六条 6
それにしても上品に口元を押さえで笑う六条と、太刀を片手に握るユズリ。
見た目だけで判断するのならば間違いなくユズリのほうが強そうだ。気の強そうな顔立ちやぎらぎらと煌めく刃物のような雰囲気。極めつけは最早体の一部と化しているのではないかというくらい馴染んでいる左手に握られた太刀だ。
対して六条は小柄なユズリより若干背は高いものの、たおやかという言葉を体現したかのよう。小さく白い顔には常に微笑を湛えている。何よりどう見ても彼女はどう見ても丸腰だ。ユズリのように太刀を手にすることなく、折継のように脇差を隠し持っている風もない。もしかするとクチナワのように何か奇妙な道具でも所持しているのかもしれないが。
確かに六条の年齢云々の際には彼女の笑顔は凍りついたが、今のところそれだけだ。実害はない。したがって今のところ、遊佐の恐れるべき対象に六条は入らない。
だがユズリと折継が揃って恐れる相手なのだ。何もないわけがない。
「……六条はさ、いつまでここに留まるの?」
ふいにユズリが口を開いた。どこか強張ったその顔を見て、六条はくすりと笑う。
「あら、わたくしがこちらにいてはご迷惑かしら?」
「そ、そうじゃなくて!」
ユズリは必死の形相で弁明する。
「六条は冥府に行って手順を踏めば生まれ変われるじゃん。地獄落ちが決まっているクチナワとは違って生前特に悪事を働いたわけでもないんでしょ?」
「そうですわねぇ。此岸で悪事らしい悪事を働いたことはございませんわね。わたくし女学校でも品行方正な優等生として通っておりましたし。死に方が悪かったので家族に迷惑はかけてしまったでしょうがそれも死後のことですし」
死に方が悪かった?
どういう意味かとユズリを窺うと、聞くなとばかりに慌てて首を横に振ってきた。
「ですけどわたくし此岸ではひたすらに模範的女学生でしたから、この町で羽目を外すことが楽しくなってしまいましたのよね。女学校では御国と殿方に尽くすよう散々説かれましたけれど、こちらではそんなこと誰も言いませんもの。強きが正義。そこに男女の隔たりはなく、男女の力の差など此岸の常識もこの町には通用しない……このような場所は他にありませんもの。まだまだわたくしはこちらで楽しんでいきますわよ」
本当に楽しげに六条はそう言った。
ユズリはといえば疲れ切った様子だ。
「ほどほどにしておかないと冥府に目をつけられるよ……」
「その辺りはうまくやりますわ。わたくし、クチナワさんほど要領は悪くありませんもの」