クチナワ 8
「ついでに二人とも少し動くなよ」
ずっと火薬をまとめる作業に徹していたクチナワはその作業を一旦止め、手元に並んでいた商品らしい壺や瓶の中から陶製の小さな蓋つきの壺を取り、顔を上げることなくそのまま背後にその壺を投げ捨てた。それは彼の背後の塀を飛び越え消えていった。
刹那。
「ぎゃああああああああっ!」
耳をつんざく悲鳴。それも複数。
「やめっ、ぎゃああ! た、助けてく」
やがて悲鳴はぴたりと止んだ。
不気味なほど唐突に、恐ろしいほどの静寂が帰ってきた。
「もう動いていいぞ」
そしてクチナワは何事もなかったかのように再び作業に戻った。
「……今のは」
その遊佐の問いに答える者はいない。代わりに遠巻きにクチナワを窺っていた輩があからさまな怯えの視線を一斉にクチナワに向けたかと思えば足早に立ち去っていく。
これ以上ないくらい明確な回答だ。
「ユズリ。多分今の連中も無認可帯刀者だったがどうする? 数は三人。全員が何ってったか……ああ、肥後守だったか? みたいなのを持っている。狩るか?」
「…………行く」
ユズリは俯き加減に頷き、小走りに塀に沿っていった。その姿はすぐに闇に紛れてしまい見えなくなってしまう。
「相変わらず刀狩熱心な奴だな」
クチナワは袋に詰め終えた火薬の小袋を遊佐に手渡しながら言った。
「やっぱりあいつは刀狩好きなのか」
ユズリの消えていった方を見ながら遊佐は呟く。
「まぁいい小遣い稼ぎになるらしいからな。ところで小僧。黒銀二十だ」
「黒銀……俺はまだここの通貨はよくわからないんだ。悪いがここから勝手に取ってくれるか」
言いながら遊佐は財布ごとクチナワに渡した。中には両替商の元で昼の世界の物品と交換してもらったこの町の通貨がいくらか入っている。