クチナワ 9
クチナワは無言でそれを受け取り、数えるように一枚ずつ黒みがかった四角い銀を二枚取り出した。
「丁度だ。毎度あり。……ああ、ユズリも狩り終わったらしいな。すぐに帰ってくる」
「あんた、後ろも見えてたりするのか? しかも塀の向こうまで見えたりとかも」
「当たり前だろ。背後を見るためにうなじに目があるんだろうが。目がいい奴は障害物があっても向こうをみることができる。そして俺は目はいいほうなんだよ」
さも当然のようにクチナワは言い切る。
やはり彼の常識と遊佐の常識というのも随分異なるものらしい。
「そう言えばお前らは目が正面にしかないんだったな。不便じゃねぇのか?」
「……いや。特に感じたことはない」
「ふん。そういうもんか」
クチナワはもう興味をなくしたように遊佐に財布を返して話題を変えた。
「しかしお前も大物だな」
何のことだと思い、遊佐が軽く眉をひそめるとクチナワは続けた。
「ユズリの相手のことだよ。あいつは悪い奴じゃねぇが扱いにくいだろ?」
「大物扱いしてもらえるほど、ユズリの相手は大変な作業なのか」
言われてみれば、確かにそうかもしれないと思わなくもないが。
するとクチナワは初めて表情を弛めた。
「何しろ猪突猛進で負けず嫌いで気位が高いだろ? シノが死んでしばらく町に出入り禁止になってそれが解かれたと思ったらああなって帰ってきたんだ。ここじゃ弱みを見せるのは危険だし、次の管理者候補に名前が挙がったんだから扱いにくいくらいでちょうどいいのかもしれねぇが。まぁ俺達みたくガキの頃のあいつを知ってる奴らは随分驚いたもんだ」
「あんたもユズリとの付き合いは長いのか?」
「ああ。シノが初めてあいつをこの町に連れてきた時、確か満年齢で三歳になるとか言ってたな。人見知りで驚くとすぐ泣くが今に劣らず負けず嫌いのガキだった。あくまで子供らしいって範囲でだけどな。まぁ年相応のガキだったと思うぜ。最初はいつもシノの後ろに隠れてるんだよ。慣れてくるとにこにこにこにこと馴れ馴れしく向こうから来るようになってくるんだが。ま、何にしても今からじゃなかなか想像もつかないかもしれねぇが」