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迷い夜話  作者: 初瀬 泉
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六条 16

「そして彼女は六条としてこの町の男達を恐れさせる存在になりました。男は先に町に迷い込んでいた六条によって名を握られ死もなく生もなく、今なお彼女に隷属させられているのです――おしまい」

 そう言ってユズリは話を終えた。

 それからしばらく、二人は無言で歩いた。煉瓦敷きの道にかつかつと足音が大きく響いた。

「傍から聞いた限りは酷い男だと思った」

 遊佐がそう口にするとユズリは皮肉っぽく笑った。

「誰が聞いたって地獄落ちは確定でしょうよ。多分冥府でもそう決定づけられるだろうけど、六条が未だに冥府へ送ろうとしないからね」

 そしてユズリはやけに神妙な顔をして続けた。

「話を聞いた時は理解できなかった。今も理解できないけど」

 遊佐は黙ってユズリの言葉を聞いていた。

「まだ私も折継も子供の頃にこの話を聞いた。お父さん達でなく多分噂話か何かだったと思う。子供ってけっこう残酷なこと口にするじゃない? 私達も例に漏れずそういう子供だった。私達は六条本人にこの話の真偽を聞きに行ったのよ。『六条は本当に殺されてこの町に来たの?』ってね。我ながらろくでもない子供だったわ。でも六条は答えた」

 

 あの花のような微笑みを浮かべて答えた。

 ――ええ。そうです。


「その上私達はまだ聞いた。『何で自分を殺したような男を、冥府に送って地獄に突き落としてやらないの?』って」

 うんざりとした顔でユズリは息を吐いた。

「本当に無神経な子供だったわ、私も折継も。……その罰かしらね。私達はその直後、生まれて初めて本能的な恐怖ってやつを味わった」

 

 六条は笑った。

 艶やかにより一層笑みを深め、頬をほんのりと染め、うっとりとした表情で答えた。

 ――だって、愛しいものはずっとずっと誰の手にも渡さず自分の手元に置いておきたいでしょう?


「そして言ったわ。自分を騙して殺した男を今も愛してる。だから誰の目にも触れないようにずっと自分だけの物にしておくんだって。……本当にうっとりと語ったの。その時、私達は初めて町の連中が六条を恐れる意味を理解した。否応なく本能で理解させられた」


 無垢な少女のように歌うように六条は続けた。

 ――あの方は誰にも渡さない。この町でなら、永遠にあの方はわたくしだけの物。死という終焉もなく、ずっとずっとわたくしはあの方を愛することができる。


「……怖かった。六条そのものが。到底理解できない思考を持つ彼女が」

 そう語るユズリの表情は険しい。

「まだ子供だったから本当のところ、六条の言っている意味はよくわかってなかったんだけどね。だけどあの時の六条の笑みと嬉しそうな声に、私達は恐怖した。背筋が凍りつくように感じたことは今もよく覚えてる。私達は一目散にそのまま走ってお父さんたちの所へ帰ったわ」

 ユズリの左手が太刀を強く握りしめる。

「お父さんの顔を見た途端、緊張の糸が切れたって言うのか、怖くて怖くて泣いた。あのふてぶてしい折継の奴ですらがたがた震えてたわよ。……あの日、私達は狂気ってやつに初めて直面したの」

 それからユズリは遊佐へと顔を向けた。

「六条はその男に関するすべてに狂ってる。忠告しておくわ。六条にはあまり関わらない方がいい。いつどうやって、あの男に関する何かに接して六条の逆鱗に触れないとも限らないから。実際、そうやって六条の地雷に触れて半死半生の目にあった奴は少なくない」

 いつになく真剣な声でそう言って、ユズリはまた前を向いた。いつの間にか西洋的な通りを抜け、色とりどりの提灯と鬼火が舞う通りへと戻ってきていたようだ。

 ユズリは何を言うことなく、唇を引き結んだまま喧騒の中を歩く。その隣を歩きながら遊佐は思う。

 ユズリの言うとおり、六条は狂っているのかもしれない。

 ただ彼女のようにそれを恐れる気持ちも、厭う気持ちも湧いてこないのは――……。




 これで迷い夜話中一番長くなってしまった六条編は終わりです。次でエピローグのような感じになるよう書いていきたいと思います。

 ここまでおつきあい頂きありがとうございました。

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