八卦院 4
「燃やしちゃっていいの?」
ユズリは別段驚いた様子もなく尋ねる。
「内容は覚えたしな」
僅かに手のひらに残った灰をはたき落としながら八卦院は答えた。
二人のやり取りから察するに、手紙は勝手に燃え始めたわけでなく八卦院の意思により燃えたらしい。こんな町だ。手から発火することができる者がいても驚くまいとも思ったが、同じ世界出身と言われた相手に手品まがいのことをされるとやはり驚かざるをえない。ただし遊佐の場合、それが表情には出ないのでユズリも八卦院も気にする様子もなく何事もなかったかのように話を続けてしまうが。
「それで二つ目の用ってのは?」
八卦院の黄金色の目がユズリを見上げると、彼女は堪え切れないといった様子で笑顔になって目をきらきらと輝かせた。
「今日は新しい刀を買いに来たの」
揚々としたユズリに反し、八卦院の反応はそっけないものだった。
「うちは武具の類は扱ってないぞ」
だがユズリの笑顔は曇ることなく、その声音が沈むこともない。まるで歌うように続けた。
「そんなことを言わないで。ここは白いあなたの店なのだから」
傍から見ている分には意味のわからない遣り取り。
だが実際には意味あることなのだろう。八卦院は立ち上がり、素っ気ない目が店の奥へと向けられる。
「上がれ」
「うん」
促されるままにユズリはその場で靴を脱ぎ、奥の座敷へと上がった。
「遊佐もいい?」
「ああ、まぁシノのお墨付きの餓鬼だしな」
八卦院はお前も上がれ、と言って座敷の奥へと消えていった。
「よかったじゃない。基本、八卦院の本店は一見お断りなのに」
「本店?」
「そ。この奥がそう」
そう答えたユズリは今までで一番機嫌が良いように見える。
本店とやらに行くことがそんなに嬉しいのか知らないが、あまりもたもたしていて機嫌を損ねることもないだろう。疑問を口にしないまま、遊佐も靴を脱いで座敷に上がった。