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迷い夜話  作者: 初瀬 泉
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六条 5

 六条――それはユズリと折継もが恐れる豪傑の名のはず。まさかこんな女学生のような相手を捕まえてあの二人が震えあがるなんてそんなことがあるわけが。

 ちらりとユズリに視線を送ると、彼女は一歩退くように顔を背けていた。いやまさかそんなわけが。

「ところでユズリさん。今日はどうかなさったの? 貴女からわたくしを訪ねて来て下さるなんて嬉しいですわ」

「あ……あの、お父さんが、これ、これを渡すようにって」

 そしてユズリは震える手でシノから預かった代表者宛ての手紙を六条に渡した。

「シノさんから?」

 六条はほっそりとした手で丁寧に封を破り、便箋を取り出した。

 まさか本当にこの六条がユズリと折継という唯我独尊、気随気儘の二人を恐れ慄かせ、大男を突き落とし、町中で名を口にすれば阿鼻叫喚の図を生み出した、あの六条なのか?

「ああ、代表者集会。全員参加ですの? 気が乗りませんわね」

 六条はほぅと憂い気に溜息を吐き、ユズリを見た。

「代表者の顔触れは相変わらずですの?」

「私が知っている顔触れは変わったって聞いてないけど。さっきも八卦院に折継、クチナワに同じ手紙を渡してきたし」

「相変わらず癖の強い方達ばかりですのねぇ。最近クチナワさんや折継さんにはお会いしていないけれど御息災なのかしら?」

「息災でない二人なんて見たことないよ」

 ぼそりと答えるユズリに、それもそうですわねと六条は軽く笑う。そして便箋を折り畳み封筒に戻すとじっとユズリを見た。

「な、何?」

「いえ、血は争えないものと思っておりましたの。シノさんも今のユズリさんと同じお年の頃にはそうして太刀を片手に町のごろつきを相手にしてらっしゃいましたわ。ふふふ。懐かしいですわねぇ」

 笑いながら六条はユズリの手に握られた太刀に目をやった。

 シノが今のユズリと同じ年の頃……ということは間違いなく存命の頃。少なくとも三十年近く前。すると六条は彼岸時間で三十年以上はこの町に換算になる。

 最近では見かけないセーラー服といい口調といい、やはり彼女は戦前の女学生か何かだったのか。

「遊佐さん」

 つらつらと考えていたところに六条の笑顔が向けられた。しかしなぜかその笑顔は先ほどまでと違って妙な冷気を纏っているように感じるのは気のせいか。

「女性の年を詮索するものではなくってよ?」

「っ!」

 なぜわかった……実は読心術の使い手か?

 それとも何かもっと化け物じみた何かか?

「遊佐の能面無表情でよくわかったね、六条……」

 ユズリがやや暴言を織り交ぜながらも遊佐の心境を代弁するようにそう言うと、六条は花のように微笑んだ。

「嫌ですわ、ユズリさん。女の勘を侮ってはいけないといつも言っていますでしょう? 貴女も女なのですからいずれわかりますわ」

 勘と言っていいレベルなのか?

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