八卦院 3
「お前はまたそうやって人の素性をぺらぺらと」
八卦院はうんざり顔で溜息を吐いた。
「どうせここに通っていれば気付くことでしょ? 私はお父さんから遊佐の案内を任されてるんだからいいじゃない」
「そりゃそうだがな。未来の管理者がそんなことじゃ周りに示しがつかないぞ」
「はぁい。注意しまぁす」
まったく気のない返事をするユズリに八卦院は諦めたように真白い頭を掻いた。
「それで? 今日は何の用だ?」
ユズリはまだ不満そうにしていたが、少年の言葉に思い出したように声を上げた。
「そうそう! 今日の私は二つばかり大切な用事があるのよ。ひとつはお父……管理者から」
「シノから?」
少年は片眉を持ち上げて聞き返した。
「そう。はい、これ」
ユズリはカバンから「八卦院」と書かれた封筒を取り出して少年に手渡した。
少年は封筒を受け取ると丁寧に封を開け、白地の味気ない便箋に視線を落として行った。
「集会か。裏の参百伍拾弐月丑寅日、捌朱の刻……随分急だな」
日時のことらしいが、遊佐にはそれがいつを示しているのか想像もつかない。以前シノが奇妙な時計を持っていたのを見たことがあるが、それを見てもこの町にどのような時間が流れているのかはさっぱりわからなかった。
「相変わらずこの町の時間の数え方はよくわかんないわ。この間まで半の廿壱月じゃなかったの?」
すぐ隣でユズリが同じようなことを呟くのを耳にして、この町での先達にあたる彼女でもそうなのだから、そう簡単に理解できるようなものではないということくらいはわかったが。
「だから言ったろ? この町でうまくやるコツは常識を捨てることだって」
そう言った八卦院の手にあった便箋がボッと音を立てて燃え始める。遊佐が声を上げる間もなく便箋も封筒も跡形もなく燃え尽きていた。