危険意識 5
「そうそう。理解不能な相手は怖い。ユズリに理解できないなら俺にはもっとできないさ。あいつは」
「あいつ?」
二人の恐怖の対象と『あいつ』とは同一人物なのか。
折継はおどけるように言う。
「あいつは怖いぞー? 俺もここじゃ知り合いは多い方だが、あいつに全く恐怖心を持たないのは師匠くらいのもんさ。あとはー……クチナワあたりもだな。お前ら代表者に会いに行ってたんだっけ? あいつにも会った?」
「つい今しがた」
遊佐より先にユズリが答えた。
「そこの小さい刃物はクチナワのところで狩りたてほやほやよ」
そう言って遊佐が抱える小刀を指差す。
「クチナワのところでってことは、あいつまた危なそうな奴らに狙われてたのか?」
折継は小刀の束を覗きこんでからユズリを見た。
「みたい。クチナワも敵が多いからね」
ユズリは肩を竦めて答えた。
「代表者なんて皆そんなもんだろ。八卦院みたいのなんて例外中の例外。大概は町の悪名高い連中で構成されてるんだし。あ、俺みたいな善人も例外か」
「よく言うわよ。どこの善人が喚く鬼の首ぶら下げて歩いてるのよ」
「それはほら、ここに」
あくまで笑顔の折継からユズリは顔を背け、うんざりとした調子で息を吐いた。
「あーもういいわ。じゃあ自称善人はとっととその鬼届けて来なさいよ。あ、ついでだからこの小刀も番所に持って行っておいてくれない? どうせまた後で番所に戻るんでしょ?」
「俺こんなに重い荷物両手に抱えてるんだけど」
そう言って折継は鬼の胴体と鬼の首をユズリに示す。
だがユズリはそんなこと意にも介さず言った。
「だったらその鬼の胴体に持たせておけばいいじゃない」
鬼の首がぎょっとした顔でユズリの顔を見上げた。
「ああ、その手があったか」
折継は晴れやかな表情で遊佐に向き直った。