危険意識 4
「……本当にここには色んな奴がいるな。理解の範疇を超える」
遊佐が思ったままに呟くと、折継は笑いながら続けた。
「だろー? もう面白いったらないよな。ガキの頃なんてタダでお化け屋敷に入った気分ですっげー楽しかったし。惜しむらくは違う世界の奴は此岸に持ち帰れないってことだよな。こいつなんて節分の鬼役にぴったりだってのに」
けらけらと楽しげに笑いながら折継は鬼の首を振りまわした。しゃがれた声が悲鳴を上げたがまったく気にしていない。もしかすると聞こえてすらいないのかもしれないが。
折継はにぃっと笑い遊佐の視線の高さまで鬼の首を持ち上げた。
「だけどこいつなんてまだいい方だ。何せ俺も遊佐もユズリもこいつを視認できる。こいつがなぜこうもやかましく喚いているか、それだって理解できるよな?」
「そりゃああんたがそうして無体な扱いをしてるからだろう?」
他にどんな理由があると言うのか。
「そう。まぁ他には冥府に送られることなんかもこいつの不満の理由のひとつなんだろうが、まぁその辺までは理解できるだろ? 自分が気に入らないことをされたからこいつは不満なんだ。そしてをそれを言葉にし、態度に表しアピールしている」
「まぁそうだな」
何を当たり前のことを言っているのか、という顔をすると折継は先ほどまでとは違う薄い笑みを浮かべて言った。
「ここで本当に恐ろしいものの一つは理解の外にある存在。どう足掻いてもその思考を理解できないような、まるで違うものの考え方をする奴だ。そういう連中は厄介だ。この町は特殊な場所だから、あらゆる世界のあらゆる言語による意思疎通が可能っていう場所なんだが、言葉が通じないものほど怖いものってのはない。同じ言葉を話しているはずなのに、相手の意思が理解できない奴ってのはな」
折継の言葉は分かるようでいて分かりづらい。
とりあえずこの町では自動翻訳されるから言葉が通じない相手というはいない。だが、本当の意味で言葉の通じない相手はいるということ。
「此岸でだってそうだろ? あまりに自分とは違う考え方すぎて理解し合うことができないとかそういう話」
「ああ。あるな」
「この町はこういう危なっかしい町だからさ、危なっかしい奴が多いんだよ。それで思考回路が全然違う奴なんて怖いぜ? 俺らからすりゃとんでもない悪逆非道の行いが、そいつにとっては最も正しいことだったりとかさ」
「話し合いは無駄そうだな」
「んーまぁそれもそうなんだけど、何て言うんだろうなー。けっこうヤバイ、イっちゃってる奴ってのは俺も何度か会ったことがあるんだけど、そういう奴らはこう本能的に怖いって感じちまうんだよ。やりにくいったらないぞ? 恐怖は御し難いからな」
「お前にも怖い相手なんているのか……」
絶対怖いものなんてなさそうなのに。まさに怖いもの知らずという感じがありありとするのに。
だが折継は笑みを崩すことなく答える。
「そりゃあな。多くはないけど一応」
「あんたにそんな人間らしい感情あったんだ」
ユズリが呆れたように折継を見る。
その視線を受け、折継はくつくつと笑った。
「そりゃあ俺も人間だし? それにユズリですら泣いて逃げ出す相手だっているんだ。そんな相手は俺だって怖い」
「泣いて……」
そこまで言いかけて、途端ユズリの顔に焦りが生じる。
「っ別に泣いて逃げたりなんてしてないわよ! ただあいつはちょっと理解不能だってだけで……」