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迷い夜話  作者: 初瀬 泉
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六条 2

 ユズリは眉を吊り上げて男に振り返った。

「どうせ正当防衛になるからいらないっつってんのよ」

 低い低い声だ。

「こいつを落としたのは代表者よ。飛びきり口達者で悪知恵の働く悪辣な」

 不機嫌を全面に押し出すユズリに男たちが怖気づいたように一歩後ろに退いた。

「この程度であいつをどうこうできるならあんな奴、とっくの昔に冥府に送られてるわよ。あの六条が、この町の数少ない法を熟知し抜け道という抜け道を網羅しているあいつがそんな間の抜けた真似するわけないでしょ」

「え、六……」

「六条!?」

 男たちだけでなく残った人々も表情を凍りつかせた。

「ここにいるのか!? あの六条が!?」

「う、嘘だろ……何でこんな町のど真ん中に!?」

 男たちは青ざめた顔を塔に向けたかと思えば、顔を見合わせてあっという間に走り去った。残った人々も同様だ。己に火の粉がかかる前に立ち去ったらしい。

「ふん、ここが六条のお気に入りだってことも知らずに今の今までよくやってこれたわよね。随分悪運の強い連中だわ」

 ユズリが不機嫌に呟くと、横目で落ちてきた大男を見てそのまま観音開きの扉の前に進んでいった。

「何だ、この落ちてきた奴はいいのか?」

「どうせすぐ医家が来るわよ」

 右側の扉に手を掛けながらユズリは答える。

「全く最悪よね。こいつのせいであいつの機嫌が悪くなってなきゃいいけど」

 最後に恨みがましい視線をいまだ起き上がれずにいる男に向け、ユズリは開けた右扉から塔の内部へと入っていった。そして遊佐に振り返る。

「早く来なさいよ」

 これ以上彼女の機嫌を損ねないよう、遊佐も足早に彼女の後に従い十二階建ての塔の内部へと足を踏み入れた。

 重い音を立てて扉が閉じて外界と塔内部とを隔てると、外の喧騒がうそのように静かになった。

 天井からいくつかランプが吊るされていて、中は思いのほか明るい。

石畳の床、煉瓦の壁。そして壁に沿うように伸びた階段。

特に何があるというわけではない。装飾品も調度品も何もない殺風景な場所だ。

「一階は特に何もないわよ」

 周囲を見回してた遊佐にユズリはつまらなそうに言う。

「いくつかの階は色々と使われてたりするけど、一階は空き部屋。何もないの」

「色々?」

「書庫になってたり、住んでいる奴がいたり」

「住んでる奴がいるのか?」

 てっきり公共物だと思っていたが違うのか。

「基本的に塔の管理は町の管理者がやるから、その時々の管理者の方針次第。今はうちのお父さんが七階を自室代わりにして、他の階は賃貸ししてる」

「賃貸し……」

 あの管理者も、人の好さそうな顔をして抜け目ないことだ。

「ああ、じゃあもしかして六条って奴も十二階を貸し切ってるのか?」

 いつもそこにいるとの話だし、さっき落ちてきた男も十二階から突き落とされたと言っていたし、不法侵入でもして居住者の怒りにでも触れたのかもしれない。

 だがユズリは呆れ顔で遊佐を見た。

「あいつはそんなことしないわよ。賃貸ししてるって言ったってバカみたいな値段だしね。一応町一番の景観が楽しめるってことで一般開放されてるし」

「なら何でさっきの男は突き落とされたりしたんだ?」

「六条の機嫌を損ねたんでしょ。名を上げようとして町の名のある奴を狙う物好きも時々いるし。それとも六条の存在を知らずに十二階まで行ってあいつの視界に入っちゃって逆鱗に触れたとか……」

「ちょっと待て。視界に入っただけで逆鱗に触れたりするのか?」

 今まで会ってきた代表者というのも確かに危険人物だったが、いくらなんでも視界に入っただけで逆鱗に触れるほど危険な奴はいなかったように思う。あくまで思うだけなので実際はわからないが。

 そしてユズリは事もなげに答えた。

「運が悪いとね」

「運任せか」

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