八卦院 7
「だけど気をつけろ。素直で勘の良すぎる奴は、この町じゃ面倒事に巻き込まれる率も上がるだろうから」
黄金色の双眸は鋭く、彼が心底忠告してくれているのがわかる。
「確信なく他者の正体を口にすることは慎んだほうがいい。そうだな。藪を突いて蛇を出す結果になるかもしれない」
「名前と正体と……ここの奴らは随分と秘密主義なんだな」
「そりゃそうだ。特に名前はこの町において命も同然。お前も気をつけろよ? 下手な奴に名前を知られたら地獄に百篇落ちるより酷い目に遭う」
「それは随分大変そうな」
「ああ。だからせいぜい気をつけろ。これは先住者からの忠告だ……ユズリ、何か探しているのか?」
八卦院が声をかけると、数振りの日本刀を抱えていたユズリが振り返った。その眉間には一本の皺。
「……ない」
「あ? 何が?」
八卦院が聞き返すと、ユズリは刀を置いて大げさに身振り手振りをつけて説明し始めた。
「ほら。あの鐔が牡丹と蝶の意匠で、刃文は丁子、柄巻は紫糸の菱巻、黒塗りの鞘の大刀!」
必死の形相で遊佐にはわからない文言で説明するユズリに、しばらく考えていた八卦院は呑気にポンと手を叩いた。
「ああ、あれか。あれなら昨日売れたぞ」
ユズリの目が転がり落ちるのではないのかというほど大きく見開かれる。その上、口を開けたまま完全に停止してしまったのだから、相当にショックだったのだろうということが窺える。
思えば初めて会った時にもユズリは言っていた。自分は物に対する執着が人一倍なのだと。
「……だ」
震える声でユズリは言葉を絞り出す。
「誰が買っていったの……?」
「顧客情報を軽々しく流すのはな……まぁあいつはそんなこと気にしないか」
八卦院は独りごちてから面倒くさそうに顔を上げて言った。