六条 7
「まぁ……要領が悪くないのは認めるんだけどさ。さっきも大男が落ちてきたんだけど、あれあんたでしょ?」
「大男?」
六条は頬に右手を添えて小首を傾げてみせた。覚えがないと言わんばかりに不思議そうな顔だ。
「上半身裸で、お腹のあたりに傷を負った男。……どう見てもこの塔から落ちてきたんだからあんたしかいないでしょ」
「ああ」
六条は声を上げて手を叩いた。
「上半身衣服も纏わずに此処まで昇ってこられた無粋な方のことかしら。ええ、それなら覚えがあってよ。何せあの風体ですでしょう? 変質者かと思って咄嗟に自己防衛に走ってしまいましたわ」
自己防衛で人を十二階から突き落としたのか、この女は。
彼女もやはりまともではなかった。
「まったく婦女子の前で服装も整えずに……ああ、恐ろしかったですわ」
わざとらしく六条は身震いしてみせる。
恐ろしいのか。それは突き落とされたというあの大男こそが言いたい言葉だろうに。
いや……突き落とされ?
そうだ。あの三メートルはあるだろう大男は突き落とされたんじゃなかったのか。その上腹の横一文字に刻まれた傷からは出血していた。それも彼女が、どう見ても腕力があるようには見えない六条がやったと言うのか。
「自己防衛であれだけの手傷を負わせて突き落としたら普通は過剰防衛になるわよ」
ユズリがぼそりと呟く。
それと聞いて六条はにこりと艶やかに微笑んだ。
「問題ありませんわ。わたくしは普通ではありませんもの。この町における様々な特権を与えられるからこそ代表者などを務めておりますのよ?」
「いくら代表者がある程度免罪特権があるからってやりすぎな気も……」
「六条ーっ! いるかぁ!?」
硝子の扉が開かれると同時にドスの聞いた声が辺りに響き渡った。