おつかいを終えて 3
「さすがお父さんの娘だ」
管理者は打って変わったように陽気に笑った。そうしていると若くも見えるが、その外見は四十歳半ばかそれくらいだ。ユズリに聞いた話によると、それは管理者が彼岸に渡った際の頃の姿なのだそうだ。
この町には既に此岸で死した存在が多く存在する。だが彼らが皆管理者のように死んだ当初の姿で過ごしているのかと言えばそうでもないらしい。
生きていた頃、強い思い入れがあった頃に過ごした姿でいる者もいるし、服を着替えるように好きに外見年齢を変えて過ごす者もいるのだとか。遊佐の知る限り、管理者が現在の四十半ばの姿以外で過ごしているところは見たことがない。娘であるユズリもそう言っていた。
管理者などという役職に就くほどの力量を持つのなら自在に外見年齢を変えるくらいできるのでないかとユズリに尋ねたら、「何度聞いてもはぐらかされて真面目に答えてくれなかった」と忌々しげに答えた。管理者は娘に対しても例外なく秘密主義らしい。それが管理者という役職ゆえのものなのか、生まれついての性質なのかはわからないが。
そんな遊佐の思考は、団子は食べ終えてしまったのか、辺りに飛び交う鬼火を太刀の柄でつつくようにしていたユズリが声を上げた。
「そういえば今度の集会って代表者全員参加なんでしょ? 折継の奴も随分物々しいとか言ってたけど、何か面倒でもあったの?」
娘の問いに管理者は笑みを崩さず答えた。
「そんなこと、代表者じゃないユズリに言えるわけがないじゃないか」
ユズリの顔が引き攣る。
その顔に気圧された、というわけではないのだろうが管理者は小さく微笑んで続けた。
「まぁ厄介な案件が冥府から回ってきてね。それの対策会議というところだ」
「ふーん」
ユズリはしばらく探るように管理者を見ていたが、まさに柳に風という風情に微笑んでいる相手には無駄だと悟ったらしく、斜向かいの店で煎餅を買ってくると言って大通りの雑踏へと紛れていった。
そして後に残されたのは遊佐と管理者の二人だけだ。
思えば管理者と二人になったのは遊佐が初めてこの町に足を踏み入れて以来だ。見知らぬ町で当てもなく追うべき相手を探していた時に知り合ったのがシノだった。
町に慣れていないのだということはすぐに知れ、シノは自分がこの町ではそこそこに顔が利く存在だと話した。ならば遊佐の探し人を知らないかと尋ねたところ、生憎と管理者も心当たりはなかった。それから少しばかり話しこみ、何を思ったのか管理者は将棋で自分を楽しませてくれたら積極的に手助けをしようと提案してきた。
もっとも結局その対局で勝敗がつくことはなく、さらにそこでユズリがやってきた。結果として遊佐は管理者の協力とその娘という案内人のような存在を手にしたわけだが。
団子を食べ終え残った串を片手にぼんやりとしていると、管理者が遊佐の手から串を取って数本の串だけが置かれた皿に置き、店の奥に声をかけて皿を下げさせた。
「うちの娘はなかなか面倒な子だろう」
唐突に管理者はそんなことを口にした。大通りに視線をやったまま管理者は続ける。
「強情で気位が高くて、口を吐けば毒ばかりで。君にも随分きつい物言いをしているようで、あれの父親としてお詫びするよ」
そして遊佐へと目を向け、軽く頭を下げた。
「いえ、別に謝られるほどじゃ……だいぶ慣れたので」
意外ともいえる管理者の行動に、遊佐は軽く戸惑いを感じながらも答えた。
管理者は顔を上げると、苦笑しながら言った。
「昔はあれでもう少し素直でかわいげのある……まぁ普通の子供だったんだよ。人見知りで泣いてばかりで」
そう言えばクチナワもそんなことを言っていた。今のユズリから知らない遊佐には到底想像もつかないし信じられないことだが。
「あれがああいう……好戦的というか排他的というか、そういう風になってしまったのはどうも私のせいみたいでね」
「え?」
管理者大通りに目を向けながら頭を掻いた。