危険意識 6
「それじゃあ遊佐、その小刀こいつに渡してくれよ。ちゃんと届けてやるから」
「……いいのか?」
折継ではなく、彼に握られた鬼の首を見て遊佐は聞く。鬼の首は最早これ以上言葉を発することを諦めたかのように黙りこくってしまっている。
いくら捕まった相手と提案してきた相手が悪かったとは言え、さすがに哀れだ。
そんなことを考えているうち、「貸しなさいよ」と言ってユズリが遊佐の手から数振りの小刀を奪い、強引に鬼の手に握らせた。
「さすが鬼ね。手が大きいからこれくらいの小刀ならいくらでも持たせられそうだわ」
鬼の首を見下ろすようにユズリが言う。
「労働力としてはそこそこ使えるだろうな」
どこか寒気を誘うような笑顔で折継も言う。
二人に見下ろされた鬼の顔に露骨なまでに怯えが生じた。
気の毒に。蛇に睨まれた蛙どころか、鬼が鬼以上の何かに睨まれている。
「ほんじゃ、俺そろそろ行くから」
鬼の首を挨拶代わりに持ち上げて折継は先へと歩を進めた。
「あ、待った。ねぇ、今日はあいついた?」
「あいつ?」
ユズリの言葉に折継は顔だけで振り返りながら聞き返す。
「つい今しがたまで話題にしていた『あいつ』よ」
その言葉に折継の笑顔が凍りついた気がした。
これもまた珍事だ。この得体の知れない恐怖の女装男でもこんなことがあるのか。
「まさかユズリ……お前が手紙を届ける相手って六条も含むのか?」
どこか堅い調子の折継の問いにユズリは神妙な顔をして頷いた。
なるほど。彼女らの言う『あいつ』の名前は六条と言うらしい。
その横で折継の顔が引きつった。
「マジかよ……何つー過酷な……。そうか、代表者全員強制参加って言われたんだもんな。うっわー今度の集会あいつ来るのかよ……さぼろうかな」
「強制参加でしょ? て言うかあんたはいいわよ。顔を合わせたって直接関わるとは限らないじゃない……こっちなんか直接手紙を手渡さなきゃいけないのよ……否応なく関わらなきゃいけないのよ」
ユズリと折継は揃って項垂れ、重たい息を吐いた。