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迷い夜話  作者: 初瀬 泉
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六条 3

「本人に言わせたら何か機嫌を損ねる法則でもあるのかもしれないけどね、私は知らないわよ。あいつの考えてることなんてお父さん以上にわかんないもの」

 そう言えばさっきも折継とそんなことを言っていたか。

「あー本当に機嫌が悪くないといいんだけど」

 溜息を吐くと、ユズリは迷いなく階段へと歩いて行くと一段目を前に止まった。

そして一言。

「十二階、二人」

 そう言ってユズリは階段を昇り始めた。

 遊佐はその様子を見て内心首を傾げた。ユズリは短気で乱暴で傍若無人だが比較的常識の範囲内で生きているのだと思ったが、一体今のは何なのだろう。十二階まで行くからお前も早く昇れと暗に遊佐に言ったのだろうか。それともどこかに記録媒体があって十二階まで二人昇ると知らせたのか、それともこの町特有の儀礼か、それとも……。

「ちょっと遊佐。ぼけっとしてないで早く来なさいよ。何突っ立ってんのよ」

 気付けばユズリは五段ほど昇ったところから不機嫌な顔で遊佐を見下ろしていた。

「……いや、今の一体何かと」

「はぁ?」

 ユズリの眉間にしわが寄る。

「『十二階、二人』って言ったろ? あれは何かと」

 下手にごまかして余計に機嫌を損ねるよりはいいだろうと素直に訊いてみると、ユズリは面倒臭そうな顔をしながらも一応説明してくれた。

「ここの階段は昇る前に、何階まで何人って言わないと延々と昇り続けなきゃいけないのよ。私とあんたで二人、十二階まで。そういう意味」

「階段にエレベーターガールが機能としてついているようなものか」

「エレベーターガールって……まぁ確かにそんな感じね」

 理解したところで早く昇ってくれと急かされ、遊佐も階段に足を掛けた。

 金属製の階段をユズリに続いて昇っていく。不思議と天井も二階に差し掛かった階段部分も見えるのに、いくら歩いてもそこまで辿りつけない。

 カンカンカンと硬質な足音だけが延々と殺風景な一階に響き続けるだけだ。この気分をたとえるなら下りエスカレーターを昇っている感じだ。傍から見たら相当まぬけな光景じゃないのだろうか。

 それから五分ほどそのまぬけな光景を生みだし続け、ようやくユズリが二階に差し掛かる部分へと一歩踏み出した。

「エレベーターくらい設置してほしいわよね」

 そんなことを言いながら階段を昇っていく。色々聞きたいことはあるが、やはり階数ごとに歩く時間は違うのだろうか。一応最上階を目指したわけだから他の階へ行くよりも時間はかかるのかもしれない。違うかもしれないが、今日のこの用事を終えてしまえばしばらくはここへ来る用事もないだろうしわざわざ聞くまでもないだろう。

 そしてようやく遊佐も本来なら一階の天井でしかないはずの一部をくり抜いて階段を通した場所を越え一階天井の裏、二階の床へと足をつくことができた。ところが一足先に昇り終えたユズリは息を吐いてこう言った。

「さぁ着いたわよ、十二階!」

「……ここは二階だろう」

 すかさず言った遊佐にユズリは鬱陶しそうな顔を向けてくる。

「何言ってんの? 十二階、二人って言ったんだからここはもう十二階よ」

「だってさっきまでずっと一階の階段を」

「だーかーら! 最初に何階に何人って言ったでしょ? あそこで二階って言えば一階から直行で二階。五階って言ったら五階まで昇れるようになるのよ、あの階段は」

「じゃあ十二階って言ったから一階の上が十二階になったと?」

 どうもわかりにくいが。

「そうそう。空間がねじれてるとか言えばいいかしら。そういう感じなの、この塔は。どう見ても二階まで続いてたのに、階段を昇ってるうちにいつの間にか十二階まで直行になっているわけ。理屈はさっぱりわからないんだけど、そういうものって思うしかないわよ。でないとストレスたまるから」

 説明にも疲れたと言わんばかりにユズリは壁に寄り掛かった。

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