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迷い夜話  作者: 初瀬 泉
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おつかいを終えて 1

 管理者はこのおつかいを頼まれた時と変わらず賑わう大通りの団子屋の縁台に座っていた。彼は遊佐とユズリの姿を認めると軽く手を挙げ、人の良さそうな笑みを浮かべた。

「お帰り。二人とも」

「タダイマ」

 ユズリは憮然とした表情で管理者の向かいの縁台に座った。遊佐もその少し離れた場所に座る。

「お使いは無事果たせたかい?」

 管理者は娘の機嫌になどおかまいなしににこやかに尋ねてくる。

「当たり前でしょ」

 管理者の横に置かれた皿の上に並んだ団子に手を伸ばしながらユズリは答える。

「八卦院、折継、クチナワ、六条。全員にきちんと渡してきましたぁ」

「そうかい。それは御苦労さま。遊佐くんも代表者達とは話せたかい? 面白い連中だろう?」

「……なかなか見ないタイプだとは思いました」

 一応言葉を選んでそう答えると、管理者は満足そうに笑って大きく頷いた。

「うんうん。彼らは実に面白いだろう。この町は面白い人材の宝庫だからね、特に代表者なんていうのはその極みなんだよ」

「お父さんが何をもって面白いと言っているのか私には理解できない」

 ぼそりと呟いたユズリの言葉に管理者は人畜無害そうな笑みを向ける。

「おや。ユズリにはまだ彼らの面白さがわからないかい? それじゃあまだまだ管理者の器には程遠いな」

「何? 管理者って変な基準を持ってないとなれないわけ? て言うかお父さんだけでしょ。あの際物揃いを面白いなんていう酔狂は」

「お父さんは人を見る目が優れているからね。その域に至らないユズリから見ると酔狂に見えるかもしれないな」

「そーおですかーあ」

 あくまで余裕の笑みを崩さない管理者にユズリは太刀を横に置いてそっぽを向いた。

 あの傲岸不遜、傍若無人の彼女もさすがに父親相手にはそれほど食ってかからない。もっとも実の父でなくとも彼女をうまくあしらえる人物ならそうなのかもしれないとも思った。

「そう言えば折継くんにはよく会うが、六条や八卦院、クチナワには最近会っていなかったな。三人は元気だったかい?」

 団子の乗った皿を差し出してきながら管理者は尋ねてきた。ありがたく遊佐は団子を一串手に取り、ユズリもまた新たな団子に手を伸ばしながら答える。

「どうせ次の集会の時に会うんでしょ? その時にわかるよ。ぜーんぜん変わってないってことが」

 ひねた調子のユズリの答えに管理者はああ、と声を上げた。

「手紙の中身を見たのかい? まったく、人様の手紙を勝手に開けるなんてプラシバシーの侵害じゃないか」

「失礼ね、言いがかりはやめてよ。見たんじゃなくて八卦院が教えてくれたの!」

 眉を吊り上げて詰め寄るユズリに管理者は笑顔で答える。

「もちろん分かっているよ。お父さんの娘がそんなマナー違反をするわけないってこtくらいよく理解しているとも。ちょっと言ってみただけじゃないか。ユズリは冗談が通じないなぁ。そうは思わないかい? 遊佐くん」

「……はぁ」

 突然話を振られても曖昧に返事をするしかできない。

 ユズリ相手に冗談を言おうなどという気は今まで起こしたこともないし、恐らく今後とも起こすことはないだろう。遊佐はそんな己を危険に晒すような真似をしてまで冗談を口にするような趣味はない。

「ユズリももう少し冗談が通じるようになれば一皮剥けると思うんだが、これはまだまだ先になりそうだね」

 ふうとわざとらしく溜息を吐いて首を振る管理者にユズリの眉がさらに吊りあがる。

「冗談ばっかり言ってて折継みたいになったらどうするのよ! 八卦院やクチナワみたいならともかく、あんなヘラヘラ馬鹿になったら次代の管理者になんかなれやしない!」

「折継くんはあの性格がいいんじゃないか。先代の折継……彼の父親は割と猪突猛進なタイプだったが、あの父親を見て育ったとは思えないほど折継くんは面白く育ったものだ」

「どこがっ!?」

「まぁ八卦院やクチナワのようになるのも悪くはないと思うけれど。八卦院はあれで商売上手だし、クチナワはまぁかなり危ない奴だけど悪い奴ではないからね」

 かなり危ない奴と悪い奴はイコールではないのか。さすが管理者ともなると懐が深いらしい。

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