危険意識 7
この二人がここまであからさまに忌避すべき相手とは一体どんな奴なのか。少しは興味があったが、命あっての物種。触らぬ神に祟りなし。先人が遺した有難い言葉に従うなら遊佐もそんな相手とは関わりたくない。
「顔を合わせといて挨拶ひとつしなかったらなおさら怖いだろ……」
「そりゃそうだけど……それでも無難に社交辞令で挨拶しておけばいいだけじゃない。明らかにそっちのほうが楽よ」
鬱々とした空気をまきちらしながら二人は言い合う。
「楽なもんかよ……あいつは俺をいたぶって楽しんでるんだよ。社交辞令だけで済むもんか。絶対何かしら仕掛けてくるに決まってる」
「いくらあんたよりマシとは言え、私だってあいつと直接会うのなんて何としても避けたいのに。お父さんのバカ!」
嫌だ嫌だと言いながら二人はどんどん暗くなっていく。
その光景はやはり町から見ても稀なのか、気付けば遠巻きに行き交う人々がこちらを窺っていた。
「あー……その、そいつはそんなにヤバイ奴なのか?」
遠慮がちな遊佐の言葉にユズリと折継が同時に顔を上げ、頷いた。
「俺らはガキの頃からここに通っていたから、あいつには散々トラウマを形成させられたんだよ」
「……そもそも存在自体が恐怖よ、あいつは。子供の頃からの条件反射であいつを見ただけで鳥肌が立ちそうになるんだから」
それは随分なことだ。二人にトラウマを植え付けるほどなのだから、やはり相当な人物なのだろう。だが管理者の性格を思えば、その代表者に手紙を届けなければ戻っても何度でもまた放り出されるに決まっている。
実の娘であるユズリはそれを理解しているからこそ、ここでこうして二の足を踏み続けているのだろう。だがいつまでもこうしていても埒が明かない。
「とにかく何にしても俺たちはそいつのところに行かなきゃならないんだろう? それだったら諦めて早く行った方が楽になるんじゃないか?」
「わかってるわよ……わかってはいるのよ! だけどさぁ……」
「遊佐だってそんな余裕かましてられるのも今のうちだぜ? あいつをちょっと知ったらもうそんなこと言えないからな」
そう言って折継はまた溜息を吐いた。
「まぁいいか。俺はとりあえず集会の日までは顔を合わせず済むんだし……とりあえずお前らがんばれよー」
まだ暗い顔をしながらも折継は顔を上げて言った。