた 類稀な魔力と純粋な心を持つ人間の訪れを意味している。

人間の王は、王宮に着くなり フェルナンド王に謁見を求めてきた。驚いたことに 彼は、あの人間の女と親密にしていた 男だった為 謁見の間に居合わせた エルフ達は、怒りを露にする。

けれど 王は、それ以上に 衝撃を受けていた。あの時は、女が自分以外の誰かに抱きついていたことばかり 意識していたので 気が付かなかったが 彼は、王が愛した 人間の女に瓜二つだったのだ。彼は、投獄された 女の双子の兄だと名乗る。そして 妹を、自分に返すように と 請求してきた。

人間の王の話によれば 祖国を 他国に攻め入られ 両親は、その侵略者達に殺され 双子も 追われる身となっていたらしい。彼自身も 追っ手に深手を負わされ 身動きが取れる状態ではなくなってしまう。

その後 匿ってくれた 人々の助けを借りて 侵略者から 祖国を取り返すことに成功したそうだ。それを聞いて フェルナンド王は、初めて 出会った時の彼女の状態を思い出す。あれは、事故で負うような怪我ではなかった。おそらく 彼女は、追っ手に切りつけられ そのまま 倒れこんだ先が、エルフの通り道だったのだろう。彼女もまた エルフの国に入ることを許された 存在だったのだ。


 フェルナンド王は、急ぎ 女のいる 牢獄に向かう。けれど 見張りにいるはずの看守の姿が見えない。

そして 牢の前では、侯爵令嬢が、顔を蒼白させながら 何かを凝視している。そこに視線を向けてみると 人間の女は、血だらけになって 座り込んでおり その胸には、小さな 赤ん坊を2人 抱えていた。

女は、牢獄に入れられる時 既に 身篭っていたのだろう。けれど 衛生とは言えない この場所で 彼女は、たった 1人で 赤子を産み落としたのだ。

この事は、奇跡に近いことだった。エルフは、長命だが 子が生まれる 確率が、どの妖精よりも 低い。それなのに 女は、1度に 2児を、産み落としたのだから。女は、フェルナンド王は、近づいてくると 優しげな笑みを浮かべ そのまま 王の胸の中に倒れこんだ。彼女の背中には、短剣が、突き刺さっている。

その短剣の柄には、侯爵家の家紋が施されていた。どうやら 彼女は、秘密裏に 牢獄にいる 彼女を殺そうと 訪れたところ 女が、2人目の出産をしているところだったそうだ。そして 生れ落ちた瞬間 背中に 短剣を突き立てたそうだ。

令嬢は、その場で 王の指示の元 騎士達に捕らえられる。勿論 侯爵令嬢に加担した 者達も、処罰しなければならない。どう考えても あの令嬢だけでは、なし得られる ことではないのだから。

そして 女は、すぐ 医師に治療を施されるが 兄に 王を恨むな との 言葉を遺し フェルナンド王に花のような笑みを向けると そのまま 息を引き取った。


 女の産み落とした 双子の遺児は、姉弟で 姉は、母親の容姿を受け継ぎ 黄金色の髪をしており 瞳の色だけは、フェルナンド王と同じ エメラルド色の人の子。弟は、フェルナンド王のコピーのようだが サファイア色の瞳をした エルフの子。2人とも 異常もなく 元気な赤ん坊だ と 医師のお墨付きを貰う。

その後 姉は、女の兄に 弟が、フェルナンド王の実子として 引き取られていった。血の繋がった 姉弟を引き離すことは、心が痛んだが 互いに一緒にいれば どちらかが、種族としての迫害を受けることは、目に見えていたからだ。

そして フェルナンド王は、その後 声明を出す。それは、生涯 自分は、妃を迎えない ということ。これに関しては、波紋を呼んだそうだが 時が経つに連れて 沈下していく。それは、王太子として 立派に成長していったからだろう。

そして 彼の姉は、人間の国の王族として 夫を向かえ 民から慕われる存在となったそうだ。そして 彼女は、人々に慕われながら その生涯を終えた。

彼女の血筋は、その後 魔術に類稀な才能を持つ エメラルド色の瞳を持った 者が、生まれるようになったらしい。

こうして その末裔は、世界で 最も 魔力のある 魔女として 語り告げられることになる。



 最後まで 読んでいただき あいがとうございました、

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